ザビ神父の証言

ザビ神父の証言

2009.01.29
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カテゴリ: 民衆の歴史
マリア信仰の形成(12)

カトリック教会の聖母マリア大作戦、女達の母性をくすぐる作戦はは、大成功を収めました。こうして慈しみ深いマリア像は、母から子へと伝えられ、各地に様々なマリア信仰をもたらしました。観音菩薩信仰とマリア信仰が結びついた、日本のマリア観音などは、その一つの典型と言えましょう。

しかし、ここで言う「母から子へ」と言う時の「子」というのは、あのぐるぐる巻きにされた赤子や幼児を意味しません。上流階級の子女は、6歳を超えても乳母や傳役の手で育てられますが、食事は父母と一緒にとることが許され、他にも何かと面会が出来ることになります。中産階級の家庭では、労働の助手として、父母と一緒に過ごすことになり、特に母親から、色々な話を聞かされるのです。貧民家族では、その時間は長くはなく、家事奉公人や見習い工員や商家の丁稚などとして、住み込みで働くことになるまでの短い時間、やはり母から話を聞くのです。

そうなのです。女達が母性に目覚め、聖母マリア信仰が広まってもなお、赤子や幼児はまだ大人たちの目に入らないのです。加工が必要なので、後ほどアップさせていただきますが、慈愛溢れる聖母マリアを何点も描いている、あのラファエロでさえ、赤子や幼児はきちんとそれらしく描けていないのです。彼の描く赤子や幼児が無邪気に動かしているかに見える脚を見てください。その肉付きやがっしりした太さは、明らかに少年の筋肉を持っています。

ぐるぐる巻きの幼児の脚は、ラファエロをもってしても、しっかり観察できなかったのでしょう。18世紀においてもなお、余裕のある家庭の妻は、出来るだけ沢山の子を産むことを期待され、産んだ子は次々に乳母に渡して、次の妊娠に備えていました。何人産んでも子ども達は、成人するまで育つかどうか分かりませんから。中産階級や都市貧民は、労働のために産まれた子を里子に出し続けていました。そして農婦たちは、収入にならない我が子よりも、預かった里子たちの面倒を優先するしかなかったのです。

赤子は母乳で育て、母自らが養育することの重要性を、世の母親達に説いたのは、18世紀の啓蒙思想家たちでした。とりわけ、ルソーの著した『エミール』の効果は絶大だったと言われます。彼の著作で、当時最も良く読まれたのが、この『エミール』と『ヌーベル・エロイーズ』だったのですが、上流階級の夫人達の間では、『エミール』にならって、母乳による育児が大流行するのです。少なくとも、赤子や幼児をぐるぐる巻きにする習慣は、この時期に一掃されています。

サロンの流行が、男達に、妻をサロンに顔出しさせない男という、レッテルを貼られたくないという意識を生んだことも幸いしました。サロンの効用が、上流階級の夫人の出産回数の減少に効果を発揮したのです。

しかし、中流や下層の人々の暮らしでは、まだ自ら赤子を育てるのは無理でした。19世紀30年代でもなお、農村へ里子に出す習慣は、頑なに守られていたのです。少なく産んで大事に育てるという発想が、中産階級の間に広まるのは、19世紀半ば以降に、ようやく上下水道の分離が実現し、赤子や幼児の死亡率が大きく減少した結果として、生まれて来るのです。

慈愛溢れる聖母マリアが、深く敬愛され、大いなる支持を集めたのは、産んだ子を自ら育てることの出来ない母親達の、悲しみと憧憬の表れだったのかも知れません。





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最終更新日  2009.01.29 21:46:15
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