ザビ神父の証言

ザビ神父の証言

2009.01.31
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カテゴリ: 民衆の歴史
風呂はいらんかね マルレの石版画集より(3)

確かにワイン樽のようにも見えますね。しかし、当時のパリには、「犬も歩けば酒屋に出会う」の類で。数多くの酒屋や居酒屋がありました。ですから、わざわざ荷車を使っての酒売りは、商売にはならなかったでしょう。水売りは確かにありましたが、これは明日紹介しましょう。樽の中身の原料は確かに水ですが、この樽の中はお湯になっています。

そうなんです。タイトルでお分かりの通り、この絵は出前の風呂屋を表しています。一般に西洋人は、日本人のように風呂好きではありません。空気が乾燥していますから、毎日風呂に入ることなど先ずありません。

それでも19世紀の20年代ともなると、大金持ちの屋敷には、浴室を備えたお屋敷もチラホラしてきます。奥方ともなれば、多量の水を運ばせて、週に2,3度の入浴を楽しむようになっていました。セーヌの河畔などには、風呂屋も登場し、1830年の記録では、パリ市内に78軒の風呂屋が営業していたことが分かっています。

しかし、この時代の中流ブルジョワの家庭における最も一般的な入浴法は、風呂の出前を頼むことでした。といっても事柄の性格上、流し営業は先ずありません。業者は、時間予約を受けて、目的に屋敷を目指すのです。ただし、予約をとる必要がありますから、出前風呂と分かるように、風呂屋に許された鳴らし方で鈴を鳴らしながら、目的地に向かうのです。

大八車を重そうに引く、最も下層の業者から、数頭の馬に引かせる最上級の業者までがありました。この樽の内部に竈が取り付けられていて、湯の温度を一定に保つような工夫が施されていたようですが、残念ながら私も実物を見る機会には、恵まれておりません。

目的のお宅に着くと、2人の男が脚輪のついた鉄製の枠を持ち込んで、その中にニスを塗った革の風呂桶を設置して固定するのです。次に革袋に入れたお湯を運び込み、客の好む湯かげんにするのです。時間は30分。入浴時間が過ぎると、男たちが戻ってきて、風呂桶を空にして、たたんで持ち帰るのです。

料金は、季節と時間によって、幅があり、現在の金額に直すと、およそ1700円程度から4000円までの幅がありました。当然、夏場より冬場が高く、時間で言うと、夕方の5時、6時台がお高くなっていました。舞踏会や観劇に出かける前のおめかしの時間というわけです。

アレクサンドル・デュマの人気小説『三銃士 20年後』の冒頭、ダルタニアンが金持ちの未亡人を射止めて引退したポルトスを訪ねたシーンで、ポルトスが入っていた風呂は、まさにこうした出前風呂です。ただし、『三銃士20年後』の舞台は、1848年のフロンドの乱とイギリスにおけるピューリタン革命、チャールズ1世の処刑などが舞台ですから、この時代に出前風呂があるわけがありません。その点、デュマの時代考証は、まるで好い加減で、19世紀の自分の眼前の出来事を、過去の時代に平気ではめ込んでいるのです。






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最終更新日  2009.01.31 20:14:50
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