ザビ神父の証言

ザビ神父の証言

2012.01.15
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カテゴリ: 国際政治
クロニクル スロベニアとクロアチアの独立

1992(平成4)年1月15日

もう20年になるのですね。20年前のこの日、欧州共同体(EC)は、前年6月にユーゴスラヴィアからの独立を宣言した、スロベニアとクロアチアの独立を承認しました。

第1次世界大戦後に南スラヴ系諸民族の連邦国家として成立したユーゴスラヴィアは、民族のルツボと呼ばれたほど、諸民族が混住するモザイク国家だったのですが、第2次世界大戦後は
ドイツとイタリアのファシズムと共に戦ったパルチザン体験と、そのパルチザン闘争の中で登場したチトーというカリスマの存在によって、連邦への求心力が保たれていたのです。

しかし、スロベニア人が91%強を占めるスロベニアを除けば、クロアチアでのクロアチア人の比率は75%に留まり、モンテネグロは69%、マケドニアは67%、セルビアは66%と中心民族の構成比率は下がり、ボスニア・ヘルツェゴヴィナに到っては、ムスリム人(イスラム教徒は、ここでは独自の民族として認知され、ムスリム人と称されていました。西欧世界ではユダヤ教徒をユダヤ人と称して、差別しましたが、ここでは西欧流とは異なり、民族としての対等の権利を付与するための措置でした)41%、セルビア人32%、クロアチア人17%となっていました。スロベニアを除けば、民族の混住はこのように著しかったのです。

そのため連邦を構成する各共和国は、義務教育段階から、統一言語による国語教育を実施せず、諸民族言語による教育を是認していたほどだったのです。それは連邦の維持を目的とした


しかし、80年にはチトー大統領というカリスマが死去、パルチザンの記憶も戦後35年という歳月の流れの中で風化してしまいます。折りから第2次石油ショックによる深刻な経済危機からの脱却も適わず、ここに、西欧に近く連邦内経済先進地域であったスロベニアとクロアチアは、貧困地域への税による富の再配分を嫌い、連邦からの独立を希求するようになっていきました。独立宣言はその結果でした。

民族混住が問題化しないスロベニアは問題がないのですが、クロアチアには、セルビア系住民が人口の12%(約60万人)を占めていたため、クロアチア民族主義者による圧力を受けた弱い立場の人達が、セルビアに保護を頼み、クロアチア内戦(クライナ問題)となったのです。

内戦は国連の仲介により、クライナ地方に国連保護軍を展開することで小休止となり、この日、ECはドイツの強い主張を受け入れる形で、スロベニアとクロアチアのユーゴスラヴィアからの独立を承認したのです。

クロアチア内戦の過程と、このECによる独立承認の結果、緩やかな連邦でったユーゴスラヴィア内各共和国の独立志向は強まり、やがて全ての共和国が独立を宣言するに到るのです。こうして、旧ユーゴスラヴィア諸地域における内戦は93年から激化する、あの凄惨なボスニア内戦に移ってゆきます。

旧ユーゴスラヴィアの諸地域における情勢の推移を十分把握せずに、独立承認を急いだECの責任、特にECの議論をリードしたドイツの責任が極めて大きかったことを指摘しておきます。






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最終更新日  2012.01.15 01:00:59
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