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第2候補は駅前の居酒屋『樽元』。
長いカウンター席に空きを見つけ座ることができた。
多少の余裕があった。
多少の損をした気になったが、酒の味はどちらも同じであろう。
席の隣には、
髪を黄金色に爆発させた女子学生とその友人、
反対側には
OL
4人組。
その間で私は一人で酒を飲んでいる。
OLたちは食べるピッチが早い。
酒を飲むピッチも、また飲む種類も多様である。
うー、しゃこ天がうまい。甘い。
500円。
3:盗み聞き
私は耳をすましている。
そこへ突然、さわらのみそ焼きが。
ちょっと待て、思ったよりずっと小さいが、旨い。
300円。
気を取り直して、耳をすましている。
黄金色の女が話している。
話相手はノーマルな頭の女子大生だ。
彼等は恋愛論を語っていた。
基本的には、女の酒は奇麗だ。
黄金色はミッチーというらしい。2人から断片的に話が漏れてくる。
「好きになったらどこまでもよ。
つれなくされても、好きな理由はたくさんあるわ」
これ名言だな。
「7ヵ月も続いているのよ。
私の最長記録。ここで別れたらショックでしょ」
と言うことだそうだ。彼女たちの恋はチャットサイズなのだ。
4:女のルール、男のルール
恋愛論を語る上での女のルールは、だいたいにおいて一方通行である。
一人が自分の実情について物語り、それを他方が人生相談するのである。
物知り顔で答えるが、同じだけの人生しか歩んでいない。
できることは、肯定することだけなのだ。
「分かるわ」
この言葉だ。
ここで、「バカだ、ちょんだ」と反対する人は友達にはなれない。
そこに存在する理由は擁護者だからだ。
聞くことだけ、話は受け身に聞き流すという事らしい。
これが男だと、
「バカだ、ちょんだ」とどやして、
知ったかぶりで「当たって砕けろ」と言う。
多くは砕け散るのを期待している。これが男のルールだ。
5:携帯電話の登場
とうとう携帯電話が登場した。彼氏に電話している。実時間の恋愛講座だ。
分かった。私はひらめいた。
彼女達の時間軸は、私と違うのだ。
超ハイスピードの空想空間で恋をしているから、結論が早いのだ。
その分、多くの恋ができるのかも知れないが、
そこにとどまって考えている時間はない。
つまり、
実
空間における恋を楽しんでいる暇などないのだ。
今の時代、時間の流れがどんどん速くなっている。
携帯のボタンを押すことで、
人はその流れに命綱を投げ込む。
自分がその流れに沿って、連れていかれる感覚に酔えるのだ。
ここで、2人は退場した。
速い。食べるのも、飲むのも、しゃべるのも。
とても奇麗なお酒でした。2人でビール2本。熱かんを大小1本ずつ。
これでは酔わないだろう。
6:一人酒について
騒がしい店で一人酒をしている人を見ると、大体が他人を見ている。
他人を肴に飲んでいるのだ。
それは寂しい酒なのだろうか、
それとも実空間の世界との接点を楽しんでいるのだろうか。
その酒は他人からみれば、
明らかに寂しい酒だ。
しかし、当人にとっては、
この酒が無いほうがもっと寂しいのだ。
パリでローストビーフとワインで夕食を楽しむ老婦人がいた。
その時の老婦人は、初めてパリに来て浮かれる学生たちの、
賑やかな食事風景を見て微笑んでいた。
老婦人にとっては、喧騒の場が生への繋がりを感じる時だったのである。
7:一人酒の練習
私は一人酒を練習している。
一番楽なのは、居酒屋のメニューに『お進めコース』があって、
順番に料理が出てくる時だ。
「これ何ですか」、「おいしいですね」、「今が季節なんですか」
板さんや、仲居さんにその都度、質問していればいいのだ。
一番やっかいなのは、ごく普通の居酒屋に入って、
雑音の中に身を置くときだ。
今の私である。
私はそんなとき、何かをメモする振りをしている。
それは逃げだ。
じっくり酒を飲め。
寂しい酒を。
8:酔った
地酒、極聖(ごくきわみ)+5度、300
ml
を2本。
酔った。
でもね、
酔ったら男の本懐は遂げられないのだ。
先程、見るからに金持ち風の男ときらびやかなの女が入ってきた。
秘め事前の腹ごしらえといったところである。
男は巧みに自制している。
大生ビールの後は、酎ハイなのだ。
飲みたいが飲んだら役たたずになる。
その葛藤なのである。
「お兄さん、さわらのみそ焼き、お願い」
女の鼻にかかった声を最後に、私は店を出た。
9:ポン引き達の夜
妄想を絶たれて、一人酒に酔いしれた後、
直ぐにはホテルに帰り難くて、夜の街を彷徨った。
繁華街を離れ、公園につながる道に出る。
そこで自転車に乗った50過ぎのおじさん
A
から声を掛けられた。
振り向くと、
おじさん
A
は小指を立てて単刀直入に用件をおっしゃった。
「女いらんか」
私ははじけるように笑ってしまった。
女はものではないぞ!
私は相当に酔っていた。役立たずだ。
手を振って、そそくさとその場を2〜3m歩いて、
ちらっと後ろを振り向いた。
おじさん
A
は自転車をころがし、次なる獲物を求めて行った。
私はその姿にもう一度腹を抱えた。
そして私は頭を元に戻した。
そこに、にこにこ顔のおじさん
B
がいた。
10:必要悪
おじさん
B
のにこやかさに思わず私は聞いてしまった。
「何ですか。これですか」
私は小指を立てていた。
「必要悪ですから。いいんですよ」
「私、経験ないんですよ、勇気がなくて」
そんなこんなの話をしていたら、話が横にずれていった。
「今、若い流れ者と同居してんだよ。袖振り合うもなんとかってやつでね。
そいつはここに流れてきて、女とくっついて、子供を作ってしまった。
その女と子供のために働いていたんだけど、
どうにもならなくなって、別れてしまったんだ。
田舎に帰ると言ってたが、今ごろいなくなったかもしれない。
俺、最近家に帰っていないから」
多くのことを一気に語ろうとしているので、
話が飛び飛びになってしまっている。
人情話で私を信用させようとしているのか、
それとも自分の心配事を誰かに聞いて欲しいのか。
「
たしょうの縁だよ。
袖振り合うもたしょうの縁
」
「えっ」
おじさんは、ぽかんと口を開けている。そして、
「たしょうって、どんな字だ」
「知らないよ」
にこにこしながら、私はおじさん
B
もパスしていった。
11:追伸
多生:仏語。
1、何度も生まれ変わってくること。
2、多くのものを生かすこと。
へえー、こんな字書くんだ。多少だと思っていた。
袖振り合うも多生の縁[CD] / Chicago Poodle
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