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2021.02.22
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カテゴリ: 心暖物語
​エロかわいいアニメを使ったお酒のCMに『​ カッパパー~ ​』がある。
日本人は桜に対して、狂喜乱舞する民族だ。
あの短い期間に、人が変わったように咲き乱れる。
今年はどうだろう。ストレスを吐き出すことが出来るのだろうか。

「いい恋していますか」
挨拶代わりに、こんな言葉を軽々しく吐く人がいる。
相手とすれば、考えるだろう。
冗談と取るか、本気で聞いているのか。

そして思わず。
「彼氏、いない歴、3ヶ月です」 って、まじめに答えたりすると、
「そんなの聞いてないって」 と、さらりとかわされたりする。
やはり、ただの挨拶だったのだろうか。


** 春爛漫 いい恋していますか**

私の仕事を例えれば、砂漠を行くキャラバンだ。
もっとも、隊商の構成員は私だけである。
ラクダもいない。
共通点はいつもオアシスを求めて、彷徨っているところだ。

新大阪から、大阪環状線、阪和線を経て和歌山市内に入った。
目ぼしい取引先を回ってみたが、手ごたえは皆無だった。
まあいい、
大して期待もしていない。

さらに紀ノ川沿いを縫うように走っている
和歌山線に乗り、奈良方面に向かった。
途中にある、ここ五条に今日は宿を取ることにした。
駅前のビジネスホテルにチェックインして、町にオアシスを求めて出た。

定食屋で軽く食事をとり、裏通りで見つけた、
日本風のショットバー『吉野』に入った。
入り口ののれんはもちろん桜で彩られている。
万葉調の美人ママに出迎えられるのかと期待が高まる。

ところが、
カウンター越しにこちらに顔を向けたのは、
小柄で気のよさそうな
40 代のバーテンダーだった。
そのバーテンダー の前のカンター席に、一人の女が固まっていた。

2 人の間には、
1 脚のスタイリッシュなグラスがスポットライトを浴びて鎮座している。
バーテンダーが今まさにシェイカーから
カクテルを注ごうとしているところで、動作が止まっていた。

早く座れ、お前を待っていたんだ。
とでも言い出しそうな命令口調の視線で、
バーテンダーは、手前のカウンターを指示した。
そして、おもむろにピンク色の液体をグラスに注いぎだした。

カクテルグラスの底から 1 条の希望が上空を目指し、室内に放出される。
女は私の存在を全く無視して、その液体を夢見していた。
私は、入り口近くのカウンター席に座り、
いつものように、ジョニ黒のロックをダブルで頼んだ。

私は、……。
女とは違う世界にいたかった。
バーテンダーがカウンター越しに私の酒を作っている。
それが音で伝わってきた。

ロックを割る音。
小さくしたロックをグラスに滑らす音。
ジョニ黒を注ぐ音。
琥珀を混ぜる音。

準備が整った。私の、口の中の生唾も準備
OK だ。
すると、予期せぬものが私の前に、ポンと乾いた音をたてて置かれた。
日本酒のコップ酒についてくる升だ。
ロックグラスがその升の中に置かれた。

コースター代わりといったところだ。
さすがに升の中にジョニ黒がこぼれ出てはいなかった。
「何のための升だろう。日本もまだまだ広い」
辺境地に来た感想を一つ、述べてもみる。

店の奥のテーブル席に、
地元の若者と思われる集団が陣取っていた。
それと隔てるようにして、先程の女がカウンターに一人。
私はその女から、2つ席を空けて座っている。

升からグラスを拾い出し、
ロックを揺らしながら、
私は場の雰囲気を感じ取っていた。
若者たちからは時折、奇声が聞こえてくる。

言葉が関西だ。
『くゎんさい』と言うべきだろうか。
こてこてのお好み焼きを連想させる。
ねちゃっこい、響きが耳に残る。

「俺な、俺な、ものごっつう、おもろいこと思いついたで」
一人の若者が得意気に大声をだして仲間に告げている。
「俺がな、吉野山の広報担当者やったら、こんな
CM を企画しょう思てな」
吉野山は五条から車で 1 時間の桜の名所だ。

「何や? どーせ、しょーもないことやろ」
口紅の赤色が、一際目立つ女がつっこみの相の手を入れた。
「郷ひろみを使こうてな、歌わせるんや。
『出~会い~は、お~くせんぼん(奥千本)の~胸騒ぎぃ~♪』ってな」

「しょもなー。いね、いね。はよ、いんで、へえこいて、ねれ」
一同がどよめき笑った。
ちょっと古いひろみの曲によく反応できるなと感心しながら、
聞くとわなしに聞いていた私も、もらい笑いをしてしまった。

「『出~会い~は、お~くせんぼん(奥千本)の~胸騒ぎぃ~♪』か、
だとするとコーラスは『下千本~♪、中千本~♪』だな」
一人でくだらなさが伝染してしまったようだ。
悪乗りついでに歌を一句。ここは万葉調の奈良なのだ。

『桜郷(さくらさと)、歌のおひろめ(み)、奇声わく』

隣の女は、静かにカクテルグラスを見つめている。
人待ち顔ではない。ただの酒好きでもなさそうだ。
一人旅の観光客がちょっと、迷い込んでしまった。
そんな感じだ。

それにしても、女が一人でショットバーに入る世の中になったのか。
私のエゴは、“一人酒は男の特権”と思っているところだ。
私が 2 杯目のロックをバーテンダーに頼んだその時だった。
隣の女がぼそっと呟いた。

「いい恋、していますか?」
「何だって」
すっとんきょうな声をだし、
私は女の顔を覗き込んだ。

女はピンク色の液体を眺めていたが、
私の声に反応してこちらを振り向いた。
瞳がギラギラして、少し潤んでいる。
白目には脳溢血を連想させる、毛細血管が浮き出ていた。

女はすでに酔っているのだ。 それにしても唐突だ。
私が言葉をつなごうとしたとき、女は席を横滑りして、
私との距離をつめ、さらにカウンター上に上半身を預けながら、
私に顔を近づけてきた。

まるで、カウンターに乗った、
“垂れパンダ”状態だ。横にま伸びした口が再び開いた。
「いい恋していますか」
女は私にはっきり聞こえるように言い直した。

女の顔はキラキラと微笑んでいる。
一方、私は警戒心を募らせた。
それでも、ちょっとした間合いの後。
「していますよ」と答えてしまった。

相手は見ず知らずの女だ。見栄もあった。
「していませんよ」と答えるのは、恥に思えたのだ。
「いい恋をしていたら、私の悩みを聞いてくれますよね」
これは面白い。

話に何の関係も脈絡もない。
それを口にしても良かったが、
女の輝きに免じて、
私も笑顔を返してしまった。

女を、一言で描写すれば、美人だ。
細述すれば、大柄、ダイナミック、
豪快、魅力たっぷり、
それでいて年は
27 、 8 だろうか。

「何ですか? あなたの悩みって」
私は疑いつつ質問を返した。
「桜が散って行くのが悲しいんです」
私は声がでない。あきれているのだ。顔はしかめっ面をしているだろう。

「はあっ」出したとすればこんな声だ。
「今日、吉野山に登ってきたんです」
女はやや、夢うつつで話を始めた。
姿勢が垂れパンダなら、話し方も垂れパンダだ。

どこか空気が抜けている。
「下の千本、中の千本はすでに散っていました。
 それでも奥の千本には花が残っていて、今を盛りに花吹雪。
 それを見て私、胸が詰まされて……。

女は実際に胸をギュッとつかむ仕草をしている。
どこか芝居じみてきた。
「どうしてですか」
「だって、私と同じなんですもの」

「何が」
「散り際が」
そういうと女は一句ひねり出した。
ここは万葉調の……。

『桜吹雪(はなふぶき)、散り際の艶に 共感す』

女はそこでピンクの液体に口つけた。
私はあきれて前を向きなおし、
自分のグラスに集中することに努めた。
私の気が離れるのを戻すかのように女は話を続ける。

「まだ続きがありますのよ、
『桜吹雪
(はなふぶき) 、散り際の艶に 共感す。
 満開がいいって 君、青いわよ
』 By  お姉さま
 おそまつ」

女はカウンターに崩れるように頭を垂れた。
すぐさま、その顔を上げると、カクテルを飲みつないだ。
私は笑い出してしまった。
「うけちゃいましたね」

女の目がうつろに漂う。
私はちょっと女を苛めてみたくなった。
「そういえば、
 吉野の桜が私に言っていましたよ。

『私の場合、来年になったらまた咲くことができるのに、
 共感されてもねえ』って」
そして私はジョニ黒を一口。
女がこちらを振り向いた。どうやら睨んでいるようだ。

だが、どうみても白目を剥いて、むくれているとしか見えない。
「セクハラ訴訟、起そうかしら」
「それは困ったなあ」
私はまったく困っていない。

「『お姉さま』という方は自己採点としては、もう散り際なのですか?

 まあ、柿も熟柿(じゅくし)を好む人もいますし、
 干し柿でもいいという人も……」
私のセクハラ攻撃は続く。

さあ、どう切り返すのだろう。私は楽しみながら3杯目をお代わりした。
女は私の攻撃を2、3度切り返したが、やがて、
「私って、暇つぶしには素敵な相手じゃないですかあ」
そういうと、女は快い眠りについたのであった。

「常連さんですか」
心安らかな寝顔を見ながら、私はバーテンダーに尋ねた。
「いいえ、観光に見えた方だと思います」
バーテンダー は笑いながら答えた。

そして バーテンダー も一句。ここは万葉調の……。

『春爛漫。今宵は花見、酒三昧』


おまけ:景気づけにこのCMで​ エキゾチックジャパン ​。




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最終更新日  2021.02.22 11:44:33
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