PR
カレンダー
カテゴリ
コメント新着
キーワードサーチ
春になると、新入社員が入ってくる。
毎年毎年、職場が華やぐものだ。
マドンナなんて、
ちょっと古臭い言葉なんかで持て囃されたりする。
でも、
よく考えて見ると、
毎年入ってきたら、
マドンナの賞味期限は一年ということなのか?
そういえば、
原田知世がアコーディオンを弾きながら
ドイツのワイン
『 マドンナ
』のCMに出ていた。
**マドンナ**
今年もニューフェースが会社に訪れる季節になった。
バブルが崩壊した後、
女子の新人補給が長らく無かった我が営業第3課にも、
今年一人配属されたのだ。
見るからに、人から好かれそうなタイプである。
美人というよりは、かわいいと呼ぶにふさわしい。
優秀というよりは、賢いである。
しっかりしているというより、少し間が抜けている。
男性社員にとっては、
思わず手を差し伸べてしまう女性なのだ。
今日は会社から直ぐの小さなスナックを貸し切っての、彼女の歓迎会。
7時過ぎには主だったメンバーが揃い、会が始まった。
基本的に私は大勢で飲むのは好きでない。
一人、
ジョニ黒のオン・ザ・ロックを
傾けているのが性にあっている。
会では先輩風を吹かせて、会場の奥まった席を陣取った。
私のテーブルには年配の社員が固まった。
それでいい。
若者は若者同士うまくやればいいのだ。
新人女性の名前は高橋未帆という。
司会の男性社員が皆にそう紹介した。
乾杯の後、
さっそく新人さんの自己紹介だ。
私は静かにロックを傾けている。
ただし、
ジョニ黒ではない。
ここではそんな贅沢は言えないのだ。
「たかはし、マホです。
私の母親が宝塚かぶれで、
このような名前をつけられました。
完全な名前負けですが……」
いつもこのように名前を売り込むのだろう。
すると限って、若手の男性から。
「そんなことないよ。かわいいよ」
と酒の席では声がかかる。
彼女はつかみを心得ている。
私はアルコールを補給しながら、
新人君の屈託の無い笑顔に
感心していた。
「それでは質問タイムです」
司会者はそう言ってからすかさず、
「まずは私が代表して、恋人いますか」
司会者はそれほど飲んでもいないのにハイテンションである。
それが時には羨ましくもある。
ひとしきりのどよめきが収まってから。
「えー、ご想像にお任せします」
と、かわい子ぶる。
この時、男性諸氏は
『かわいい』
と例外なく心の中で思うのだろう。
当の私も思わず
口元がにやけてしまった。
ところが女となると反応は複雑である。
この手の話題は自分が収まるところに収まっている人。
つまり、結婚している人。
恋人がいて幸せな人は暖かい視線を送る。
しかし、
そうでない人、
俗にいうところのお局さんにとっては
たまらなく神経を逆なでされるのである。
「けっ」
そんな捨てセリフが聞こえてきそうだ。
我が課にも一人いる。
遠山みどり。
30才の半ばと思う。
私は彼女の入社当時を思い出した。
彼女もそのころは今の高橋未帆と同じく、
ちやほやされたのである。
課のマドンナとして長らく君臨していた。
それがいつからか、
お局に名前が変わった。
気が付けば、そうなっていたようだ。
高橋未帆へ質問が次々に浴びせられた。
愛のムチと言ったところだろうか。
高橋未帆はそれをことごとくかわしていく。
当てられるものなら当ててみなさいよ、とでも言わんばかりだ。
場の男たちの視線がグングン彼女に引き寄せられていた。
私はそんな中、2杯目のロックを傾けながら、お局さんを盗み見た。
お局さんは、新人を見ていた。静かな、刺すような視線である。
決して浮かれていない。しかし、寂しそうでもない。
その視線が不意に、私に向いた。
そして動こうとしない。
瞬きもなしだ。
私はドギマギした。
あわてて視線を彷徨わせる。
高橋未帆を見て、司会の若者を見て、
課長の禿げ頭を見て、昨年結婚した彩ちゃんをみて、
こっそり、お局に視線をもどした。
そして再びその視線が捕捉されてしまった。
ドギマギの2乗だ。
(どういう事だ)
私は冷静に考えてみようとした。
(確かに彼女はお局だ。しかし、社外でみれば美人で通る。
30才半ばだが、見かけはもっと若い。性格もそこそこいいはずだ……。
私は何を言っているのだ。お局を擁護してもしかたないじゃないか。
まてよ、おれは惚れられたのかな)
私は落ち着いて視線をお局に戻した。
すると彼女はにこやかに笑顔を返してきた。
私は益々、訳がわからなくなった。私も独身である。
しかし、惚れられる理由が思いつかない。私はトイレに立った。
トイレで用を足し、
洗面所で顔を洗って、出てきたところにお局がいた。
「何をうろたえているんですか」
お局
に見抜かれていた。
「いや、その。
私はこういう雰囲気が、あまり好きじゃないんだ。
こんな場にいると、どうしてか、
一人の世界に浸り、他人の姿を眺めているのが常なんだよ。
皆を眺めていたら、
遠山さんだけ、
静かだったからつい興味を持って見ていたら、
視線が会ってしまったんだ。申し訳ない」
「そんなに寂しそうにみえました」
「いや、そんな事は言ってないよ」
私はまた、
うろたえてしまった。
「顔にかいていますよ。
私、新人さんを見ていて、昔を思い出していたんです。
私もここで質問攻めされたなって、覚えていますよね質問した人。
その人に責任とって貰おうかなって考えていたんですよ」
そう言って彼女は、意味ありげな笑みを残し、元の席に戻っていった。
取り残された私は一時呆然としていた。
「あっ」
私は自分でも驚くような大きな声を出してしまった。
その時の司会者、私だった。
MDNA [ マドンナ ]
私のテーマ変更:『酒場あるある』から『… 2021.03.15
めでたい酒は美味いもの 2021.03.13
ワインを女で例えると 2021.03.12