キイロの洞窟

2010.06.06
XML
カテゴリ: 小説


24時間営業のATMから出て来た彼の金をひったくる、
やくざ風の男は、彼の頭をドツつきながら言い放った。

「この街は物価が高いんだよ、それ分かって遊んでもらわなきゃよ~
警察に言っても無駄だぜ」

彼は「それにしても高すぎるじゃねーか!!」
という怒声をやくざ風の男の背中に浴びせたつもりが
心の中で唱えていただけだった。

彼は30代半ばのサラリーマン、仕事で課長の尻拭いをさせられ、

その不始末のせいで本日リストラをくらい、
その憂さを晴らすために、街へ繰り出した。

繁華街をあてもなくフらついている時に、
20代前半のちょっと男好きする女に
声を掛けられた。

「ひまですかぁ~良かったら今から一緒に飲みにいきません?
私彼と別れて寂しいの」

女の言葉を真に受け、女の知っているという店?に
連れて行かれた。

しかしそこに罠が仕掛けられていた。

女が冴えない自分に声を掛けてくるはずが無かった。



「トイレに行って来る」と言ったきり
女は戻ってくる事はなかった。

そして高額な料金を請求され、所持金もなく、
ATMまで連れてこられ貯金を下ろし、
高額な金を支払った。


何事にも泣き寝入りしてしまう、
そんな男だった、子供の頃からずっと・・・


繁華街の一部とは誰もが思わない、
路地1本入ったコスモス通りは
ネズミが愛を囁くような湿っぽい、
暗い通りで 普通の人は寄りつかない。
ほとんど廃墟に近いゴ-スト路地だった。
通りの両側は元飲み屋と思しき店がビッシリつまっていた。
各店、昔は営業していたと思わせるには十分な感じで、ほとんど居抜きのまま、
誰にも借りられることなく、古ぼけて残っている。

その路地のつきあたりにある店だけは、いまだ営業していた。
「500's BAR」という店だ、すすけたレンガの壁で店の入り口の扉に
「500」という看板が掛かっていた。

カウンターが横並で、5人が腰を掛ければ満席の小さな店である。
500という数字の名のとおり、500円ですべて注文を取れる店であった。

そしてこのコスモス通りに誰もがたどり着けるわけじゃない、
不幸や悲しみを背負った人だけが勝手に吸い寄せられていく、
どのレベル以上なら入店できるのかはわからない。

これは作り話であって、そんな店など本当は実際しないのかもしれない。
この店で、飲ませて貰えるのはスコッチでもなくビールでも、
気取ったカクテルでもない、 妄想に酔わせてくれる夢のカクテルを
出してくれるという店であった。

500'BARを経営しているのは年の頃は60代半ば、綺麗な真っ白の白髪を
後ろになでつけている。

客が店を訪れようと訪れまいが毎日クリーニングに出している。
マドラスチェックのカマ-ベストに黒い蝶ネクタイ
そして糊の利いたワイシャツに黒いスラックス。
彼はそんな井手達で35年も過ごしている。

そんな彼が作り出すカクテルは人々を酔わせるのだ。

秋というより冬と呼ぶのが相応しい10月の下旬、
時刻は午後22時少し前、今日も一人の客がやってきた。

肩を落とした30代半ばの男だった
背が高くも低くも無い、顔も日本人典型的な顔で、特徴の無い男だった。
ただ生気をなくし、肩をおとし、生まれてこのかた死神に取り憑かれて
いるような重い空気をはなっていた。

スツールに腰掛けた彼は
「感情の出せる、行動できる、言いたい事言える、
うーん とにかく自分が強くなれるカクテル」と彼は言った。

「かしこまりました。」とバーテンはポツリと言い、
カウンターに背中を向けて、酒棚を端から眺めて
黄色の液体の入った酒壜と水色の酒壜を手に取った。

すばやくシェーカに2つの液体を入れると蓋をしめ、
シェイクし始めた。
祈るように、願うように、彼の目を見つめながら・・・・・・

「おまちどうさまです。」バーテンは不思議な色の液体の入った
小さなカクテルグラスをコースターとともに彼の前に差し出した。

彼は無言でカクテルグラスを握り締め
壁の注意書きを一瞥した。

「夢から覚めた後については一切責任をもてません。」

そう、バーテンは客のリクエストするカクテルを
作ってやる事は出来るが、その人が妄想の中でどんなに
楽しもうが妄想から醒めた後どんなにがっかりしようが
責任をとりませんという意味であった。

自棄になっている彼にはもう関係なかった。
グラスを口に運び、一気にあおった。

急に目の前がピンク色になってきたかと思うと、
体中が熱くなってきた、胸がどきどきして、
心臓は破裂しそうだった。

「ご馳走様」といってスツールから立ち上がり
500円硬貨をカウンターに置き、店を後にした。
街は風が吹いていており、とても寒かった。

繁華街のネオンを浴びながら、さてどうしようかなと考えていた。
仕事もクビ、家族がいるわけでもない。

そんなボーッとしている
彼に前から声が掛かった。

「あのーすいません、今、手相の勉強しているですが、
ちょっと拝見させて頂いてよろしいですか?」
中年の女が声を掛けてきた。

彼は「またか」と思った。
以前にも街を歩いている時に声を掛けられ
手相を見せていると、占人たちは彼にこう言った。

「本当は寂しがり屋ですか?面倒見が良いでしょ!」

気分を害さない悩み事を、さも手相で占っている
フリで巧みに言う。

まず手相を見せるところまで行くと、
そこに罠が仕掛けられている。

「でも安心してください、手相は修行や行いによって
自分自身で変えられるのです。
そして必ずいい方向へ自分自身で導くのです。
私たちの先生なら貴方を言い方向に
導いてくれから、先生に会ってみませんか」

巧みな言葉で誘い、雑居ビルの一室に連れて行かれる。

すると胡散臭い初老の親父が出てきて、
「運を変えるにはこの壺を持ってないさい」と言って
高額な値段で壺やら掛軸などを売りつける宗教だった。

その時は幸いにも隙を見つけ、そのビルの一室から
全力疾走で逃げた。

(第2章へ続く)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.06.06 15:10:27 コメントを書く
[小説] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

イエローW130

イエローW130

Archives

2026.10
2026.09
2026.08
2026.07
2026.06

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: