HANNAのファンタジー気分

HANNAのファンタジー気分

November 28, 2017
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 この三者に共通なのは、ずばり、人間=死すべきさだめ(mortal)と不死(immortal)の両方の世界を知っている、という点だと思います。

 緑の妖精王エルフェルムは、不老不死であるものの、祖父が人間であるため人間の性質(mortality)も持っています。人間であるローゼリィを養女とするのはその現れだと思われます。彼はローゼリィを風にたとえ、

  最愛の者であるからといって 森を渡る風をとめる者は いないでしょう
  とどめれば風は 命を失います  --中山星香 『妖精国の騎士』 第3巻

これは、妖精の姫アンフィリアンの「私なら腕の中に抱きしめて」どこへも行かせずともに滅ぶ、という愛し方とは、まったく異なります。永遠不変ではなく、移ろいゆく命を愛するのが mortality なのです。

 また、闇の神皇子オディアルは人間として生まれ出ることで、封じられていた獄から脱出。ローゼリィが光の剣で「殺す」まで人間として生きたため、後に魔神として復活してもなおいくらか mortality を持っています。


 mortal/immortal についてさらに…
 この物語ではヒロインのローゼリイが人間でありながら妖精国で育ちます。不老不死ゆえに、人間の人生観・世界観とは異なる考え方を持つ妖精や魔族を登場させることで、たとえば

  多分不死の一族である妖精たちにとって私は
  夏の初めにとらえた珍しい蝶のようなものなのだ  --第2巻 ローゼリィのせりふ

というふうに、人外の目線から人間の一生のはかなさを描き出しています(これは トールキン の手法でもあります。彼はときに不死のエルフの視点から、人間(ホビットをふくむ)や現世(中つ国)の諸行無常を語ります)。
 星香ワールドでは特に、mortality をはかないと感じるのは、当の人間ではなく不死の種族のようです。人間たちは日々年月の移り変わり( 変化 )を営々と生きながらえ寿命を全うするのに一生懸命で、それこそが充実した幸せであると、作者は繰り返し語ります;

  アルトディアスの 朝と昼と夜
  あの毎日毎日の 繰りかえしが 私には 私自身よりも 大切だったんです  --第2巻 ローゼリィのせりふ

 一方、不死の種族たちは自らの永遠性( 不変
 しかし、仙境にも冥府にも、ローゼリィや運命を変えるサフィールと関わり合うことで、様々な変化が生じてきます。たとえば火の妖精王は彼女を排除しようとしますが、試みるほどに、ローゼリィの影響を受けて彼自身が変わっていきます;

  限りある生命の人の子が…
  自らの生を捨てて 無私に 運命の荒れ地を 切り拓かんと しているのだ
  かかる美の前には 我々不死の民は 黙して 首をたれるしかあるまい  --第9巻 火の妖精王のせりふ

 このとき彼はローゼリィを殺そうとして殺せませんでした。不変の妖精が考えを変えたのです。


 ここで問題なのは、エルフェルムとオディアルは人間性を持つゆえに、もともと不変性に倦怠感を抱いており、純粋な不死者よりサフィールの影響を受けやすいということです。
 オディアルは復活後、さまざまな魔族が自分を慕って集まって来るのに対し、

  冥府が かくも退屈な所であったとはな…  --第27巻

と、以前とは違った感情、つまり倦怠感を持ちます。この種の感慨は、彼に不動の忠誠を尽くす部下の魔物ジャディーンなどには理解し得ないようです。純粋に不死の者は、自分や相手の不変の本性に飽くことはありません。

 移ろう生を愛すエルフェルムと、不変の冥府に倦むオディアル。しまいにエルフェルムは人間に関わってはならぬという妖精の禁を犯して、ローゼリィとオディアルの戦いに介入し、オディアルもまた、ローゼリィを殺そうとする考えを変えます。
 何となれば、ローゼリィを闇に殺しサフィールの魔力を得て完全な優位を確立してしまうと、あとに続くのは永遠の不変だけだと彼には分かってしまったからです。他の魔神なら永遠に満足し続けるでしょうが、人間性を持ってしまったオディアルには永遠の倦怠が待っているのです。

 グラーン王は、もっとはっきりと倦怠を感じています。自らを不死にしている「守りの玉」を「邪魔な配慮」(第54巻)と言い切る彼は、いくさに勝って領土は広がれど愛する王妃も亡く、二人の王子も彼自身の子ではなく、安泰で孤独な日々に倦んでいます。第2王妃のアストリッドはそれを「永劫の闇」と表現しました(第28巻)。
 彼の唯一の息子アーサーは父の真実を見抜いています;

  平和の中で辟易する/それが貴方の 正体だ
  幸せそうに 見えないな/楽しく なさそうだよ グラーン国王  --第53巻  

 玉がくだかれ実の息子アーサーと戦って倒れたとき初めて王は、「久々に面白くて…な」(第54巻)と嬉しげに笑い、死んでゆきます。彼はついに永生の呪いから解き放たれたのです。

 このように、有為転変 mortality を知ってなお immortal(不変)であることは、倦怠を生むのです。不死者にとって、世界に倦むことほど恐ろしいことがあるでしょうか。倦怠感は永久に続く業苦となるでしょう。これこそ、サフィールの持つもう一つの呪いなのです。

 それはトールキンの 『指輪物語』 では、“ weary of the world ”「世界に倦んで」と表現されています。中つ国に移住した長命なエルフたちは、その時の移ろいの中で「世界に倦み」、ついには次々と西方の楽園へ旅立って行きます。
 また、指輪の力で寿命が延びたビルボが、その幸せな日々にさえ倦んで、

  そう、何というか、薄っぺらになったという感じ、わかるでしょう、『引っ張って引き延ばされた』っていう感じなんですよ。〔中略〕こいつはとてもまともなこっちゃない。わたしには、変化というか、何かが必要なんです。  --J.R.R.トールキン 『旅の仲間』 瀬田貞二訳

と言っているのも思い出されます。

 以上、星香さんがなかなか続編?で「永生の呪い」の種明かしをなさらないのを良いことに、私なりの謎解きをしてみました。





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Last updated  November 29, 2017 01:04:36 AMコメント(0) | コメントを書く


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