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逆説的かもしれませんが、私は核兵器の非人道性が地に平和をもたらすかもしれないと思うのです。平和外交とは力が背景にあると考えた(英国首相のウィンストン・チャーチル)
リチャード・ニクソン著「指導者とは」より。50年代、若手政治家として頭角を表したニクソンに述べた言葉。彼はこの回顧録で、チャーチルとの思い出を冒頭に、そして一番思い入れを込めて書いている。確かに「力を背景にした交渉」というニクソンの見事な外交政策はチャーチル流だ。
六ヶ所村の日本原燃の施設の遠景。Wikipediaより。内部で写真は自由に撮影できない。
六ヶ所村に光る国際監視の目
青森県六ヶ所村にある核燃料サイクルを担う日本原燃の工場群を1日に見学させていただいた。職員の方の真面目さに感銘を受け、そして総額2兆円以上の巨大施設に驚きを抱きながら、私は普段考えない原発問題の隠れた論点「核兵器転用の阻止」を肌で感じた。ここで使われる技術、存在する核物質、特にプルトニウムの管理は、国際的に重要な問題なのだ。
安全保障面から原発はなかなか語られず、その情報を知る人も少ない。そのためにこのコラムで簡単な説明と、私見を述べたい。ここにはIAEA(国際原子力機関)の査察官、日本の文部科学省の担当官が監視のために常駐している。またウラン濃縮工場はIAEAから抜き打ち検査が繰り返されるという。しかも米仏などの主要国の大使が頻繁に訪れるという。世界的に注目された施設なのだ。
核燃料サイクルとは、原発の使用済み核燃料を再処理して使い続ける取り組みだ。核兵器保有国以外で、これが行われているのは日本しかない。その理由は、無資源国日本が、再処理で核燃料を増やすためとされ、事実そうであろう。それに加えて、秘められた理由もある。六ヶ所村の施設は、原燃、電力会社、政府当局者、そして国民が意識しているかは別にして、日本の核武装を止める役割を持つのだ。
原子力には核兵器という軍事利用、原子力発電という平和利用の二側面がある。ウランは、高濃縮をすると広島に落とされたウラン型原発の原料になる。また使用済核燃料に含まれるプルトニウムも長崎型と呼ばれる原爆の原料になる。また核物質は拡散させると「ダーティボム」と呼ばれる兵器になる。そして日本は約45トンのプルトニウムを持つ。日本で前者の論点は忘れられている。
六ヶ所村には日本原燃の6施設がある。「ウラン濃縮工場」「低レベル放射性廃棄物埋設センター」「高レベル放射性廃棄物センター」、そして使用済燃料の「受入貯蔵施設」「再処理工場」「MOX燃料(プルトニウム混合燃料)工場」だ。これらはもちろん平和利用の目的でつくられている。しかし軍事転用されないように、国際機関に公開、監視される一方で、テロリストや危険な国に情報が流れないように機密の多い施設になっている。
再処理工場は来年に本格稼動の予定だ。MOX燃料にも用いられる。そのために、日本の保有するプルトニウムは、再利用することで増加が抑制される予定だ。
核燃料サイクルのイメージ図(経産省資料)
「原発ゼロ」が壊すこれまでの積み重ね
この再処理が可能になるために、日本の先人たちの努力があった。日本は他国と相互の義務を詳細に決める原子力協定を、多くの国と結んでいる。特に技術とウラン鉱石の供給先である米国との原子力協定(1988年発効)が重要だ。各国との外交交渉で、日本は核燃料サイクルを行い、プルトニウムの量を減らすこと、そして平和利用に徹するという主張を行って、合意を作り上げていった。その経緯の一部はその時に外務省原子力課長であった金子熊夫氏の著書「日本の核・アジアの核」(朝日新聞社)に記されている。
その外交努力と技術の積み重ね、そして無資源国であるために「原発によるエネルギーが必要」という多くの人の意思が重なって、今の政策が作られた。
ところが、その取り組みが突如、止まりそうになった。民主党政権は「2030年代に原発ゼロを目指す」という方針を9月14日に打ち出した。ところが数日で閣議決定もせずに、これを目標と格下げした。報道によれば、「米国の圧力が影響した」という。
「なぜ米国が?」と、知らない人は疑問を抱いただろう。各メディアの解説も物足りなかった。日本が「原発ゼロ」を採用すると、論理上は既存政策の「核燃料サイクル」が必要なくなり、取り止めることになる。これは、米国が作ってきた核不拡散政策の国際的枠組みから日本が脱落することを意味する。特に米国が注目するプルトニウムが、日本に減らないまま残ってしまう。原発ゼロを強行すれば「日本は核武装するのか」「日本はプルトニウムをどうするのか」という厳しい問いが、米国と世界の主要国から突きつけられただろう。
既存政策を白紙に戻すことには、大変な労力が必要になる。核燃料サイクルのように複雑な積み重ねがある場合には、なおさらだ。この事実を、ポピュリズムに踊る民主党政権の政治家たちはまったく考えていなかったらしい。国内外の関係各所へ事前根回しをした形跡はない。さらにメディアも、背景にある核燃料サイクルの歴史と意味をよく知らないようだ。
「核兵器転用の阻止」という原発政策の語られない論点は今回の原発をめぐる議論が沸騰する中でも、注目されていない。原発をめぐりどのような立場の人も、この事実を知る必要があるだろう。
外交カード「日本の核武装の可能性」は捨てるべきではない-原発政策の語られない論点「核兵器転用の阻止」を考える - (石井 孝明)
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