座敷童子♪の隠れ家
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12年前、学校から帰宅すると、見慣れぬ仔犬が玄関にわが物顔で寝ていた。 かねてより、「犬を飼いたい。」とせがむ妹と犬嫌いの母の間で、困り果てていた父が「友人からどうしても貰って欲しいと頼まれ断りきれなかった。」と苦しい言い訳をして、妹の喜ぶ顔見たさにペットショップで買ってきた仔犬だった。 妹は無邪気に「うちにワンちゃんが来た。うちにワンちゃんが来た。」と壊れたテープレコーダーのように何度も繰り返し飛び跳ねて喜んでいた。 その傍ら、刑事さながらの母の尋問を受け、おどおどする父の顔が今も鮮明に蘇る。 父の嘘がバレタのは言うまでもないが、その嘘を10分もかからず吐かせた母の敏腕刑事振りには驚いた。 仔犬は、F1好きの父がアイルトン・セナから取って「セナ」と名づけ、晴れて家族の一員となった(ならざるを得なかった)。 家の中で飼うか表で飼うかで母と妹の対立が続き、あまりにしつこい妹に根負けした母が「じゃあ、玄関ならいいわよ。」と妥協案を提示し、しぶしぶ妹がそれに同意する形で当面の彼の寝床は玄関となった。 昔ながらの作りの我が家は、玄関の敷居が高く、母は、小さな仔犬の彼には、玄関を登ることなどできないだろうと安易に考えたのだ。 犬嫌いの母には、彼がシベリアンハスキーであることなど知る由も無く、数日もしないうちに彼の寝床は妹の隣になった。 彼の成長は著しく、朝晩の散歩は、次第に重労働になり、もはや「散歩」などという悠長なものではなくなり、「格闘」でしかなくなった。 彼は、とても変わり者で、普通犬なら与えた餌は、ガツガツと瞬く間に平らげるものだが、餌箱のドッグフードがカラスやスズメの餌となり、自身は、客が自分の餌を食べるのをただ眺めていることもしばしばだった。 どうやら彼は、普通の犬とは位の違うブルジョア犬らしく、「ドッグフードなど食えるか。」と訳の分らないプライドをかざし、空腹で庭に植えられたレモングラスやタイム、ローズマリーの香りを楽しむことを好んだ。 ドッグイヤーとは、よく言ったもので、年々彼は大人びて、あっという間に、私よりも落ち着いた雰囲気を醸し出し、私が頭をなでてやっても何だかこちらが頭をなでられているような妙な気持ちにさせた。 私や弟が就職し、家を出てからは、専ら彼の世話は、母がするようになり、彼が我が家に来るきっかけとなった妹はというと、たまにじゃれて遊ぶ程度であまり世話をすることは無くなった。 その後は、ときどき涙声の妹に失恋話を聞かされる他は、彼にとって静かな日々が続き、信頼すべき彼のボスは母だと認めたのか、母の言うことを良く聞くようになり、母も自分自身がかつて犬嫌いであったことなど忘れている様子であった。平成17年7月24日彼は、最愛の母に看取られ静かに息を引き取った。晩年の彼は、足元がおぼつかず、いつも疲れ果てていたが、散歩に出かける際は、母にいつも尻尾を振り、喜んで見せたそうだ。 彼自身、母が彼を必要としていることに気がついていたのだろう。 なりふり構わず、彼の死を一番に嘆き悲しんだのは、自称犬嫌いの母だったのだから。
July 25, 2005
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