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2026年05月29日
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カテゴリ: 読んだ本


上手い小説だと思った。新選組隊士吉村貫一郎について、新選組の同輩、出身の南部藩の武士などの関係者が語る形式となっている。そして聞き手はおそらく若い記者か小説家だが、その正体は最後まで明かされず、これはあくまでも読者の代わりに聞くという設定なのだろう。聞いている時代は第一次大戦のあたりなので、新選組が歴史となった頃だ。したがって、吉村寛一郎が藩校で学問や剣術を教えていた上級武士の子は実業家や医師になっているし、新選組の生残りは酒屋に転身したり、名を変えて官吏になったりしている。彼らが彼らの立場や視点から、吉村貫一郎という南部藩を脱藩して新選組隊士となった人間の一生について語るわけである。
貫一郎の脱藩も新選組入隊も尊王攘夷のためでもなければ幕府への忠誠のためでもない。ひたすら「妻子を食わせる」というそれだけのためだ。ただその「妻子を食わせる」という一事の中に本当の義というものがあるのではないか。妻子を食わせる…というのが、ジェンダー平等の今に会わないというのであれば、自分や身の回りの人を食わせると言い換えてもよい。そういう人が増えれば増えるほど多くの人が食えるようになるのだから。そしてその多くの人を食わせるという理想はネタバレになるが、最後の語り手により多少は果たされる。小説の最後は、貫一郎の南部藩にいた時の上司である上級武士が朝敵として処刑される前に書いたという書簡になっているが、ここでは、妻子を食わせるために新選組に入った吉村貫一郎を誠の義士であるとし、食わせるという具体的な個人を活かすことを飛び越えて、抽象的な忠義だの奉公だのが飛び交うようになると、国が危なくなるとしている。滅私奉公だの欲しがりません勝つまではの先に何があったかを思うとそういう考えもあるのだろう。
歴史の見方にはいろいろあって、英雄的な人物が天下のため、日本のために動いたという見方もあれば、もっと等身大の人物の行動の集積で歴史が作られるという見方もある。考えてみると、現実の歴史というものはこ後者に近いのかもしれない。日本の将来を思って政治家を志すというよりも、毎日鮭缶を食べる境遇になりたいから成功を目指し、その先に政治家があったという方が現実味がある。小説で描かれる新選組の多くの隊員もにわか武士や食い詰めた足軽で、幕府への忠誠心とか尊王攘夷とかとは関係ない。また、多摩地域には剣術自慢の農民の子弟がいて、彼らにしてみれば、武士の時代はほぼ永久的に続くであろうし、これを機会に武士になろうという者もいたのだろう。ただし、当時の実際の武士も相当数いた。それが、実際に京都で斬りあいをするとなると、にわか武士を募るしかなかった。それだけ江戸時代の武士というものが形骸化していたのかもしれない。





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最終更新日  2026年05月29日 12時00分04秒 コメントを書く
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