漫画家・写真家玉地俊雄 紫煙のゆらぎ

漫画家・写真家玉地俊雄 紫煙のゆらぎ

2008.05.04
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カテゴリ: 紫煙のゆらぎ





グスティ・アユ・スリ・ユリアティのチャンドラワッシ( 極楽鳥求愛の舞踏 )チヤータァー撮影

        初期2000型EFプラナー80mmとマウント改造PENTAX 6 7


            楽園・バリ島ウブドで本当にあった怖いお話 







            紫煙のゆらぎ・見捨てられたケチンボおやじ










極楽で本当に見た地獄。

「たまぢさんたいへんすぐきて」と、

定宿のPutoが朝早く下着一枚の僕の部屋へ走りこんできた。

ランニングシャツに首を通しながら早朝ランニングしていくと、前日ウブドの中心部でバイクの酔払い運転で転倒した同宿者が、明らかに行動障害・言語不安定状態で半壊したバイクに跨っていた。



昨夜には大量出血こそ無いが、酒臭く夜中に嘔吐窒息の危険を感じて深夜2時ごろ家主のKartaと様子を伺いにいくと、嘔吐は無かったが失禁をしていた。

其の日は午後からユリアティのチャーター撮影があり、
準備を始めなければならなかったのだが、眠り続ける彼が気になり、
何度も様子を伺っていた。

撮影の後でウブドでただ一軒のクリニックに連れて行こうという家主の言をさえぎり、
至急の往診を頼んだところ、若いドクターが血圧計だけ持ってきて言うには、
180と血圧が高い、何か薬を飲んでいるかときたもんだ。

「おじさぁーんなまえはなんというのー」
「ぁーああ すがぁー…」 
「どこにすんでるんですかぁー」
「ぅぅうー………」



僕はこれを生兵法の医学知識ではあるが、
軽い脳出血か脳梗塞の初期段階ではないかと判断した。

大量の脳出血なら、猛烈に荒い呼吸とともに、意識も呼びかけに対する反応も無いから、
手遅れで、このまま逝かせてあげるしかないのだが、反応はまだある。

ノー,イッツァブレイントラブル.クイックリイCTスキャン.これは脳梗塞だ。



農耕民族の次が納骨と出てくるのには参ってしまった。

僕はとっさに漫画を描いてスカル・頭骸骨の中にぐるぐると黒丸を描いた。

「スカル・インナ・ブロォッド。脳梗塞」と言った。

この図では脳出血なのだがまあ通じたようだ。

「OK.シュア」

アンブランスなど無いこの村から1時間以上のガタガタ道を担架に載せて
デンパサールの病院まで担架に乗せて運ぶ。

担架を持ってきているのに何故血圧計だけなのかよく分からない。

パスポートを持たせ日本領事館から家族へとの指示も。

家主がたちまち金が無いのでというので
持っていた約2万円程のルピァを渡し同行してもらった。


気持ちは大混乱していたが、不思議にもユリアティの撮影は見事無事完了。

夜はくだんのレゴン舞踏を楽しみ、帰着して待つこと夜半2時過ぎ。

ところが、それまでがまた大変の大変の大騒動。

デンパサールから日本領事館の職員が来て大騒ぎとなった。

ここバリ島の病院では大きな救急医療に対して、
処置費用の裏づけが無い限り治療が始められないとの事だと言う。

なんぢゃらほい?この国は。

更に何故かパスポートにある連絡先に何度国際電話を入れても連絡が取れない。
何か手段は無いかと家捜しを2人で始める。

失禁の匂いの少し残る彼の部屋で、
まずノート型PCを開けて連絡先などの手掛かりを探す。

エクセルを開けると、驚く。

東京三菱UFJ 銀行には \ 10.000.000 を超える預金残高があるにも係わらず、
日計表で見る限り、物凄いけちけちけちの使い方をしている。

しかし、個人情報なんとかかんとかで銀行は情報開示を拒むので
このPCデータは役に立たないと領事館員は言う。

ほかに何か手掛かりを見つけないと一刻を争う脳のクライシスなのに。

突然領事館の人が叫ぶ。

「やった。見つけた。携帯があった。」

すぐに携帯の番号に順じ掛け始めて奥様とつながった。

「こちらから掛け直しますので一旦きります」

しかし、電話でのやりとりはどうも不自然な話しぶりだった。
その訳は後日わかった。

大至急なんとか治療保証人の奥様の了解を取りつけた彼はすぐに病院へ電話を入れる。

あーなんとかなった。

結果はやはり5mm ほどの脳幹部深部小脳と海馬付近での出血だった。



ところが、奥様と娘二人が到着したのは3日後。

しかも、なぜか冷たい視線が僕に突き刺さる。

僕と同い年の栃木県のこの住人は結婚当初から家計は別々。

ここウブドでは50ルピァほどのおつりは飴玉でくれるのだが、
彼はイチャモンをのたまい、財布の中には5日分のルピァしか持たない性格。

どうして死なせなかったの、
余計なおせっかいをしたあなたを恨みますよとの視線が僕を詰問する。

旅行傷害保険をけちった彼を今すぐ日本に連れ帰るには500万かかると言う。

3日後彼は家族に病院へ見捨てられ、
別居状態と聞いた彼女達は僕に一言の礼もなく部屋に残った残骸全てを持ち帰った。

奥様の木で鼻をくくったような挨拶のほか、娘2人は口も開かなかった。

立て替えたルピアは、家主にドネイションしたものと考えて、
僕はその事をこの冷たい家族には一言もいわないまま、去り行く彼女たちを見送った。

わがままでイジワルで天狗っ鼻で大先生の僕の性格を、静かに、
やがて準解脱へと変容させてくれたウブドのピュァなスピリッツに
汚物をブッ掛けられた様な辛くて痛い出来事だった。

儀を観てせざれば一生の後悔との念は見事空振り。

楽園・バリ島ウブドで本当にあった怖いお話を僕の年下の内科の主治医に話した。

あなたはまだ甘い。

日本では老人が倒れて一週間経つと家族が後何日ぐらい生きるでしょうか。
裏返せば後何日ぐらいで死にますかとのニュアンスで聞いてくる。

医療現場ではもっとスゴイ事をいっぱい観ている。

      唯 道は虚に集まる

むなしいせかいだ。
…………。

僕は間違っていたのか。何かが狂っているのか。

彼はその三ヵ月後一人日本へ帰って行ったという。さんずいへんにはやし。


リトルかいんどねすびっぐのーせんきゆーの末で空振り三振。

命?










社団法人日本漫画家協会会員・参与

                               玉地 俊雄

tube ***** balitamaji ( 日本語版 ) *** sakamotoakane ( English )
http://plaza.rakuten.co.jp/balitama/






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最終更新日  2009.03.11 14:07:15


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