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皆様、こんにちは。いま締め切りのある仕事がいくつか重なっていて、次回の小説更新は7月はじめくらいを予定しています。なんか一日、一週間すぎるのが早いこと・・・(;´▽`A``夜のうちに溜まった作業をしたいけど、子どもと寝落ち→中途半端に早起き→作業あまり進まず結局ねむい。というサイクルを脱けたいもんです。ど、どうすれば?!ところで、ようやくパソコン買い直しました。ネット復活!! お~快適~ただ結婚して以来、自分の部屋ってものがないので、どうやって子ども&猫からパソコン(ノート)死守するか、それが問題なのでした。ではでは、またしばらく沈黙かも知れませんが、よろしくお願いします。ヾ(*'-'*)
2017/06/17
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その数か月後――本格的な冬の訪れも間近くなった12月初旬。ブランシュ伯爵邸で奥方は胸に手を当て、興奮した様子で歩き回る。「なんて名誉なことでしょう。この屋敷にレティシア様をお招きできるなんて!」間もなく15歳を迎える、王女レティシアの婚約が決まった。北方にある聖ミハエル大聖堂で、婚礼の許しを司教から受けるのが王族のならわしである。その巡幸の旅で、伯爵邸に立ち寄ることが決まったのだ。レティシアが王位を継いだあかつきには、いよいよアルブレヒトが黒獅子の騎士に選ばれるのも間違いないと、屋敷中が沸き立った。そうして迎えた行幸の当日、館には近隣からも人が集まって、大変な混雑だった。老王は姫君をめったに王宮の外に出さず、掌中の珠のように育ててきたのだから、なおさら王女の姿を一目拝もうと人々が押し寄せたのだ。馬車で乗り付けたレティシアが、アルブレヒトに付き添われて屋敷に入る。ようやく5つになったティアナは、本物のお姫様というものを見たくて、それにアルブレヒトが仕える相手を知りたくて、ホールの人混みをかき分け、大人たちの隙間から彼女を覗いた。伯爵の娘たちは姫君に挨拶をするが、預かりものの彼女には、そのような機会はない。騎士にエスコートされた王女が、ゆったりとホールの中ほどに歩み、彼女の前を通り過ぎる――大人の腰のあたりから顔を出して熱心に見つめる幼い少女が、目にとまったのだろうか――レティシアは、ティアナに向かってにっこりと微笑んだ。その瞬間、ティアナの心臓は早鐘のように鳴り、形容しがたい熱さと苦しさが彼女を満たした。美しい、などという一語では、あまりに足りない。幼い彼女には、どう言い表せばよいか分からなかった。その高雅さ、麗しさ。周囲の空気さえ塗り替えてしまいそうな、まばゆさを――それは、圧倒的な力であった。生まれながらに高貴な者だけがもつ、「正統さ」という名の光。***「ふぅ・・・」レティシアに見入っていたティアナの真横で、深々とため息をつく赤毛の青年がいた。年のころは18ほど。屋敷に時おり出入りしている、子爵家の息子テオドールだ。以前からアルブレヒトに心酔している彼だが、いまは熱っぽい視線を姫君に注いでいる。「何とかしてお仕えできないかなぁ。姫様・・・俺の女王陛下・・・レティシア様!」内面の声が丸聞こえになっているのも、少女に不審がられているのも彼は気づかない。「あぁ、あの白い御手を、口づけで埋め尽くしたい・・・」ティアナは青年から一歩距離を置いて、再び姫君と騎士を見つめた。アルブレヒトは常に王女の傍らにあり、王女に意識をそそいでいる。二人のいる光景は絵画のようで、おいそれと近寄りがたかった。冬の足早な夕暮れが近づくころ、ノースポールの花束を持った少女がティアナに駆け寄る。「ねぇ、花氷をつくろう!」白銀色の豊かな髪をした彼女は、アルブレヒトの妹だ。「うん・・・!」年が近い二人は、連れ立って庭園に向かった。朝の冷え込みが強くなってきたから、うまくいけば明朝、姫君に見せられるだろう。ティアナは無性に、あの王女に何か美しいものを差し出したくなったのだ。二人で目当ての水鉢に、仕込みをする・・・だが近づいてくる人の気配に驚いて、少女たちは慌てて館へ駆け戻っていった。「アル、見て!」ブランシュ邸が誇る庭園の一画――別名、水鏡の庭。その名の通り、ひとかかえ程の石造りの水鉢が据えられ、水底に愛らしいノースポールの真白い花々が沈められているのに、レティシアは驚きの声をあげた。「あぁ、妹たちが施したのでしょう。もう薄氷の張る時期ですから、見計らって花を入れれば早春まで楽しめると、毎年そうしているのです。」「素敵・・・ねぇ、今度・・・」言いかけた彼女は、口をつぐむ。ベンチに腰を下ろして、アルブレヒトを隣に呼び寄せた。「――私が王位をついだら、貴方はきっと黒獅子の騎士になる。」「私も、そう願っております。」このところ、老王は衰弱の度合いを一段と強めている。そのためレティシアの成婚を急いでいるのだ。青い瞳にかかるまつ毛が、うっすらと濡れる。「・・・本当は、恐ろしい・・・これから何が起こるの?」叔父にあたるジークムント公爵は、彼女を王位後継者と認めていない。慣習法を曲げて女を即位させようという国王に、反発した一部の諸侯が王弟ジークムントとひそかに接触したという噂まである。「姫様、クロイツァー宰相殿も、ボルク将軍も、あなたのお味方なのです。誰にも継承の邪魔などさせません。お気を強くもつのです。」「でも何かあれば、貴方の身まで危険に――」アルブレヒトの腕が、レティシアを抱き寄せ包み込む。彼の黒衣は守るべき主君を覆うようにして、低く抑制された声が告げる。「何があろうと、私は最後のときまで姫様につき従い、守り抜く・・・それはきっと、悪くない未来でしょう。ですが今は、“何か”などに臆さず、ただ私をお信じ下さい。あなたは女王になるのだ。」つづく
2017/06/07
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*hannaさんにリクエストをいただいた、ティアナ視点でのアルブレヒト・スピンオフをアップいたします。ティアナ=アルブレヒトの庇護を受ける、騎士見習いの少女。ユベールのオーストリア行きに同行して、ドイツ・イタリアの対仏戦線でもずっと一緒にいた、あの子です。番外編.レゾンデートル記憶をたどると、行きつくのはいつも、あの雨の日。使用人に手を引かれ門の前に立つ私を、外套を着こんだ背の高い人が迎えに来た。灰色の景色に溶け込んで、あいまいな――今も覚えているのは、その人の銀色の髪、襟元を飾る徽章の光。そして、穏やかな声。「――行こう、ティアナ。お前の新しい家へ。」***「例の、祭りの子ですよ。」「もう四つだって?もっと前に、修道院に送ってくれていれば――」「相手は庭師か、馬丁かという噂だよ。」「奥方様が、よくご承知になったものだわ。アルブレヒト様には、何の関わりもないことなのに。」ティアナ・エーベルヴァイン。彼女の名は、半分は偽物だ。自分の出自が決して誇れるものでないことを、幼いころから彼女は感じ取っていた。父はなく、赤子の頃から母とも引き離され、彼女は屋敷の別邸で乳母と使用人に囲まれ暮らしてきた。執事夫婦が親代わりになって、彼女を育んだ。やわらかな金色の髪。淡いブルーグレーの瞳・・・「まるで天使のよう。目元はお母様に、そっくりね。」そういって執事の妻は慈しんだが、4歳の誕生日にティアナは家を出されることになった。貴族の私生児は、娘であれば修道女になるのがお決まりのコースだ。だが詳しい事情は理解できぬまま、直前になってティアナはブランシュ伯爵家に預けられることになったのだ。伯爵家で、彼女は初めて貴族の子女らしい教育を受けた。この家には同じ年頃の娘たちもいて、時々は言葉も交わした。ただ大抵は、彼女たちに近づくと屋敷の奥方や使用人が戸惑いの混ざった表情をするので、ティアナは気が引けてしまう。そんな時ティアナは窓越しに、中庭で兵士たちが訓練する風景を眺めるのが好きだった。ブランシュ伯家は人の出入りが多く、賑いのある館だが、時折いっそう活気に満ちる日がある。屋敷の主人も奥方も上機嫌で、使用人たちがいそいそと仕事に励む。そんな時は、この家の嫡男アルブレヒトが帰宅しているのだ。彼は王女の騎士であり王宮に移り住んでいるため、滅多に屋敷には顔を見せない。それでもたまの休みに、両親の機嫌うかがいに足を運ぶことがあった。彼の友人たちも参集して、剣の稽古にいそしむ事もある。その日も、アルブレヒトは中庭で手合せをしていた。「踏み込みが甘いぞ、フォルクマール!」合わさる刃が、ギリギリと軋みをあげる。「・・・その余裕、崩してみたいですね、アルブレヒト。」涼しげな目元をした、色素の薄い青年は口角を上げ、足を使って間合いを取った。仕切り直しから、先に動いたフォルクマールの剣先はしなやかな弧を描くように、下から突き上げアルブレヒトの上半身を狙う。それを弾き返し、続く二撃も統制された動きでアルブレヒトは受け止める。彼らの周囲には、ブランシュ家の私兵たちも集まって見物の輪ができていた。さらに打ち合いが続くが、攻めに転じたアルブレヒトのほぼ垂直の斬りをかわしたフォルクマールは、返す刀で打ちこまれてしまった。「あっ・・・!」フォルクマールが声を上げたのは、弾き飛ばされた剣が、人々の輪にいた幼い少女の足元に刺さったからだった。「すまない、怪我はないか。」近寄ったアルブレヒトが、ティアナの顔を覗き込む。こわばった表情で頷くと、大きな手が彼女の肩に置かれた。陽光に煌めく銀色の髪、淡い灰色の瞳――黒衣の上着に、騎士の徽章が光る。彼女が無事だと確認すると、アルブレヒトの表情がやわらいだ。「ずいぶん熱心に見ていたようだが、剣に興味があるのかな。」「まさか、おおかた君に見惚れていたのでしょう。ねぇ、お嬢さん。」フォルクマールの明るい笑い声が響く。自分の肩に当てられたアルブレヒトの、手の力強さ。彼のまなざしがじっと注がれて、彼女は胸の奥が痺れた。「そういえば――ティアナが来て、もう一年だな。この屋敷には慣れたか。」「・・・は、はい、アルブレヒト様。」「そうか。じき誕生日だ。その時は皆で祝おう。」ほんの数言の会話だが、ティアナは彼の意識が自分に向けられていることに舞い上がり、頬を真っ赤に染めたまま、少しも動けないのだった。手合せを終えて引き上げたアルブレヒトは、靴の泥を落としながら言う。「貴殿が腕を上げたから、つい力が入ってしまった。」「おや、珍しくお褒めにあずかれましたね。あなたが姫君のお世話で多忙な間、こちらも追いつこうと必死なのですよ。」王が代替わりすれば、アルブレヒトに加え7名の騎士が新たに選出される。野心ある若者たちは、「その日」に向けた熾烈な競争を水面下で続けているのだ。「“女王陛下”の御代が、近い――そうなのでしょう、アルブレヒト。」アルブレヒトは黙したまま、黒衣の裾を払い邸内に戻った。つづく~~~~~~この時、ティアナが(もうすぐ)5歳、アルブレヒトは25歳、レティシアは14歳です。
2017/06/04
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ようやく聴けました!「文豪とアルケミスト 劇伴音樂集」坂本英城さんDMMブラウザゲームのサントラです。(あ、はい。実はサービス開始頃から、ちくちくやってます。ここ数か月、自宅のネット不調でほとんど進みませんがっ)全体的にどの曲もクラシック調で切なく素敵だけど、期待通りタイトル曲(オープニング曲)の「文豪とアルケミスト」がいい!初めて聴いた時ゾクッとしました・・・音楽だけで、世界観に一気に引き込まれるような。私の中で、ブラウザゲームのイメージが変わりました。名曲だと思います。サントラでは、ゲーム未実装の4曲が追加されてます。◆「未知ノ路往く文士タレ」→RPGのフィールド画面を連想する。冒険の予感。草原?!(日本だけど)今後のイベントとかを想像して楽しんでます。◆「焦眉ニ抗フ文士タレ」&「開進止メヌ文士タレ」→戦闘曲ですね。「開進~」がボス戦かな?◆「館長ノ御題曲」→ミッションを伝えます、という感じ?おごそかに。ブックレットで、プロデューサーさん、監修さん、作曲者さんの三者対談が10ページ載っています。音楽を「大正浪漫風」にするため、敢えて調律が少しずれたままのアップライトピアノを使用したとか(グランドピアノでなく。音色を綺麗にしすぎないため)、興味深いお話が色々ありました。購入特典のシリアルコードで、アップライトピアノ(内装家具)入手。▽意外と和室にも似合う・・・?
2017/06/03
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*こちらはフィアノーヴァの落城後、レティシア達が宮廷に戻った頃。彼女とユベールがザンクトブルクの慰問旅行に出かける前のお話です。番外編.フライハルト最後の騎士1797年6月 王都 ブランシュ伯爵邸「お兄様にしては、よく続いているわねぇ。」白銀色の髪の少女が、ひっそりと微笑んで小首をかしげる。屋敷の中庭で、今日も剣術の稽古にいそしむレオンハルトの姿があった。幾度も教官に構えを直されながら、彼はサーベルを振り続けている。午前中いっぱい基礎的な動作と足さばきの鍛錬を受け、本日の指導は終わりとなった。こめかみから吹き出す汗を袖でぬぐい、すっかり上がってしまった呼吸を整えながら自嘲的につぶやく。「はぁ、きっつ・・・もっと前に、まじめにやってりゃなぁ。」とはいえ、後悔先に立たずだと自己解決し、妹が差し出したレモン水を、彼はありがたく飲み干した。あの騒乱から半月あまり・・・これまで疎遠だった実家に、レオンハルトは頻繁に足を運んで、時には寝泊まりしている。彼の父親、ブランシュ伯爵は嫡男の“謀反”という事態にも表向き狼狽を見せなかった。だが母や弟妹たちは、別だ。これまで一家の異端児であったレオが、宰相グストーの騎士だという一点で、家名は保たれている。レオが自室で着替えを済ませる間、鏡に映った自分の姿がふと目にとまった。――これまで兄に劣っている事実に、さして悔しさは感じなかった。初めから張り合う気もない自分を、周囲が比較して騒ぎ立てるのが不満であった。それに剣の腕前だって、決して悪くないのだと。だが、あの時――フィアノーヴァの城で、自分はフォルクマールに負けた。手負いのユベールに助けられなければ、命を落としていた。それはつまり、グストーもレティシアも守れぬということ。***今日は非番の予定が、午後になって宮廷へ呼び出しがかかった。王宮東棟、宰相の居室は相変わらず雑然としていた。所狭しと積み上げられた本や書束が、あやうい均衡で層をなしている。部屋の主人は長椅子に腰かけて、レオを見るなり、こう言った。「お前の処遇を決めた。近衛に中隊長の地位を用意してやるから、務めに励むように。」「近衛・・・それは・・・」騎士の地位を解かれるということ。やはり、そうなるのか――王家が騎士制度を廃止した以上、宰相が個人的に騎士を抱えることもできない。レオンハルトは曖昧な笑みを浮かべる。「せっかくのお話だけど、お断りします。」グストーが眉根を寄せたが、彼は言葉を続けた。「近衛だの中隊長だの、興味ありません。マスターが俺を、警護役として雇ってください。それとも俺じゃぁ・・・力不足ですか。」「伯爵家の跡取り息子を、警備兵代わりに使うことは出来ない。」長椅子に背を預け、脚を組んだグストーは問う。「第一、宮仕えはお前の長年の夢ではなかったか?レティシアの側に侍(はべ)りたかったのだろう。」「それは――」幼い王女の友人だった、彼の誓い。 俺が、姫さまを守るよ・・・彼は大きな口元をへの字に曲げた。アルブレヒトを亡くし、失意の底にいるレティシア。女王が妹のように可愛がってきた侍女イルゼも、騎士フォルクマールの妻という立場から宮廷を去った。支柱の崩れ落ちた王宮で――レティシアは国主としての責務と覚悟で、己を立て直そうとしている。「それでも・・・俺はフライハルトの騎士です。騎士ってのは単なる制度や、立場のことじゃない。一旦契約を交わしたなら、命ある限り断ち切れないのが主人と騎士の絆だ。」「しかし、主人には騎士を解任する権限もあるのだろう。」「騎士が義務を果たさない場合だけです。」「そうか。なら、そこの椅子に座って待て。」「はい?」グストーは書き物机に視線をやって、大儀そうに息を吐く。「貴様がしてきた不実なら、はいて捨てるほどある。紙に書きだすのに、一刻はかかるだろうからな。」「に・・・憎たらしい!」顔を紅潮させ歯噛みしたレオは、この傲慢な皮肉屋をにらみつけた。仕え始めて、じきに四年。グストーにとっては、確かに女王から押し付けられた「騎士」だろうが、こうも無下(むげ)に追い出されるとは!しかし彼の主人はソファの肘掛けに体をもたれさせ、瞳を細めると呟く。「お前を近衛にというのは、互いに利益のある話だと思ったが。」「・・・・。」しばらく逡巡していたレオは、突如思い当った。今回の騒乱で、グストーは己の立場の危うさを知ったはずだ。今後、近衛が宰相の意に反した行動を取ることがあってはならない。そのための監視役として、自分を送り込もうというのか――「それは・・・俺を信用してるってことですか。」レオンハルトの問いに、グストーは含みのある微笑を返すだけだ。「マスター、俺は・・・」主人の背後に並ぶ書棚、用途不明の薬瓶に、諸国の情勢が書き込まれた地図。フライハルト随一の智謀が活動する、この狭い空間に出入りできることは、レオのささやかな自慢だった。彼は唇を引き結ぶ。こうすることが、グストーを守ることになるというなら。主人へと歩み寄り、ひざまずく所作も優美に・・・深々と頭(こうべ)を垂れ、レオは辞去の口上を述べる。「ご下命とあらば騎士の務めを離れ、新たな任に向かいます。マスター、貴方にお仕えできたことは、俺の誇り・・・」だが、それ以上は言葉にならなかった。どうして役目を果たしたなどと、誇れるだろう。本当に、これきりだと。思い返せば、心残りばかりだーー「レオンハルト。」名を呼ばれ、淡い緑の瞳で主君を見上げる。「この数か月――行くも退くも、お前にとっては苦しい事だったろう。」グストーは長椅子から立ち上がり、レオの目の前に片膝をついて腰をおろす。「誓約を違(たが)えることなく、よく尽くしてくれた。」主人の手が、肩に触れた・・・その瞬間、人前では封じてきた感情が、堰を切ったように溢れる。「マスター・・・っ」こらえきれない涙がこぼれる。今ようやく、彼は赦(ゆる)された思いだった。自分が黒獅子の弟であることも。兄を追い詰める一端を担ったことも。続く言葉に、万感の思いを込め――レオは新たな誓いを立てる。「たとえお側を離れようとも、我が忠誠は主のもとに。常に、永遠に。」***それから三日ほど過ぎた、水曜の昼過ぎ。宰相は午前の執務を終えて、一息入れようと自室に戻った。だが扉の前に立つ、金色の髪をした大柄な男の姿に眉根を寄せる。男は鮮やかな朱をした近衛の上着に身を包み、こちらに気付くと慌てた様子で何かを飲み下した。「マスター・・・げほっ、うぇ!」おおかた、暇つぶしに舐めていた飴玉でも、のどに詰まらせたのだろう。「レオンハルト、貴様ここで何をしている。」「・・・じ、実は・・・」近衛に移籍となったレオンハルトに、執務室で女王は言った。「このような異動は、さぞ心苦しいことでしょう。私も改めて考えたのだけれど、近衛に籍はおくとして、当面「特命」として宰相付きの警護主任というのは、どうかしら?」「え・・・?いえ、陛下それはっ」「だってレオほど、あの人と気心知れた者もいないのだし。ねぇ?」レティシアは、傍らに控える褐色の青年将校に問いかける。否定してくれ、という必死の視線をレオは青年に送るが・・・「良いお考えかと。レオンハルト様のほかに、務まる人間はいないでしょう。」ユベールは人畜無害な微笑みで、レオの望みを打ち砕いた。「そういうわけで、こちらに出向になりました。いやぁ、陛下のお心づかいというか、お側に俺の居場所がなかったというか。」頭をかいて天井を見上げるレオに、グストーは沈黙する。「でも近衛に所属するのは変わりませんから。ちゃんと軍内部にも目を光らせておきますよ!まぁ、俺に任せて!」レオの言葉を聞いているのか、いないのか、グストーは部屋の鍵を開けて中に踏み入れる。「レティシアめ・・・やはり、あの男で試してみるか。」「?」既に先のことに思考を巡らせはじめたグストーは、レオに向かって命じる。「珈琲を入れろ。それと、へらついた笑いをやめて着替えを済ませてこい。その近衛の制服は目につきすぎていかん。」「了解です。」レオは支度部屋に向かおうと部屋の戸口に立って、主人の姿を振り返った。「レオ・・・」肩を落として下がろうとする彼を、女王は呼び止めた。「たとえ立場が変わろうと、決して潰(つい)えることのない主従の絆を、貴方はもう築いてきたはず。そんな相手は、主君にとって何より得がたい・・・尊い存在だわ。」彼女にとって、アルブレヒトがそうであったように。「――あの人を、頼みます。」レオンハルトは棚に置かれた地球儀に手を伸ばし、たわむれに回す。ぎこちない音を立てて回転する球体に、指先で触れる。人びとの噂では、女王の心はユベールに移り、再び彼が寵愛を独占するだろうと。宰相がアルブレヒトたちへの厳正な処罰を求めたことを、女王は衆人の面前でなじり、以来彼を遠ざけている。だがレオは、レティシアの真情を垣間見た思いだった。「マスター、ちゃんと陛下はご存じなんです。俺に何が必要か、ご自分が何を求めているか・・・あとは貴方が、気付けばいい。」「何か言ったか?」「いえ、すぐに珈琲をお持ちしましょう。そうだ、俺も最近は剣の鍛錬に身を入れてるんですよ。」長椅子に横たわったグストーは、寝返りを打って彼に背を向けた。鼻歌まじりにレオンハルトは豆をひく。許される限りのときを、側で見守らせてもらおう。他の将校たちに、この役目は譲れない――生涯かけて尽くす値打ちのある男を、自分は託されたのだから。〜〜〜〜〜〜〜〜〜*作者からひとこと:レオとグストー、かみ合い始めたような、やっぱりレオがうまく乗せられているような?!次回は、リクエストを頂いたアルブレヒトのスピンオフの予定です。↓よろしかったら応援お願いします。('▽'*)にほんブログ村
2017/06/01
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