音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2009年08月16日
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テーマ: Jazz(1968)
カテゴリ: ジャズ
コルトレーン初期の名作に私たちが求めているものは何なのか


 ジョン・コルトレーン初期の名作『ソウルトレーン(Soultrane)』。今さら説明不要ではあろうが、1958年に当時在籍していたプレスティッジ・レーベルからリリースされたアルバムである。名盤として名高いものの、その半年前に制作された 『ブルー・トレイン』 がブルーノートの1500番台(Blue Note 1577)ということもあり、どちらかと言えば、その陰に隠れてしまっている感がある。とはいえ、リー・モーガン(トランペット)やカーティス・フラー(トロンボーン)を擁して録音された『ブルー・トレイン』に比べ、本作『ソウルトレーン』の方は、ワン・ホーン・カルテットで吹き込まれたもので、コルトレーンのテナー演奏をじっくり聴きたいという人には向いていると思う。

 さて、本盤『ソウルトレーン』は、ミドルテンポの 1. 「グッド・ベイト」 で幕を開ける。シンプルなテーマから始まりそのままアドリブになだれ込む。このソロは、細かいフレーズを含みつつも、緊迫感はさほど高くなく、リラックスした演奏という印象を与える。 2.「アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー」は、少し甘めのバラードで、数年後のアルバム『バラード』(1962年)での演奏を髣髴とさせる(ただし『バラード』では各曲が短いのに対して、本盤のこの曲は長尺で、10分を超える演奏である)。 3.「ユー・セイ・ユー・ケア」では、今度はテンポアップして、明るく躍動的になる。全体的に本アルバムでは抑え気味に聴こえるレッド・ガーランド(ピアノ)も、この曲に関しては、得意のプレイで鍵盤上を弾み転がるようなソロを見せている。コルトレーンはといえば、やはりリラックスした楽しげな雰囲気の演奏だ。続く 4.「テーマ・フォー・アーニー」は再びスローバラード。コルトレーンのテナーは文字通りこの曲を"歌い上げ"ている。

 そして、アルバムを締めくくるのは、 5.「ロシアの子守唄」であるが。この曲が問題だ。筆者は、この曲が本アルバムに収められたことが必ずしもよくなかったのではないかと思っている。無論、この曲が嫌だということではないし、曲そのものや演奏自体が悪いと言っているわけでもない。ハイ・テンポで技巧をつくし、コルトレーンが吹きまくる。音を敷き詰めたかのような、いわゆる"シーツ・オブ・サウンド"の典型だ。けれども、どう考えてもこの演奏だけが本盤全体を通しての流れの中で浮いてしまっている。作ったコルトレーンの側からすれば、後の諸作品に通ずることになる実験的試みの1曲だったのかもしれない。けれども、この曲の代わりに、1曲目のような調子の名演があと1曲含まれていたならば、本作『ソウルトレーン』は、『ブルー・トレイン』すら押しのけて、誰もが認めるダントツの「コルトレーンの初期傑作」、もしくは、「これぞコルトレーンの入門盤」になっていたかもしれないという気がする。

 オリジナルライナーにも5.の形容としてシーツ・オブ・サウンドという表現への言及があるという(オリジナルライナーを書いたのは、この表現を最初に使った音楽評論家アイラ・ギトラーによる)。手元にはオリジナルライナーがないので確認はできなかったが、手持ちの日本盤CDのライナー(最初にCD化された頃の、LPと共用だったライナー文)でも同じように、シーツ・オブ・サウンドの典型としてこの曲が紹介されている。その他、名盤ガイド類の紹介などでも、何かとこの「ロシアの子守唄」への言及が必須になっているようだ。

 しかし、それはよくないんじゃないかと思う。5.のイメージを求めて本盤を聴いた人は、そのイメージとは異なる他の4曲にきっとがっかりしてしまう。けれども、そうした先入観なしに本盤を聴いてみると、1.~4.がメインであって、5.が特殊な感じがする。つまり、シーツ・オブ・サウンドが爆発する以前の、オーソドックスに演奏するコルトレーンを素直に楽しむという発想を最初から与えてくれた方がいいのではないだろうか。音楽的革新度は高くないが、独自のサウンドを目指そうとしながらも(実際、前年にはセロニアス・モンクやポール・クイニシェットとの共演など精力的にこなしている)、ハード・バップの語法を消化し、正統派の演奏をしていたコルトレーンの一瞬間を捉えたアルバム。そのようなアルバムと見なせば、1.~4.はいずれも文句のない超名演。暖かく、優しく、時に静かで、時に躍動的な、"正統派"なコルトレーンを楽しめばいいと思う。その上で、5.に興味が湧いたならば、シーツ・オブ・サウンドなり、コルトレーンの進化なりを、続く他のアルバム群で楽しむという道が開けるということではなかろうか。


[収録曲]

Good Bait
2. I Want To Talk About You
3. You Say You Care
4. Theme For Ernie
5. Russian Lullaby

[パーソネル、録音]

John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)

録音:1958.2. 7

Prestige 7142





[枚数限定][限定盤]ソウルトレーン/ジョン・コルトレーン[CD]【返品種別A】




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Last updated  2017年02月08日 17時22分26秒
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