音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2010年04月28日
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テーマ: 洋楽(3314)




 イギリス出身のジョー・ジャクソン(Joe Jackson)という人は、厄介なアーティストだ。アルバム毎に作風が違うどころか、ロックだったりクラシックだったりジャンルすら違うこともある。1979年にデビューした時の作品(『ルック・シャープ』)は、確かにパンチの利いた(かつ皮肉も利いた)ロックサウンドと言っていいものだったが、まもなくいろんな音楽に手を伸ばし始める。その結果分かってきたのは、ジョー・ジャクソンとはある種の天才であるということだった。彼は、まるで吸水スポンジのように、いろんなジャンルの要素を吸い込み、取り込んでいって、見事に自分の作品に仕上げてしまう。ロックだけでなく、レゲエにジャイヴ、R&Bにジャズ、ファンクにラテン、クラシック…、結果、アルバム毎にそれぞれ違った作風の作品が残されていく。その理由から、結局のところ、彼の代表作はこれだという明確なアルバムがなく、したがって一般受けしにくいという損な面もある。

 筆者は彼の作品をすべて聴いたというわけではないが、わりとコンスタントに追っかけてきた。時折、突然に聴きたくなるというのが、彼のアルバムの中には多い。本作『ブレイズ・オブ・グローリー(Blaze of Glory)』もそうしたうちの一枚である。リリースは1989年、デビューからちょうど10年にして11作目。デビュー以来在籍したA&Mレーベルでの最後のアルバムに当たる。シングルカットされた8.「ナインティーン・フォエヴァー」は多少売れたものの、アルバム自体は大したセールスを挙げることはなかった。

 正直、このアルバムは長い。収録時間は60分足らず(それでも当時にしてはアルバムとしては長い方)なのだが、どうも体感時間が長い。その理由は、ストーリー性があり、起伏に富んだ内容にある。全体としては、アルバムが制作された1980年代末からみた過去の郷愁とでもいうべきテーマで様々な楽曲がストーリーを紡いでいく。1950年代をテーマにした1.「トゥモローズ・ワールド」に始まり、3.「ダウン・トゥ・ロンドン」では、成功を夢見てロンドンに向かう若者が描写される。表題曲の6.「ブレイズ・オブ・グローリー」は若くして死んだロック・ミュージシャンを取り上げたもの。上記の8.「ナインティーン・フォエヴァー」では、“僕は絶対に35歳にならない”と“永遠の19歳”を歌っているが、ジョー・ジャクソン自身がまさしく当時34歳で、自身のことを詞にしていると思われる。冷戦体制を風刺した10.「イーヴィル・エムパイアー」、現代社会に人間のあたたかみを求めようとする内容の12.「ザ・ヒューマン・タッチ」、いずれも制作時のジョー・ジャクソンの心情に根ざしたやや重めのテーマで、いわば半自叙伝的な内容で統一されている。

 長く感じるもう一つの理由は、これら楽曲が途切れなく演奏されているという点である。言い換えれば、上記の各曲の様々なストーリーが独立した1曲ずつの形で提示されているというよりは、連続したアンソロジーのようになっている点である。音的に各曲が切れ目なく連続して流れてくる。そのため、ぼうっと聴いているといつの間にか次の曲に移っている。ジョー・ジャクソン自身、そういう風に聴いてほしかったのだろうが、コンサートでの再現は難しいわ、ラジオのオンエアに合わないわで、セールスが伸びなかったのは当然かもしれない。アルバムとしては、全米では61位、全英でも36位止まりの結果だった。

 とはいえ、筆者にとってはある日突然に聴きたくなるアルバムである。この長い1枚の中にたくさんのストーリーが詰め込まれているのと同時に、凝った音作りが凝縮されている。ロック/ポップで一般的な楽器類はもちろんのこと、各種サックス(アルト、テナー、バリトン)やトロンボーンといった管楽器、コンガにシタール、ヴァイオリンにチェロ、アコースティックベースと幅広い音の演出には総勢20名ほどのミュージシャンが参加している。上述のように、長くて重くてどちらかというと疲れるアルバムだが、聴けば聴くほど新しい発見があり、その意味ではただのロック(あるいはポップ)ミュージシャンではない、ジョー・ジャクソンの懐の深さが浮き彫りになる、“忘れ去られた名作”と言えるように思う。



[収録曲]

1. Tomorrow's World
2. Me And You (Against The World)

4. Sentimental Thing
5. Acropolis Now
6. Blaze of Glory
7. Rant And Rave
8. Nineteen Forever
9. The Best I Can Do
10. Evil Empire
11. Discipline
12. The Human Touch

1989年リリース。





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Last updated  2010年04月28日 06時57分12秒 コメント(2) | コメントを書く


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