音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2012年10月13日
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9・11の記憶とボスのソングライティングの才能


 2001年9月11日、アメリカで起きた同時多発テロ。その悲劇を受けてアメリカン・ロック界のボスことブルース・スプリングスティーンが一気に完成させた作品。2002年に入って数ヶ月間で制作され、同年7月にリリースされた。活動を休止していた(単発的には復活していた)E・ストリート・バンドを率いてのフルバンドでのレコーディングとしては、 『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』 以来、およそ18年ぶり。スプリングスティーン自身のスタジオ作としても、1995年の 『ザ・ゴースト・オブ・トム・ジョード』 以来7年ぶり(途中、EPやライヴ盤のリリースはあり)だった。つまり、バンドの再結成はしていたものの、フルアルバムの録音にはいたっておらず、ファンにとって待望の作品は、テロという大事件が引き金となって一気に実現した。

 以前の作品との大きな違いの一つはプロデュースをブレンダン・オブライエンが担当している点で、この後、00年代のスプリングスティーンの諸作(『デヴィルズ・アンド・ダスト』、 『マジック』 『ワーキング・オン・ア・ドリーム』 )はこの人物がプロデュースをすることとなった(なお、2012年の新作ではロン・アニエロにプロデューサーが変更されている)。オブライエンは90年代初頭から頭角を現したプロデューサーで、パール・ジャムやレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンなどをプロデュースしたほか、エアロスミスの『ゲット・ア・グリップ』の成功でも知られる。オルタナからパンクロックまで幅広くこなすこの人物のプロデュースがスプリングスティーンの音作りをどう変えるのかとリリース当時は思った。でも、実際のところ、それほど流行りの音という感じでもなく、かといってもはや聴衆の耳に馴染まなくなってきたストレートなアメリカン・ロック・サウンドに固執するわけでもなく、いま思えばいいバランスに落ち着いたようにも感じる。

 当時の雰囲気からして“アメリカ万歳”になっても不思議のない社会状況(米国内の雰囲気)だったが、そこはさすがにスプリングスティーン。同時多発テロに触発はされても、それを直接歌うというのではなく、それぞれの曲に人生の断片を切り取って載せていくという、ストーリー・テラーとしての本領を発揮している。9.「ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード」のように、以前からでき上がっていた曲もあるが、概ね、ポスト9・11の社会における“人生の喪失感”のようなものがテーマになっている。

 筆者の好みでお勧め曲を挙げておきたい。ボスの本領発揮のロック・チューンとしては、1. 「ロンサム・デイ」 「ザ・ライジング」 がベスト。これに次ぐのが9.「ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード」。他には、3.「ウェイティン・オン・ア・サニー・デイ」、5. 「カウンティン・オン・ア・ミラクル」 、11.「メアリーズ・プレイス」といったあたりが、サウンド的には必ずしも暗そうではないのに、実は9・11を受けた暗さがあとから重く響いてくるようなナンバー。最後にもう一つ付け加えておくならば、15. 「マイ・シティ・オブ・ルーインズ」 。この曲も9・11前に作られていたらしいけれど、結果的に聴き手側からは違う解釈をされてしまった。そこが残念といえば残念なのだが、当時の社会状況抜きに考えて、かつての80年代の 「マイ・ホームタウン」 と並ぶ超名曲。




[収録曲]

1. Lonesome Day
2. Into The Fire
3. Waitin' On A Sunny Day
4. Nothing Man
5. Countin' On A Miracle
6. Empty Sky

8. Let's Be Friends (Skin to Skin)
9. Further On (Up The Road)
10. The Fuse
11. Mary's Place
12. You're Missing
The Rising
14. Paradise
15. My City Of Ruins

2002年リリース。





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Last updated  2016年02月13日 07時14分10秒
コメント(2) | コメントを書く


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Re:ブルース・スプリングスティーン 『ザ・ライジング(The Rising)』(10/13)  
Voyager6434  さん
『My City Of Ruins』はDVDのライブで 何万人もの観客が大合唱しているのを見て

実際にはそれ以前に作られた曲だったんですね・・・

残念、という言葉を使っていらしてますが、

確かにアーティストの狙いとは大きく外れ、音楽がひとり歩きを始めた 遠い存在となって
もはや音楽が作者一人のものとは言いがたいものに変わってしまったと
感じる話ではあります

これと同じ事は結構あるようで

最近でも、山下達郎の『希望という名の光』が
東日本大震災の事を唄にしたものだと通っていたものが

実際にはそれ以前にリリースされた映画の主題歌だったという
音楽が 作者の思惑を離れて 聞き手が 新たな意味を加えた際たる例として

ひとたび世に出れば それは聞いた人それぞれのものであるという
曲が人々の中で育って行く姿を目の当たりにした思いがする話だと感じました


応援ポチです☆



(2012年10月16日 01時56分55秒)

Re[1]:ブルース・スプリングスティーン 『ザ・ライジング(The Rising)』(10/13)  
andale  さん
Voyager6434さん

応援&コメントありがとうございます。

アーティストの当初の意図と聴き手の解釈がずれて作品が一人歩きするのはよくある話で、とくにジャズなんかはそういう聴き手の「思いこみ」にあふれていますので、それを「残念」と呼ぶのはよくないのでしょうが、9・11ばかりはやっぱり「残念」といったところでしょうか。

テロ後のある日、当時のヒステリックなアメリカ世論に乗せられたあるアメリカ人の友人から「すべての米国人のために立ち上がろう」みたいなメールが来て、「それはおかしいだろ」みたいな返事をしたところ、「アメリカ人中心みたいにばかり考えていた、申し訳ない」みたいな返信が来ました(素直ないい友人です)。でも、スプリングスティーンを「(テロから)たちあがるアメリカ」の象徴に受けとってしまった米世論をどうも好きになれないのでした…。

本文に書けばいいような長い話ですみません。今後とも応援よろしくお願いします。

(2012年10月16日 07時29分07秒)

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