本盤『光と物体(The Golden Age of Wireless)』は、1980年代初頭にリリースされた彼のソロ・デビュー作。当時としては時代を先取りした感のあるエレクトロ・ポップ・サウンド全開の作品というのが、全般的なイメージと言えるだろう。現在の感覚ではすでに消化された音楽かもしれないが、この当時という文脈では、“滅法新しい音楽”だった。
その代表例は、全米5位(カナダでは1位)の大きなヒットとなった1.「彼女はサイエンス(She Blinded Me With Science)」。1982年のファースト・リリース盤には未収録だったが、翌83年のセカンド・リリースでは曲順や収録曲に変更があり、この曲が含まれた(その後もCD化などの際に複数曲のヴァージョン差し替えがあった模様)。ちなみに、この当時のタイトルにはまだまだ日本語独自の邦訳タイトルがあった。アルバム表題の『光と物体』(直訳だと『ワイヤレス(無線)の黄金時代』)だし、この曲も「彼女はサイエンス」も雰囲気だけで意味不明な邦訳タイトルだけれど、直訳すれば「彼女はサイエンスで僕を眩ました」といったところ。ワイヤレス時代(いまのWi-Fi?)の到来を察知し、サイエンス=科学で幻惑する女性(●保方さん?)を連想させるのは、トーマス・ドルビーが30数年後を見据えたなんていうのは、考え過ぎだろうか(笑)。
さて、真面目な内容に話を戻して、そんな30年前の最先端サウンドのアルバムであると同時に、トーマス・ドルビーのソングライティングのよさが垣間見える作品でもある。3.「電波(Airwaves)」、5.「無重力(Weightless)」、6.「哀愁のユウローパ(Europa and the Pirate Twins)」(この邦題ももうちょっと何とかならなかったものか!)、9.「ワン・オブ・アワ・サブマリン」といったところが、個人的には好みである。その中でも3.「電波」は、このそっけない直訳では想像できないほど美しいナンバー。トーマス・ドルビーの曲作りの能力という観点で聴くなら、本盤の中でいちばんの聴きどころと言ってもよいかもしれない。
4. Flying North 5. Weightless 6. Europa and the Pirate Twins 7. Windpower 8. Commercial Breakup 9. One of Our Submarines 10. Cloudburst at Shingle Street