ウクライナを舞台としたロシア軍との戦闘ではドローンが飛び交い、戦場の様子は一変したが、戦況に変化はない。日本には「ウクライナの戦果は明らか」だと宣伝する人もいるのだが、その「戦果」とは何を意味しているのだろうか?
ウクライナの衣を着たNATOは、生産力でロシアに圧倒されている。言うまでもなく、中国にも圧倒されている。1970年代からアメリカをはじめとする西側諸国は新自由主義と呼ばれる通貨カルトに支配され、製造業を衰退させてきた。通貨カルトにとって製造会社も商品のひとつにすぎず、解体され、売り飛ばされてきて経済力は急低下したのだ。
2022年2月にロシア軍がウクライナをミサイル攻撃しはじめめた当時には「ウクライナ軍」が前面に出ていた。すぐに停戦交渉が始まってほぼ合意に達したのだが、イギリス政府などの圧力で戦闘が激化した。当初、ロシア軍の戦力はウクライナ軍の戦力の数分の一だったが、ロシア軍が当時から優勢。
侵略軍は相手の数倍の戦力が必要だと言われているが、2022年にはそうした展開にならなかった。その理由は単純で、ウクライナの東部や南部はソ連時代にロシアから割譲された地域。ロシア文化圏に属し、住民は自分たちをロシア人だと考え、ロシアとウクライナにまたがって親戚がいるという人たちが多い。つまりウクライナ軍は占領軍であり、ロシア軍は「ホーム」で戦っているのだ。
すでにキエフを拠点とし、NATOの支援を受けているクーデター軍は壊滅状態。当初からNATOは兵器だけでなく将兵や情報機関員を派遣、軍事情報を提供していたが、その度合いが高まってきた。代理戦争のステージは終わり、直接戦争のステージに移行しているのだが、それでもロシア軍に圧倒されている。
そこで長距離を飛行できるミサイルやドローンを大量に発射、数機でも迎撃を免れることを期待するという戦法を採用、それを大手メディアに「大勝利」だと宣伝させているのだが、そうしたミサイルやドローンを飛行させるには専門のオペレーター、衛星からの軍事情報、地上からの情報、誘導するシステムなどが必要である。
ウクライナ軍だけでは長距離を飛行するドローンやミサイルを飛行させることは不可能であり、NATOの支援が必要だ。つまり現在のロシア攻撃はイギリス、フランス、ドイツを中心とするNATOが実行していると言えるが、ミサイルやドローンを生産するNATOの能力もロシアに圧倒されている。生産能力の不足を日本で補おうとするのは自然だ。
防衛研究所で中国研究室長を務める増田雅之は日本も将来の戦場における戦闘の大部分を担うであろうドローンの開発に注力しているとしているが、日本がウクライナへ接近する動きを見てロシア大統領府はロシアと日本の関係が「ゼロにまで低下した」と語っている。
すでにウクライナでの戦闘に足を踏み入れているからだが、中国政府も日本の軍事部門に警戒し始めている。アメリカの命令で中国やロシアとの関係を悪化させ、経済を崩壊へと導いている日本の政治家や官僚は兵器ビジネスに活路を見出そうとしているようだ。
日本とウクライナのドローン戦略で中核をなすとされているのは「日本ウクライナドローンクラスター」。これは日本の企業とウクライナの軍事会社による連携で、在日ウクライナ商工会議所、大学、研究機関、そして地域の企業も参加するというが、現在、ウクライナにおける対ロシア戦争で使われているドローンはヨーロッパで生産されている。そうした西側の戦争ビジネスを日本のアカデミーの世界へも浸透させようとしているのだろう。
東京を拠点とするテラドローン社はウクライナの迎撃ドローン開発企業のアメイジングドローン社と「戦略的投資」を含む資本提携および事業提携に合意、ヨーロッパのエアバス社は川崎重工業と対潜水艦戦用ドローンの開発に関する覚書を締結したと発表されている。またアメリカの軍事企業アンドゥリル・インダストリーズは軍用ドローンを製造するため、日産自動車が閉鎖を予定している追浜工場の買収に向けて協議しているという。開発能力や生産能力が衰えてきた欧米が日本に目をつけるのは必然だろう。
高市早苗政権は4月21日に「防衛装備移転三原則」と「運用指針」を改訂、全ての防衛装備品の移転を可能にした。 武器輸出の制限を緩和したのだ。
すでにアメリカはウクライナにおけるロシアとの戦争や西アジアにおけるイランとの戦争でミサイルやドローンが枯渇、戦場で圧倒される事態になっている。工業製品の生産能力が不足しているからで、その不足を日本に補わさせようということだろう。今後、日本は侵略戦争を続けているアメリカやイギリスをはじめとする国々に対し、殺傷能力のある兵器を輸出することになる。
日本では防衛装備を担当する部署として2015年10月に防衛装備庁が設置された 。その下に防衛イノベーション科学技術研究所(DISTI)という機関が設置されたのは2024年10月のこと。DISTIのモデルはアメリカ国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)と国防イノベーション・ユニット(DIU)で、DIUとは協力関係を推進していくようだ。
兵器にしろドローンにしろ、研究、開発、生産の背後にはアメリカが存在している。日本独自に行うということはありえない。 2024年3月には陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊を一元的に指揮する常設組織として「統合作戦司令部」が編成されたが、これによって 自衛隊はアメリカ軍の指揮下に入ると言われている。
自衛隊の「指揮統制」において、指揮官らの判断を支援するAI(人工知能)としてパランティア・テクノロジーズの「メイブン・スマート・システム」を導入する動き がある。 今年3月、アメリカ国防総省はこのAI指揮統制システムを採用すると発表している ので、アメリカの動きと連携している可能性が高い。このAIが自衛隊をアメリカ軍の一部として指揮するのだろう。
メイブンはデータ中心型のプラットフォームだとされ、衛星画像、ドローンからの映像、レーダーのデータ、戦場センサー、情報報告などを統合する。今年2月に実施された日米共同統合演習「キーン・エッジ」でも試験運用された。
アメリカ国防省はロシアと並んで中国との戦争を想定しているが、その際にウクライナ的な役割を期待されているのが日本だろう。その布石として、菅直人政権は日本が経済的に強く結びついていた中国との関係を破壊する政策を開始した。 昨年 11月7日には衆院予算委員会で「台湾有事」について問われた高市早苗首相は「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と発言して中国を挑発している。
ところで、アメリカがロシアやイランに負けている最大の理由は新自由主義と呼ばれる通貨カルトの政策にある。その中でも生産の軽視と教育システムの破壊は大きな要因だろう。
新自由主義のアメリカでは公教育が破壊され、生産現場で働く技術者が足りなくなっている。アップルの故スティーブ・ジョブスは2010年の秋、当時アメリカ大統領だったバラク・オバマからアップルの工場をアメリカに建設してほしいと頼まれたのだが、それを拒否した。
ジョブスによると、アップルは中国の工場で70万人の労働者を雇っているが、その工場を機能させるためには3万人のエンジニアが必要。アメリカでそれだけのエンジニアを集めることはできないというのだ。中国なしにアップルは機能しないということでもある。アメリカで工場を作って欲しいならそれだけのエンジニアを育てる教育システムが必要だが、状況は改善されていない。
アメリカのエリート校は私立であり、高額の授業料を要求される。トルーマン・カポーティが書いた『叶えられた祈り』の中でウォール街で働いているディック・アンダーソンなる人物は「二人の息子を金のかかるエクセター校に入れたらなんだってやらなきゃならん!」と言っている。(トルーマン・カポーティ著、川本三郎訳、『叶えられた祈り』、新潮文庫)
エクセター校とは「一流大学」を狙う子どもが通う有名な進学校で、授業料も高い。そうしたカネを捻出するため、「ペニスを売り歩く」ようなことをしなければならないとカポーティは書いているのだ。アメリカの中では高い給料を得ているはずのウォール街で働く人でも教育の負担は重い。
その結果、アメリカでは経済的に豊かな親を持つ愚か者が高学歴になり、優秀でも貧しい子どもは排除される。知性のない富豪の子どもたちが跋扈する「一流大学」をありがたがるの愚かだ。
ハーバード大学教授から上院議員になったエリザベス・ウォーレンによると、教育費の負担が親の肩に重くのしかかり、破産する人が少なくないという。公立の学校へ通わせようとしても、少しでもまともな学校を選ぼうとするなら、家賃の高い地域へ引っ越さなければならないと彼女は指摘していたが、その時より現在はひどい状態だ。日本も同じ道を進み、国の力は衰退している。
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【 Sakurai’s Substack 】
【 櫻井ジャーナル(note) 】