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なまけいぬ
自作の小説を載せています。ツッコミどころ満載ですが…
2006年07月08日
テーマ： 連載小説を書いてみようｖ(10150)
カテゴリ： 楽園に吼える豹
アスカはいつものボロアパートに戻り、壁にもたれてぼんやりしている。
リョウジはいない。手に入れたドラッグをリーダーに渡すのだと言って、いつものたまり場に出かけていってしまった。
（さぞ、喜ぶだろう）
リョウジの所属するグループ―――一応アスカもその一員なのであるが―――のリーダーは、まだ十代半ばのくせに悪事の数々に手を染めている、筋金入りのワルだ。見たことはないが、きっとクスリもやっている。
―――クスリ。
畳の上に無造作に置かれた袋を、アスカは何となく見やった。中には白い結晶が入っている。
“お前の分だ。一つくらい貰ったってバチあたんねぇだろ。…嫌なことを忘れられるクスリだ。いい機会だから、お前もやっとけよ”
この粉がどんなものか、アスカはぼんやりとだが知っている。
幻覚。恍惚感。禁断症状。
誰かが言っていた。ドラッグを一度使用すれば、人生の取り返しがつかないと。
（でも…もうとっくに、取り返しなんかつかなくなってる）
『もう限界……もうこれ以上、あなたを愛するふりなんてできないわ…』
母のあの言葉が翻（ひるがえ）ることはきっとない。
彼女はアスカのことを、「化け物」としてしか見たことがなかったのだから。
（“嫌なことを忘れられる”……本当に？）
人から聞き知った知識は、アスカの行動を止めるブレーキにはなりえない。
アスカはゆっくりクスリに手を伸ばした。どうやるのかはわからなかった。けれどその白い粉には、アスカを眩惑するに足りる魅力があった。
（もう忘れたい……嫌なことも辛いことも、それ以外も、全部）
アスカの細い指が、粉の入った袋に届きかけたその時。
アパートの扉を叩く音が聞こえた。
リョウジだろうか。彼は合鍵を持っているはずなのだが。
鍵を持って出るのを忘れたのかと思い、重い体を起こし、扉に近づいたその刹那。
シュッ！！
アスカの左腕を何かが貫いた。
「！」
そうか、あれは銃弾か―――そう気付いた瞬間、撃たれた左腕が猛烈に痛みだす。音が出なかったのは、銃に取り付けられたサイレンサーのせいだろう。
侵入者の一人がにやりと笑う。
「お前一人か？ …まぁいい。カッコからして聞いてた女に間違いなさそうだ」
「バカな真似したな。クスリ欲しさに売人を襲うとは……ガキが調子に乗るからこうなるんだぜ？」
先ほど襲った男どもの仲間か。痛みで顔が歪んでも、それくらいの推測はできる。
なぜここがわかったのか―――そう考えてアスカは顔をしかめた。
（しまった…！ あの時…！）
先ほど二人の男を倒したとき、油断して帽子を取ってしまっていた。相手は気絶していると思い込んでいたが、きっとあの時に顔を見られていたのだろう。
それにしても情報が早い。まさかこれほど早くこちらの居所を突き止めてくるとは。
（…ま、今までさんざん悪目立ちしてたんだから、当然か）
口の端に自嘲的な笑みが浮かぶ。
「なぁ、こいつヤっちまってから殺さねえか？」
男の一方が下卑た笑みを見せた。銃はアスカに向けたままだ。アスカは振り向かずに背後をうかがう。後ろには窓があったはずだった。
「お前、そんな趣味あったのかよ。まだガキだぞ？」
「う、うるせえな！ そんなの俺の勝……」
男が最後まで言い終わらないうちに、彼のアゴにアスカの強烈な一発がヒットする。脳天に突き抜けた衝撃に男が銃を空へ放り出した。それをアスカが逃さじとキャッチする。
「てっ、てめ…！」
相棒がノックアウトされてようやく現状を認識した他方の男は、アスカに銃を向けるも、彼女に代わりに腕を撃たれてしまう。
「うぎゃっ…！」
男が苦悶の叫び声を上げて銃を取り落とす。その隙にアスカは、窓ガラスを突き破って外へ飛び出した。
彼女がいた部屋は二階だったが、「豹（パンサー）」のDNAを持つアスカには何でもない高さだ。
遠ざかるアパートから、隣人が騒いでいる声が聞こえたような気がしたが、アスカは立ち止まらなかった。血がぽたぽたと左腕から流れていても、止血しようとさえ思わなかった。
（あいつらがあのアパートへ来たってことは、あたしのほかにリョウジも狙われてるかもしれねえ…！ 知らせないと…！）
リョウジがいる場所はわかっている。彼のグループがいつもたまり場にしている廃工場だ。
痛みをこらえつつ、アスカは夜を切り裂きながら走った。
つづく
ネット小説ランキング、人気ブログランキングに参加しました。
長かった外伝もいよいよ終盤に差し掛かってきました！
次回は最大の事件がアスカに降りかかります！応援よろしくお願いします！(^_^)
↓
リョウジはいない。手に入れたドラッグをリーダーに渡すのだと言って、いつものたまり場に出かけていってしまった。
（さぞ、喜ぶだろう）
リョウジの所属するグループ―――一応アスカもその一員なのであるが―――のリーダーは、まだ十代半ばのくせに悪事の数々に手を染めている、筋金入りのワルだ。見たことはないが、きっとクスリもやっている。
―――クスリ。
畳の上に無造作に置かれた袋を、アスカは何となく見やった。中には白い結晶が入っている。
“お前の分だ。一つくらい貰ったってバチあたんねぇだろ。…嫌なことを忘れられるクスリだ。いい機会だから、お前もやっとけよ”
この粉がどんなものか、アスカはぼんやりとだが知っている。
幻覚。恍惚感。禁断症状。
誰かが言っていた。ドラッグを一度使用すれば、人生の取り返しがつかないと。
（でも…もうとっくに、取り返しなんかつかなくなってる）
『もう限界……もうこれ以上、あなたを愛するふりなんてできないわ…』
母のあの言葉が翻（ひるがえ）ることはきっとない。
彼女はアスカのことを、「化け物」としてしか見たことがなかったのだから。
（“嫌なことを忘れられる”……本当に？）
人から聞き知った知識は、アスカの行動を止めるブレーキにはなりえない。
アスカはゆっくりクスリに手を伸ばした。どうやるのかはわからなかった。けれどその白い粉には、アスカを眩惑するに足りる魅力があった。
（もう忘れたい……嫌なことも辛いことも、それ以外も、全部）
アスカの細い指が、粉の入った袋に届きかけたその時。
アパートの扉を叩く音が聞こえた。
リョウジだろうか。彼は合鍵を持っているはずなのだが。
鍵を持って出るのを忘れたのかと思い、重い体を起こし、扉に近づいたその刹那。
シュッ！！
アスカの左腕を何かが貫いた。
「！」
そうか、あれは銃弾か―――そう気付いた瞬間、撃たれた左腕が猛烈に痛みだす。音が出なかったのは、銃に取り付けられたサイレンサーのせいだろう。
侵入者の一人がにやりと笑う。
「お前一人か？ …まぁいい。カッコからして聞いてた女に間違いなさそうだ」
「バカな真似したな。クスリ欲しさに売人を襲うとは……ガキが調子に乗るからこうなるんだぜ？」
先ほど襲った男どもの仲間か。痛みで顔が歪んでも、それくらいの推測はできる。
なぜここがわかったのか―――そう考えてアスカは顔をしかめた。
（しまった…！ あの時…！）
先ほど二人の男を倒したとき、油断して帽子を取ってしまっていた。相手は気絶していると思い込んでいたが、きっとあの時に顔を見られていたのだろう。
それにしても情報が早い。まさかこれほど早くこちらの居所を突き止めてくるとは。
（…ま、今までさんざん悪目立ちしてたんだから、当然か）
口の端に自嘲的な笑みが浮かぶ。
「なぁ、こいつヤっちまってから殺さねえか？」
男の一方が下卑た笑みを見せた。銃はアスカに向けたままだ。アスカは振り向かずに背後をうかがう。後ろには窓があったはずだった。
「お前、そんな趣味あったのかよ。まだガキだぞ？」
「う、うるせえな！ そんなの俺の勝……」
男が最後まで言い終わらないうちに、彼のアゴにアスカの強烈な一発がヒットする。脳天に突き抜けた衝撃に男が銃を空へ放り出した。それをアスカが逃さじとキャッチする。
「てっ、てめ…！」
相棒がノックアウトされてようやく現状を認識した他方の男は、アスカに銃を向けるも、彼女に代わりに腕を撃たれてしまう。
「うぎゃっ…！」
男が苦悶の叫び声を上げて銃を取り落とす。その隙にアスカは、窓ガラスを突き破って外へ飛び出した。
彼女がいた部屋は二階だったが、「豹（パンサー）」のDNAを持つアスカには何でもない高さだ。
遠ざかるアパートから、隣人が騒いでいる声が聞こえたような気がしたが、アスカは立ち止まらなかった。血がぽたぽたと左腕から流れていても、止血しようとさえ思わなかった。
（あいつらがあのアパートへ来たってことは、あたしのほかにリョウジも狙われてるかもしれねえ…！ 知らせないと…！）
リョウジがいる場所はわかっている。彼のグループがいつもたまり場にしている廃工場だ。
痛みをこらえつつ、アスカは夜を切り裂きながら走った。
つづく
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