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2016年07月18日
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カテゴリ: 鈴木藤三郎

二 第二期の一 明治二十七年より三十三年に至る

日本精製糖株式会社の設立  他人の資本を借りて事業を起そうとする過誤を悟られた君は、暫く雌伏して専ら財力を養い、東京に出る資本を作られ、かつて観察しておいた小名木川の地に移転し、工場を設け、精糖氷糖の業を営まれ、将に大いに雄飛しようとされた。由来人生の行路は険しさ、平らかは常でなく、順逆の境は予期することはできない。順風で波穏やかに事業を進めてきた君は、一朝火災にかかり、器械工場の有形の財産はすべてすっかりなくなる不幸に遭遇し、ほとんど立つことができない打撃をこうむり非常の逆境におちいった。しかし君の頭脳は災厄にあうごとに鍛錬いよいよ堅く、勇気ますます加わり、禍を転じて福と為す方策を講じ、初一念の貫徹に尽したので、よく経済界の変調をもしのぐことができ、事業は追々栄え行くこととなった。

 明治二八年日清戦争は平和の終局を見ると共に、一時沈静した我が事業界は俄然活気を呈し各種の事業勃興し、糖業界の前途を想えば、その需要ほとんど無限というべく、砂糖の原料産地で有名な台湾島は我が版図に帰し、事業拡張上得難い好時期に際会いたといわなければならない。独力薄資この事業の拡張をはかれば数年後でなければ、十分の拡張をはかることができないと感じられた君は、むしろ一身の利益は減ずるも衆と共に利をわかち、この得難い時期に投じ規模を大にし、国家の利益を興すこそ愛国経世の士として取るべき方針であるとされ、断然その計画を立てられた。多少の障害に遭遇したものの例の頭脳はよくその障害に打ち勝ち、吉川・長尾両氏の賛成を得たので、ここに発起人会を開くことになって、長尾氏の別邸に集会して席上会社設立の要項を協定し株式の募集に着手することになった。そこでこれを発表すると大いに世人の歓迎を受け、旬日を出でずして予定株数に超過するの好況で、我が国唯一の精製糖株式会社は創立され、長尾氏は社長に、吉川氏は取締役に、君はその専任取締役に就任し、事業を担任する事となった。ここにおいて君は従来独力経営してきた精糖氷糖の両工場を挙げて会社に譲り、多少経験してきた手腕をふるって専ら拡張に従事された。従来資本のために制せられ、十分に能力を発揮することができなかったから、事業の発展はそれらを顧慮するところもなく、自由に手腕を振う事になったから、事業の発展は君の予期にたがわず、会社は太陽が東の空に昇る勢いをもって隆運に赴いた。君が生命をかけた事業はここに全く成功したので、その得意想うべく、会社創立より五年ばかりの間は天馬にむちうって広原をかける勢いであった。

欧米糖業上の視察  君の計画は見事に的中し、社運の隆盛と共に、一たび欧米に渡航してかの地の糖業を視察し、精巧な新機械をも購入し、かつ南洋における原料産地の実況を調査し、一大拡張をはからんとされた。

 社長はじめ重役一同君の計画を歓迎し、議はたちまち決して、君は万里の波濤を航して世界一周の壮途に上る事となった。これ明治二九年七月一四日で君が歳まさに四二歳の時であった。






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最終更新日  2016年07月18日 00時13分01秒


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