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2021年02月04日
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カテゴリ: 鈴木藤三郎
「鈴木藤三郎伝」鈴木五郎著 218~219ページ
この明治35年(1902年)に、藤三郎は、静岡県駿東郡富岡村桃園に鈴木農場を開いた。御殿場線佐野駅(今の裾野駅)から北へはいった所で、前に黄瀬川の清流を控え、近くに愛鷹(あしたか)、はるかに富士の山々を仰いだ眺望絶景の仙境である。この経営には長男の嘉一郎が当った。
写真の説明はありません。
この農場の面積は、約百町歩にわたる大農場であって、その中に16町歩を茶園を主として、果樹園14町歩(桃、柿、りんご、ぶどう、おうとう、みんな、びわ、くりなど)、野菜園12町歩、山林約50町歩があった。また、牧畜部には、乳牛60頭、馬11頭、鶏500羽などが飼育されていた。11戸の農大家族が農場内に住んでいて、農繁期には男女約100人の農夫や茶師が働いていた。
 藤三郎は、すでに商業に、工業に、植民地農業に応用して、非常な効果をあげた報徳の仕法を、ここで内地農業に応用して、わが国の全産業に対する報徳流の経営の規範を完成して、尊徳の遺徳に報いたいという念願を起したのであった。
この12月12日に、五女ちかが生まれた。


※不二農園の歴史
裾野市の桃園地区に広がる不二農園は不二聖心女子学院のキャンパスと一体をなし、その歴史は、明治の初期、禄を離れた江戸幕府旗本7名が官有地払い下げを受け、農場を開墾し茶を捲いたことから始まる。その後、明治の頃、遠州森町生まれの実業家で、後に大日本精糖会社を設立した製糖業の第一人者、鈴木藤三郎氏に引き取られ、「鈴木農場」として茶のほか、果樹、酪農、造林にも手を広げた。さらに、大正初期、当時北浜銀行の頭取で関西財界の有力者であった岩下清周氏がこの農場を受け継ぎ、「不二農園」と改め、氏は近代農業に取り組む一方、私財を投じて地域の子供たちのために温情舎小学校(不二聖心の前身)を同地に設立した。その志は、長男でカトリックの司祭でもあった岩下壮一氏(当時、神山復生病院院長、温情舎小学校校長)に受け継がれ、戦後昭和20年、岩下家より、約21万坪におよぶ同農園が聖心女子学院に寄付され、今日にいたっている。(同年、温情舎小学校の経営も移譲された)


※ 駿河みやげ《下》(国府犀東 斯民第1編第12号明治40年3月23日号現代語訳して抜粋)
◎佐野の駅に着く。停車場の薄暗い中に鈴木氏の家の者が出迎えていた。出口に行くと手に手にチョウチンをかかげる。みな鈴木農場と筆太にしるしてある。人力車にのせられ闇の中を行く。


◎道は橋より左に折れて、急な流れの音を左側に聞きながら、人力車は坂道の下に来る。・・・坂を登ってなかばにあたる。右に離して門を設けているが戸はない。前に植えられた木立を縫ってまず玄関に入る。鈴木氏が出迎えて『さぞ寒かったでしょう』と言う。その声は例のとおり朗々としている。

◎招かれて二階に登る。欄の外にガラス戸を立てて閉めきって展望に便利である。北東南の三面は皆開いていたが暗い夜なのでどうしよう。8畳と14畳の2室、前者の東ヒサシに額が飾ってあって、『桃園』の二字が書かれている。山岡鉄舟の筆である。後ろの額には竹を描かれている。三幅対の大きな南朝三名臣の絵もあった。画業で有名な菊池氏の子孫が描いている。床の間の左側に白衣観音の古像がる。古色蒼然として由緒があるような木像である。つくづくと見ると鎌倉の禅寺で見た所と、彫刻の技法がとても似ている。運慶の作であろうかと推察される。

◎座が定まって話が始まる。主人も客も皆話好きである。何かと話をする中、鈴木氏が観音像を座上に引き出してくる。空ぼりの像の裏に署名があり、寿永二年運慶作としるす。鈴木氏は「もとは箱根権現にあったものと伝えられています」と言う。なつかしい観音様かな。昔、曽我五郎が幼時にかばわれたお寺にあった仏像である。虎の御前が冥福を祈った寺の仏像である。作の運慶というまでもなく、人を非常に懐かしい気持ちにさせるが、それよりも一たび700年前の鎌倉時代を目前にホウフツとさせるのは、さすがに芸術の力である。・・・

◎旅の服装をぬいで、和服に着がえて浴室に入る。順番に入浴をおえて広間に並ぶ。配膳は規則正しくならべられて、鈴木父子が座を並べてきちんと座っている。酒を勧められても杯を傾ける者はない。腹がへっているから2椀・3椀とご飯をいただく。・・・

◎コウコウとして朝の光は欄の東にみちる。板戸のすき間から金線のようにさして、枕もとの観音像を薄暗い中に現前させる。寝すごしたと起き出す。板戸をあけれ、部屋はまさにあさひと向かい合って、箱根の連山や、伊豆につらなる峰々は霞を帯びて、沐浴したばかりの美しい人にも似ている。建物の下に滝の流れは、急流ちょなって水の声が石にほえる。我を忘れてしばらく物思いにふける。明治40年1月4日である。

◎一人起き二人起き、さながら旅館にいるようである。本当に報徳旅行の一行7人とはよくも言ったものだ。顔を洗い口をすすいで、まずえんの下に出る。庭ゲタをひっかけて庭を歩く。鈴木氏が客に応接していたが、少しして客が去ると、同じように庭に来て『こちらへ来なさい』と導いて、建物の北側に小さな谷を作ってあるを指さし、そこの三重の小さな滝の流れの上にカヤ葺きのアズマヤがあるを見なさいと言う。西に小さな滝を見下しながら、その上に小さな丘の頂きが重なっている。竹林が茂った上に、富士の頂きに真白い雪をいだいたのが、鈴木氏の園中をのぞきこんで風情で『諸君おはよう』といわんばかりである。

写真の説明はありません。
◎導かれて養鶏の小屋に行く。鉄網を張った中に西洋種の肥えた鶏が羽も美しく、ヒナを引きつれてその中に遊ぶ様子は、とてものどかである。がちょうの一隊、あひるの一隊が、そのあたりに分列式を挙げてわたしを迎える。再び庭に来ると、そこにも、ねぐらを設けてある。日もあがったがまだ起き出してこない。・・・鈴木氏の長男が『鶏)は十分にねむらしたほうが、発育にはよいのです。早く起こして寒さにあわせるのよくありません』と言う。用意は極めて周到で、鶏を養うことは孫を愛するようである。(略)

◎農場の主任らしい人が、静かに農場の説明が始める。まずこの地はどこかと聞くと、静岡県駿東郡富岡村字桃園という。それから反別などを語るのを記すと、
 総反別  78町9反1畝13歩
  内 田    8畝11歩
    畑    14町7反9畝21歩

    山林   63町9反2畝22歩
この買入価格は1万8千円で、その後開墾などに要した経費を合せると、3万1千円に及ぶとの事である。(相田氏の手帳による)

◎鈴木氏が語るところによると、この地はもとは幕臣黒田久綱氏ほか4名が共同して、明治6年頃から開墾し始めたものであるが、黒田氏はその後東宮武官として長く在職したが、他の人々はいずれも零落したため、ようやく黒田氏の補助によってこの地の開墾を経営していたが、次第に困窮して事業はますますふるわない。そうかといってこの地面を分割して売却するにも忍びないと、困っていたところ、明治32年に駿東郡長の交渉もあって、鈴木氏がついにこの地を買い入れて、開墾に従事することとなったという。
◎小作人は今10戸を数え、農事の忙しい時には、他から雇いいれること、常に10人。小作人には、まず4間半に2間の家屋を建築し、無料で貸与し、鋤鍬の類を給与する。農場の中の5町歩ばかりには、リンゴ、ブドウ、桃、柿等の果樹を栽培する。野菜は小山の富士紡績会社に交渉して、職工の副食に提供している。会社でも新鮮な野菜を得られる道も開けたといって大変喜んでいるという。製茶については、年1千貫目を生産し、一農場でこのくらいの額を生産するものは、今日非常にまれだとという。現在、牛ごやを建築中で、ここに放牛をし、さらには肥料をこれにあてようという計画であるという。養鶏数百羽、その他アヒル、ガチョウなどいる。これを鈴木農場における事業の一端とする。(略)

◎農場を望めば、茶畑が続き、茶畑が連なって、上に富士の霊山が厳然としている。丘の下に滝の流れが崖に迫って急な流れを激しくさせる。再び馬にのって農場に向う。途中、鈴木氏がその馬をとめて下方を指さして、『定輪寺の旧地域は、昔、この辺まで及んだが、今はすべて農場の中に入る』といって、一山を隔てる寺を指さして教える。・・・



◎昼飯をおえ、汽車の発着の時刻も迫っていたので、慌てて暇を告げ出発する。鈴木氏は馬に乗り、鞭を横にたずさえて送る。私の馬はその後に従って、走るのがとてもはやい。心もとなき馬術なので、数回跳ね落とされそうになった。馬は一散に駆け出して停車場が近づく。一行は皆列って汽車は出発に間にあった。『サヨナラ』の一声、汽車は音を立てて走りさった。





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最終更新日  2021年02月04日 19時40分09秒


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