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2021年02月06日
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カテゴリ: 鈴木藤三郎
大阪新報 1912.5.27 (明治45)
北海の一大富源
鈴木藤三郎氏述
月曜講壇
左に掲ぐるは鈴木藤三郎氏北海道視察所感の一部なり
予は明治四十四年十二月厳寒を冒して北海道に赴き同地の漁業家が如何なる方法を以て其漁獲物を処分しつつあるかを調査したり、其結果、予は北海道に於ける水産業が猶極めて幼稚の域に在ることを看取し、且つ本邦の他の如何なる生産業にも譲らざる驚くべき一大利源が北海の沿岸全部に亘りて空しく閑却せられつつあるを発見し、頗る奇異の感に打たれざるを得ざりき、特に左に掲ぐる四項の如きは予の最も怪訝に堪えざりし所なり。
第一、魚類は栄養価に富む食料品として需要の多大なること今更論ずる迄も無き所なるが、別て獣肉の高価なる東洋においては食膳の珍味として魚類の尊重せらるること、欧米諸国に超ゆるものあり故に如何に一時に多大の漁獲あるとするも、其処分方法にして完全ならば多々益益販路に苦しまざる可きは何人も疑を容れざる所なり。然るに北海の漁獲物は唯其一少部分が食料品に当てらるるのみにして、其の大部分は魚粕に製造せられつつあるなり。内地の一部には貧困にして食を動物性栄養品に採るの資力に乏しく、顔面皆菜色を呈しつつある一面に於て最も蛋白質及び脂肪分に富める生魚が人間の食料ならぬ植物の肥料に製造せられつつあるの有様なるを見たる時、予は第一に奇異の感に打たれざるを得ざりしなり。是れ豈厚生利用の道を誤れるものにあらずや。天下産業の進歩発達に意を注ぐ志士仁人少からずと雖も、一人の起って之が救済の衝に当らんとする者なきは実に照代の一大恨事と云わざる可らず
第二、適当なる生魚処分の案出せられざる今日、漁獲物の大部分を肥料に製造する亦已むを得ざるに出づ可しとするも、之れを煮熟するに当りて生じたる液汁の大部分を悉く地に委して顧ざるは、是れ予が奇異に感じたる第二の現象なり。凡そ製造業なるものは粗なる原料に加工して比較的精なる物品を製出するを以て目的として精製の工程中に生じたる残物を以て槽粕又は副産物と為し肥料其他比較的劣等なる用途に充当せらるるを以て常態と為す然るに此の魚粕製造業に至りては最初より粕を製造するを以て目的となし、其原料中に包有する滋養分と美味とが浸出して濃厚となれる液汁を放棄するに至りては是実に天下の奇観と謂わざるを得ず、予を以て之を見るに右の液汁は精にして残れる固形物は粕なり。然るに北海の漁業家は精を捨てて粕を尊重し而も天下挙て之を怪しむ者なきに至りては予は其余りに不合理なるに呆然たらざるを得ざるなり。茲に於てか液汁利用の道自ら起らざるを得ず。
第三、元来塩分は肉質の香味を毀損するものなるが故に総じて塩蔵品の味は乾製品に比して一段劣等の地位にあるは争う可らざる事実なり。殊に塩鮭及び塩鱒の如き、一定の時日を経過するときは俗に「油焼け」と称して一種異様の悪色を魚相に与え、価格の如きも肥料に比して遥に下位に在るの奇観を呈すること稀なりとせず。又鱈の如きも塩鱈と開鱈とは其の価格に著しき差異あるを以て近時或る漁業会社は北海より塩鱈を輸入し房州に於て塩分を除去したる上、開鱈に製造して広く市場に之を販売しつつあるのみならず、農商務省亦此事業を奨励して右の開鱈一尾につき何銭の補助を与えつつありと云うに至りては、予は其余りに迂遠極まるに喫驚せざるを得ざるなり。若し人あり、人工乾燥装置を其漁□地たる北海に持ち行き、直接に開鱈又は塩鮭、塩鱒の製造を開始するに於て其利益果して如何ぞや。

以上述ぶる所の四点は予が親しく北海の水産業を視察して最も痛切に感じたる不思議の現象なり。然るに此の不思議の存する所は即ち北海に一大遺利の存する所以にして、予は予の専門に属する機械の販路を開拓せんが為めに北海に旅行して計らずも驚くべき一大富源が此の未開の地に横たわれるを発見したり若し漁獲したる水産物に対し出来得る丈け之を乾燥して食料の方面に向け、尚お残余あるときは之を魚粕に製造し短時間に能く其水分を除去して品質優良の肥料と為し、而して魚粕製造の際生じたる魚肉精分の浸出液は別に之を利用するの道を講ずるに在り。而して右の計画を実行するに当りては予は多くの文明的利器を応用するの必要なるを認めたり。





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最終更新日  2021年02月06日 08時49分23秒


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