観空

May 19, 2009
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大切な人を愛する。

それが彼の全てでした。

炎天下の真夏、真冬吹雪の中、大嫌いな車や飛行機に乗る事になっても、大切な人の側にいる。

見た事もない、初めての土地でも何時も一生懸命その頭を働かせ彼女の目となり続けました。


膝が壊れてしまい手術をした直後、大切な人の側から離れまいと動かない脚を駆使して階段を上りました。

年老いて長い距離を歩く事が難しくなりました。膝関節の軟骨が殆ど無くなっており、一歩一歩がとても痛いはずでした。でも彼は歩く速度を緩めただけで、大切な人と居るという喜びを手放す事はありませんでした。


彼女の目となる事が出来なくなった朝、今までと同じように彼女を待つ彼を置いて、彼の後任である若造と大切な人が去った後、困惑する事なく扉の前に座り続けました。


新人がはしゃぎ過ぎた時、素早く、そして軽く若造の鼻先を噛みました。

この時、この一度だけで彼がこの家の柱、ルールである事を教えたのです。

何時吼えて良いのか。大切な人を守る為にどんな行動を取るべきか、家を預かる身として尊厳のある態度とはなにか。。。。。すべてを教えたのは彼でした。

それ以外にも大切な人と何故か一緒にいるもう一人の二本足は背中を掻かせるのに丁度良い玩具である事、この玩具は大切な人からはあまりもらう事が出来ないおやつをねだるとかなりの確率で成功する事、大切な人とこの玩具の会話に絶妙のタイミングでコメントを入れる方法など。。。家族の中でどれだけ喜びがあるか、家族にどれだけの愛があるかを新人に示したのも彼でした。

新しい家に引越してから一年、階段を下りる事はなんとか出来ても上る事は日に日に難しくなりました。

そして全く上れなくなった日、前脚を一段目に乗せた所で痛みを訴える声を上げたのでした。この声が無ければ彼はあの時に死んでいたかもしれません。それ以外は普段とまったく代わりが無かったからです。かなり醜い腎臓炎でした。

結局彼が痛みで吼えたのはこの時だけでした。



そんな事を経験してもなお生きる事に執着した彼。ふらふらしながらもその後二年間私達と時を過ごしました。

大切な人と一緒にいたいから。

大切な人が彼と一緒にいたいから。

愛ゆえに

とても頑固な彼。



そんな彼が私達に別れを告げに来たのは二日前の夜。

椅子に座っている私達の太ももに頭を乗せて何度も何度も撫でられる事を求めてきました。

彼の為ではなく私達の為だったのでしょう。

その夜、良性ではあったけど位置と彼の年齢の為に摘出手術をする事が出来なかった皮膚腫瘍が破裂。

あっという間に壊死状態になったそれをどうにもする事は出来ません。



彼は最後の最後まで自らの脚で歩む事を望みました。

動物病院に入る前に、彼はリードを引っ張って存分に病院の裏にある広い広い庭を何十分も歩き続けました。ふらふらしながらも見るモノは全てみて、嗅げるものはすべて嗅ぐ。

それが終わった時、彼は私を見上げてから自ら病室へ進んでいきました。

床に敷かれた白い毛布の上に横たわり、最後に私達を見つめた後、準備はできた。。というように目を閉じて獣医の注射を受け入れたのでした。


私達の為に今までどれだけの痛みを我慢していたのでしょう。。。。

最後に私が彼から感じたのはとてつもない開放感でした。

dogs_small2.jpg
Keifer 1993/12/29~2009/5/19


今まで本当にありがとう。






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Last updated  May 21, 2009 10:02:59 AM
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