じゃくの音楽日記帳

じゃくの音楽日記帳

2010.10.27
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カテゴリ: 演奏会(2010年)
ところで 10月16日のスクロヴァチェフスキ/読響の定期演奏会(ブルックナー7番)

開演少し前に、いつものように場内アナウンスが流れ始めました。「携帯電話の電源をお切りください云々」という、いつもの放送でしたが、アナウンスの最後に、「拍手は、指揮者が手を下ろすまでお控えくださるようお願いいたします。」と放送が僕の耳に飛び込んできて、びっくりしました。

近頃はこういうアナウンス、時々あるのでしょうか?僕は初めて気が付きました。このアナウンスを聞いて、5年前のスクロヴァ&読響の7番の演奏会での、とある事件の記憶がまざまざと甦ってきました。「スクロヴァ7番大フライングブラボー事件」です。

話は5年前にさかのぼります。2005年のスクロヴァ&読響のブルックナー7番は、今回と同じ二日連続の公演で、4月17日日曜日が特別演奏会、翌18日月曜日が定期演奏会。両日ともサントリーホールでした。僕は二日目を聴きに行ったのですが、ホールに行ってみると、「残響が消えるまで拍手はお控え下さい」という内容の張り紙が張り出されていて、とても驚きました。異例の張り紙です。

何でこんな張り紙が出たのか、あとで誰となく伝え聞いたことなので確証はありませんが、どうも前日の演奏のとき、相当ひどいフライング・ブラボーがあったらしいんです。そのための張り紙処置だったようです。もともと読響の定期会員の方々は見識のある方が多く、指揮者が手を下ろすまで拍手をしない習慣がかなり守られていました。僕は読響の定期会員になったことはありませんが、当時読響の定期演奏会に行くと、終わりのマナーが非常に良くて、指揮者の手が下ろされるまできちんと充分な静寂が得られることが多くて、感心していたものです。そのような状況下で、ひどいフライング・ブラボーがあったのだとすれば、絶大な破壊的効果を発揮したことは必至で、他の聴衆から相当なクレームが上がったでしょうし、もしかしたらスクロヴァ自身も不快感を抱いたのかもしれません(注1)。そのための二日目の異例の張り紙処置だったのか、と想像しました。

5年前、僕の聴いたこの二日目のときは、この張り紙の効果で、幸いにもひどいフライング・ブラボーはありませんでした。しかしやはり、まだ残響が消えるか消えないかのうちに、少なからずの人のフライング拍手が始まりかけてしまいました。このときは、張り紙の効果でか、始まりかけた拍手が、その直後(1~2秒か)に一度、ほぼ鎮まりました。そこまでスクロヴァはずっと指揮棒を上にかざしたまま静止していましたが、拍手が鎮まりかけたそのあとすぐに手をおろし、そこからあらためて拍手が始まりました。結果として、出鼻をくじかれたような、中途半端な拍手の始まりかたになってしまいました。もちろんひどいフライング・ブラボーよりは格段にましでしたが、これがもし、普段の読響での演奏会のように、指揮者が手を下ろすまで静寂が保たれていたら、この日の極めて充実した演奏を締めくくって讃えるにふさわしい、はるかにすばらしい「場」が成立していたことでしょう。

このような5年前の事件を踏まえ、今回の演奏会、おそらくスクロヴァ自身、5年前のような事態になるのを避けたかったのではないでしょうか。ましてや今回は録音するわけですから、CDとして売り出すのにも邪魔なフライングは困る、という楽団側の事情もあったのかもしれません。それでこういったアナウンスを流したのでしょうか。無粋といえば無粋ですが、フライング・ブラボーでぶちこわしになる恐れを回避するためには、やむを得ない処置でしょう。

さて今回、最初に演奏されたシューベルトの未完成では、演奏終了後、一応残響は消えるまで拍手はおこりませんでしたが、スクロヴァが手をおろしはじめるまえからぱらぱらと拍手がはじまってしまいました。



いよいよブルックナーが終わったとき、誰一人拍手を始めず、スクロヴァはしばし指揮棒を上にかざし、残響も完全に消え、完全な静寂のひとときが、ホールに訪れました。ほんの何秒かだったと思います。そしてスクロヴァが指揮棒をおろし、それから嵐のような拍手とブラボーが始まりました。アナウンスの効果は絶大でした。

こういったアナウンスによる静寂のアピールは、「強制された静寂」として嫌う向きもあろうかと思います。僕も正直そのあたりは、複雑な心境です。本来なら、こんなアナウンスなどなくとも、聴衆が自主的なマナーとして実行すべきことです。現に、何年か前の読響定期では、それが実現していたのですから。

でも一部の心ない、というか、悪気はないのでしょうけれど、配慮のないフライングの拍手・ブラボーは、わずかひとりいただけでも、終演後の貴重な静寂の瞬間、かけがえのないひととき、それをもってこそ音楽の受容が完結する、その重要な静寂が失われてしまうわけだし、実際に5年前にはそういう事件が起こったのですから、現状ではやむをえない、必要な処置かと思います。

もうこの際開き直って、野暮だろうが無粋だろうが、一時期こういうアナウンスを徹底して流したらどうでしょうか(爆)。この習慣がマナーとして定着するかもしれません。そしたらすごく良いことだと思います。これは主義とか考え方による個人の好みで決めて良い事柄ではなく、基本的なマナーだと思うんです。

「オレは音楽が終わってから間髪をいれずに拍手したい」という人もいるでしょう。だけど、「音楽が終わってから静寂がほしい、拍手はそのあとから」と思う人が(おそらくかなりの多数)いるんです。その(おそらくかなりの多数の)人たちのために、ほんの何秒か拍手を差し控えていただくのは、「強制」ではなく、マナーだと、思うんです。

拍手は指揮者が手を下ろし終わってからする、これが演奏会の基本的マナーとして定着することを強く期待します。

折角コンサートに行くんです。
音楽が、静寂からたちのぼり、静寂に帰っていく。
それを一緒に見届け、いや聞き届けようではありませんか。




(注1)スクロヴァは、このあたりについて、かなりこだわりがあると思います。2007年9月、スクロヴァがやはり読響でブルックナーの3番を振ったときのことでした。第二楽章の見事な演奏が終わったときのことです。曲が静かに豊かな余韻をたたえて終わり、残響が消え去った瞬間に間髪をいれずに、客席から咳払いが起こりました。良くある普通の咳払いの程度の音量でしたし、残響が鳴っているときではなく、一応消え去ったとほぼ同時くらいの咳払いでした。ですので、それほどめくじら立てるようなノイズではありませんでした、ただ、できることならもう少し時間をあけてから咳払いして欲しいなとは思うような、咳払いでした。そしたら、なんとスクロヴァは、左手を上に突き上げ、不快感を表したのでした!さすがに客席の方を振り向きはしませんでしたが、それは明らかに、早すぎる咳払いへの不満のアピールでした。舞台上でこういう怒りの表明を指揮者がするのを見たのは初めてで、驚きました。スクロヴァが、いかに音楽の終わったときの心的余韻を大事にしているかがわかりました。





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Last updated  2010.10.29 00:21:35 コメント(8) | コメントを書く


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