じゃくの音楽日記帳

じゃくの音楽日記帳

2013.01.02
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カテゴリ: 演奏会(2012年)

引き続き書きます、2012年コンサート。
2012年11月のクレーメルのリサイタルのことを書いておきたく思います。

クレーメルは大好きなヴァイオリニストです。

もう随分前になりますが、香山リカさんがテレビ番組の中で、クレーメルが大好きという話をしているなかで、「私にとって、クレーメルはジャンルなんです。」と仰った発言が、妙に強く記憶に残りました。そのときはその言葉の意味が良くわからず、「ひとりのヴァイオリ ニストがジャンルっていうのは、なんか変だな」としか思わなかったのですが、その違和感が心に長くひっかかっていました。やがて随分あとになって、その言葉の意味に合点がいきました。

僕の80~90年代はCDをひたすら買っていた時期で、増え続けるCDを収納する場所の問題と同時に、CD をどのように分類してしまうか、ということに悩むようになりました。(いまの若い人だと、CDのような物理的物体としてのメディアから離れることが進んでいるでしょうから、CDの収納なんて話はぴんと来ないかもしれませんが。)当初はレコード芸術誌の分類に従って、「交響曲」「協奏曲」などの分類方式ではじめま したが、すぐにもっと細分化する必要を感じ、作曲家別の分類をとりいれました。マーラーとかブルックナーとかバッハとか、好きな作曲家のCDの多くは、それでほぼ解決しました。困ったのが、いろいろな作曲家の曲が入っているCDです。その中で特定の楽器によるCDは、「ピアノ」「ヴァイオリン」「フルー ト」など楽器別に分類することで大体決まっていきました。

しかしそれでも困るものがありました。いろいろな作曲家の、いろいろな楽器編成の作品が入っているCDです。それからもう一つ困ったのが、たとえばクレーメルが演奏したショスタコーヴィチとシュニトケの作品が入ったCDを、「ヴァイオリン」の分類に入れるのか、それとも作曲家の分類としての「ショスタコーヴィチ」あるいは「シュニトケ」の分類にいれるのか、あちら立てればこちらが立たず、と悩むことが多くなりました。いろいろ試行錯誤を繰り返しているうちに、はっと思いついたのが、そうだ、自分がそのCDを買うのに理由がある、その中で一番主要な理由で分類すればわかりやすいぞ、と思いました。たとえばマーラーの作品だから買ったのなら「マーラー」、ヨッフムの指揮だから買ったのなら「ヨッフム」とするわけです。沢山の作品が入っているCDは、たとえばもしイギリスの合唱曲が沢山入っているので買ったCDなら、「イギリスの合唱曲」とすればいいな、と。

そうしたときに、このCDはクレーメルだから買った、というのであれば、「クレーメル」という分類にすれば良い、と気がついたんです。そう気がついたときに、目からうろこで、あっ、あのとき香山リカさんが言っていたのはこのことなんだ、と合点がいったのでした。これ以後、好きな演奏家のCDがある程度たまったら、それをジャンルにしてしまうことで、分類がだいぶ楽になりました。ちなみに今のところヴァ イオリニストでマイ・ジャンルになっているのはギドン・クレーメルとナイジェル・ケネディの二人だけです。このごろはCDをあまり買わなくなったので、この二人に続いてジャンル入りするヴァ イオリニストは、当分登場しそうにありません。

80~90年代のクレーメルのCDは結構沢山買いました。その中で僕が特にお気に入りなのは、ロッケンハウス音楽祭の音源からアンコールピースを集めたCDに収録されている、アルゲリッチとのクライスラーの「愛の悲しみ」の演奏と、ピアソラの 「ブエノスアイレスのマリア」のCDと、ペルトなどのバルト3国の作曲家の作品を集めた「From My Home」というCD、シュニトケのヴァイオリン協奏曲4番などを収めた「Out of Russia」というCD、シルベストロフの「dedication」と「post scriptum」を収めたCD、などです。

しかしクレーメルを生で聴いたのは、これまで多分2回だけです。最初は、渋谷Bunkamuraのシアターコクーンでの、ピアソラの「ブエノスアイレスのマリ ア」。この曲のCDが発売されて少しあと、クレーメルたちがこの曲を演奏しながら世界を回っているときの一環のコンサートで、もうめくるめく最高のひとときでした。あともう1回は、2000年代にサントリーホールで、バッハとシュニトケをクレメラータ・バルティカと演奏したとき。これもなかなか刺激的な体験でし た。

僕の中のクレーメルのイメージの中心は、同時代作品を、研ぎ澄まされた演奏で世に広めていくシャープな伝道者、でした。そんなクレーメルももう65歳になるということで、今回のコンサートで現在のクレーメルを聴いておきたい、と思いました。今回、 4日 にわたるスペシャルステージは、協奏曲1夜、室内楽2夜、ソロリサイタル1夜でした。この中ではやはりソロが聴きたくて、最終日のソロの日を聴きにきました。


サントリーホール スペシャルステージ 
ギドン・クレーメルの芸術

11月5日  サントリーホール

バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番
グバイドゥーリナ:リジョイス!-ヴァイオリンとチェロのための (Vc:ギードレ・ディルヴァナウスカイテ)
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番
バルトーク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ

登場したクレーメルは、白髪で、さすがに歳をとった、という感じを強くいだきました。そして始まったバッハが、信じがたいすばらしさでした。

ク レーメルは、雄弁な自己主張からは遠く離れ、静かに、丹精こめて、ひたすらバッハと対峙するのみです。クレーメルを通じてその場に広がっていくバッハの音楽が、僕の胸にそのまま自然にすーっと入り込み、僕の内から体をあたため、心を清めてくれるような、そんな体験でした。クレーメルという天才がいよいよ円熟の境地に達している、ということを感じながら、ただただバッハの音楽とともに、そこにいさせていただいた、そのような時間をすごしました。

2曲目はグバイドゥーリナ。僕はこの人の曲は、CDで聴いても、まれに実演で聴いても、ぴんと来るものを感じたことがなく、僕には相性があわない作曲家だろうと思っていました。でも 今日 は、グバイドゥーリナを聴いて初めて感動しました。静謐で、芯のある、祈りの音楽に、心うたれました。
前半終わって休憩。これでコンサートが終わりだとしても大満足、という高密度の時間でした。

後半は、イザイの5番と、バルトークの無伴奏ソナタ。これまで、バルトークのソナタは正直言って僕には良くわからない曲でした。前半のグバイドゥーリナ開眼体験があったので、もしやバルトークにも開眼できるかとひそかな期待をもって聴きはじめましたが、やはりこの曲、僕には良くわからないままで終わってしまいました。折角クレーメルが弾いてくれているのに、勿体無いことでしたが、こればかりは仕方ありません。いずれ自分に、この曲の良さがわかる日が来ることを願うだけです。

クレーメルという天才は、これからもますます深化していくことでしょう。ともかく現在のクレーメルが、すでに途方もないところに立っている。そのことを、半分くらいしかわからなかった僕ですけど、それでも充分に感じ取れたひとときでした。






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Last updated  2013.01.03 09:37:13
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