続いて2012年演奏会、声楽曲編です。印象に残ったものをあげます。
(東京オペラシティ)
2月 9日 バッハ・コレギウム・ジャパン第96回定期演奏会 (東京オペラシティ)
2月29日 聖トーマス教会合唱団&ライプチヒゲヴァントハウス管/バッハ マタイ受難曲 (サントリー)
4月27日 モーツァルト 「ドン・ジョバンニ」 (新国立劇場)
7月 2日 クリスティーネ・シェーファー ソプラノリサイタル (ピアノ:エリック・シュナイダー)(王子ホール)
7月26日 プロムジカ合唱団 (東京オペラシティ)
7月29日 ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ聖歌隊 「祈りの歌」(サントリー)
8月31日 クセナキス オペラ「オレステイア」 (サントリー芸術財団 サマーフェスティバル2012)
10月 5日 ブリテン 「ピーター・グライムズ」
(新国立劇場)
11月17日 藤村実穂子 メゾソプラノ・リサイタル (ピアノ:ヴォルフラム・リーガー) (フィリアホール)
11月25日 シャルパンティエ 音楽付きコメディ 「病は気から」 寺神戸亮/レ・ボレアード (北とぴあ国際音楽祭)
12月10日 中島彰子ほか シェーンベルク 「月に憑かれたピエロ」
(すみだトリフォニー)
12月21日 ヴォーチェス・エイト クリスマス・コンサート (王子ホール)
○オペラ
オペラでは、初体験のブリテンの「ピーターグライムズ」が音楽・演出ともすばらしく、感銘深かったです。それからやはり僕の初体験だったモーツァルトの「ドン・ジョバンニ」も、タイトルロールのクヴィエチェンさんが、まさにはまり役ですばらしかったです。モーツァルトの音楽のすごさにもいまさらながら驚嘆し、再認識しました。ことに終盤の場面の音楽の進歩性というか、革新性というか、すごいと思いました。
それから、珍しさにつられて見に行ったクセナキスのオペラがこれまたすごかったです。アイスキュロス原作のギリシャ悲劇、ギリシャの人たちの演出で、山田和樹指揮、東京シンフォニエッタ、東京混声合唱団、東京少年少女合唱隊ほかの演奏でした。チケットをもぎってもらってはいろうとすると、いきなり階段に白い衣装をまとった子どもたちが倒れているという過激な演出で、始まる前から度肝を抜かれました。音楽が始まると、その原始的・土俗的で強靭なエネルギーの奔流に圧倒されました。大きな木を中心にすえた舞台も秀逸でした。字幕も型破りなものでした。普通の字幕も確かあったように思いますが、そのほかに、ホールの壁を広く使ってどんどん重なり合うようにして投影されていく日本語の「字の塊り」がしばしば登場し、音楽にふさわしい勢いがすごくあって、良かったです。意味は良くわかりませんでしたが、それは「字の塊り」のせいではなく、もともとのテキストが良くわからないので、これで良いのでしょう(^^)。それにしてもクセナキス、偉大なり。
バロックオペラは上演が少なくてさみしいなか、北とぴあ国際音楽祭で、このところ途絶えていたバロックオペラの上演が復活したのがうれしかったです。モリエールの台本にシャルパンティエが音楽をつけたという、劇半分・音楽半分の喜劇でした。役者のせりふは日本語で、歌手の歌は原語での上演で、字幕付きで、わかりやすく面白かったし、ハイレヴェルな演奏陣によるシャルパンティエの音楽は、とても素敵でした。
○アカペラ
2012年のアカペラは、少女、少年、大人の3グループを聴きました。
まず少女合唱。ハンガリーの少女合唱団プロムジカを、来日のたびに聴きに行っています。 前回は2009年夏でした
。しかし福島原発震災が起こり、もう日本では聴けないだろうと思っていました。ところがそのプロムジカ合唱団が、なんと早くも来日してくれました。いつものように完璧なハーモニーを聴けて、心洗われるひと時に感謝感謝でした。・・・でも、今のような日本の状況が、このまま改善されないで続くのでしたら、日本にはしばらく来ないでいただいたほうが、彼女たちにとっては良いことかも、と複雑な思いを抱かざるをえません。
次に少年合唱。プロムジカの3日後に、イギリスの名門、セント・ジョーンズ・カレッジ聖歌隊を聴きました。「祈りの歌」というプログラムで、バードの5声のためのミサより抜粋ほかの魅了的なプログラムでした。貴重な少年合唱の響きではありましたが、プロムジカ合唱団がいかにすばらしいかをあらためて実感する場にもなりました。
最後は大人のアカペラ。イギリスの、ヴォーチェス・エイトという8人組みのグループでした。ウェストミンスター寺院聖歌隊出身の仲間たちで結成したグループということです。前半はしっとりとしたキャロルと、古楽からグレツキまでの宗教的な祈りの曲で、CDで親しんでいたグレツキの名曲「Totus Tuus すべて御身に」が聴けたのは大収穫でした。後半は一転してクリスマスの楽しいキャロル集で、軽やかなジングル・ベルでフィニッシュとなりました。いわば前半がタリス・スコラーズ的なステージ、後半がスィングル・シンガーズ的なステージでした。どちらも高い水準ではありましたが、今回はいまひとつ調子が出なかったのかもしれません、イギリスのアカペラ・グループであればもっと高い水準を求めたい、という印象を持ちました。王子ホールはどちらかというと残響の短めな小ホールですので、アカペラにはちょっときびしい音響のホールかもしれません。
○リサイタルシェーファーさんが聴き応えがありました。モーツァルト、ウェーベルン、ベルク、シューベルトというプログラム。じっくり聴かせてくれて皆良い中で、ウェーベルンとベルクが、特に光っていました。
藤村さんの日本でのリサイタルもこれが確か3回目となりました。過去2回と同様、今回もマーラーを含むドイツリート・プログラム(シューベルト、マーラー、ヴォルフ、R.シュトラウス)でした。僕は紀尾井ホールに先立って行われたフィリアホールの公演を聴きました。藤村さんはマーラーも良いですけど、彼女の劇的な表現にはR.シュトラウスがよりふさわしいと感じました。アンコールもオール・R.シュトラウスでした。ピアノ伴奏は、繊細な詩情が美しいヴォルフラム・リーガーさん。 藤村さんの前回のリサイタル(2010年11月)も、このリーガーさんとのコンビによるもので、非常に味わい深いものでした。
フリットリさんのマルトゥッチは、記事にしたとおりです。折角のマルトゥッチの美しい曲が・・・という結果にはなりましたが、次の機会を期待したいと思います。
○バッハ諸事情と、多少思うところがあって、数年間続けていたバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の定期会員を昨年度でやめました。2012年2月はその最後の演奏会でした。この演奏会では、最初にBWV639のオルガン・コラールが演奏され、そして演奏会の最後には、このオルガン・コラールと同じ賛美歌に基づくカンタータ第177番が演奏されました。
BWV639は、タルコフスキーファンならご存知、「ソラリス」で使われた曲ですね。僕は「ソラリス」でこの曲を知り、映像とともに強烈に焼きついてしまいました。その後、この曲がオルガン小曲集のひとつだということを知り、オルガン小曲集のCDをいろいろと聴きました。曲集の中の一つとして弾いている演奏だと、あっさりしたものが多く、物足りなさを感じることが多かったです。ピアノによる演奏のCDもいろいろと聴きました。そんなとき、ブーニンがこの曲を弾いたCDに出会い、ゆっくりと、深い情感をたたえて弾かれたブーニンのBWV639に、いたく感動しました。「ブーニンもソラリスを見たのだろうか」などと想いをめぐらせたりしたものです。
自分にとってBCJに一区切りのこの演奏会で、BWV639にゆかりのカンタータを聴けたのは、うれしいことでした。今年(2013年)は、いよいよBCJのカンタータ全曲演奏が完結するということですので、ときにスポット的には聴きにいこうと思っています。
あと聖トーマス教会合唱団ほかのマタイ受難曲は、良かったですけれど、現在のカントールであるビラーさんのバッハは、僕にはちょっと相性が悪いみたいで、いまひとつしっくり来ませんでした。 2010年12月のドレスデン聖十字架合唱団のマタイには、本当に感動しました。
そのことを思い出しました。
○古楽
古楽は、上記したシャルパンティエのオペラくらいしか聴けませんでした。聴けなくて残念だったのは、青木洋也さんのパーセル・プロジェクト。古楽のコンサートは情報がはいりにくく、わかったときにはすでに仕事などスケジュールが入っていることが多く、なかなか聴けないことが多いです。2013年は、できれば古楽をいろいろと聴きたいと思います。
2012年の演奏会を振り返って、ピアノ編 2013.01.14
2012年の演奏会を振り返って、ヴァイオリ… 2013.01.13
2012年の演奏会を振り返って、オーケスト… 2013.01.09
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