4月29日
、アマオケのマーラー3番を聴きました。今年初めてのマーラー3番です。手作りの、心のこもった素敵な3番で、幸せな気持ちになりました。
指揮:岡田真
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル・バウム
メゾ・ソプラノ:愛甲久美
合唱:コール・クーヘン
山崎朋子 合唱曲「変わらないもの」
小宮真美子 合唱曲「いつまでも伝えたい」
マーラー 交響曲第3番
2016年4月29日
オリンパスホール八王子
オリンパスホール八王子は、今回初めて訪れました。八王子駅直結と便利で、2000人収容の規模の大ホールでした。
ホールにはいって、1階平土間の客席ほぼセンターに座りました。見たところ、反響板などもしっかり作られています。舞台上で練習している何人かの奏者の音の聴こえ方からすると、響きがかなり良さそうで、良い雰囲気の、本格的なホールです。セッティングを眺めると、ハープが舞台下手に2台、コントラバスが上手に10台、通常配置です。舞台後方の雛壇に打楽器が並んでいますが、鐘が見当たりません。そこで客席をぐるっと見渡すと、おおっ、2階左サイドのブロックの、ステージに一番近いところに、チューブラーベルが鎮座しています。そしてそこのブロックは、お客さんが入れないようにしているようでした。ここで児童合唱を歌わせるのに違いありません。期待が高まります。このように、児童合唱だけでなく、ベルと児童合唱をセットで一緒にして高いところに配置するやり方は、マーラーの指定を守った方法ですし、特にこのように客席などを使って思い切り高くすると、効果絶大です。この高さの指示をきちんと守ろうとする指揮者はそれほど多くありませんが、それでもポツポツと遭遇します。ベルと児童合唱をセットで一緒に高く配置した演奏会について、記憶にあるもの及び2009年以降で自分のブログ記事で確認できるものを列挙してみました。
コバケン&日フィル (サントリー)、客席
三河正典&小田原フィル(小田原市民会館 2009年11月
)、客席
尾高忠明&札響(キタラ 2010年9月
)、客席(鐘はホール外通路)
大野&京響(京都コンサートホール 2011年7月
)、客席
沼尻&群響 (群馬音楽センター 2012年1月
)、舞台上の雛壇
大植&大フィル 兵庫県立芸術文化ホール 2012年5月
)、舞台上の雛壇
アルミンク&新日フィル (すみだトリフォニー、 2013年8月
)、オルガン奏者用通路
ノット&東響 (サントリー&ミューザ川崎、 2015年9月
)、客席
他に、記事で言及していない、あるいはそもそも記事を書いてない、というためにもはや確認できない演奏会も少なからずありますが、大体毎年1回くらいは出会えるようです。
さて今回のプログラムは、マーラー3番に先立って合唱曲が二つ歌われました。児童と女声の2部合唱で、オケ伴奏でした。プログラムによると、“卒業式でも定番の合唱曲「変わらないもの」は、景色が移り変わる中で友に出会い、支えあい、分かち合った思い出を語る、そんな感謝の気持ちを「1年先も10年咲きも変わらない思い」と歌う。発表されたばかりの「いつまでも伝えたい」は、この星に生まれ、生きてゆく幸せに、心からの「ありがとう」を伝える地球賛歌。これから歌い継がれるであろう名曲。”
トロンボーンも加わったオケ伴奏に乗った合唱が心をこめて歌う歌は、素晴らしかったです。3番の合唱は出番が少ないですから、それに先立ってまず合唱を歌うというのは、特にアマチュアの演奏会では、合唱の「やりがい」を高め気持ちを充実させる意味で、とても良い企画だと思いました。歌のテーマもこの時期、この状況の中での演奏会にふさわしく、聴いていて、とても感動しました。
このあと休憩を挟まず、合唱団が舞台から退場し、オケの残りの人たちが入場し、そして3番が始まりました。ホルンはアシスタントなしの8人です。冒頭のホルン主題から力強く、ゆっくりしたテンポで、演奏されていきます。岡田さんの音楽は、シャープではないですが、丁寧な、心のこもった演奏で、とても好感を持ちました。こまかなミスや、音落ちは、結構ぽちぽちあって、はらはらしますけれど、指揮者の目指す音楽の方向性と、それに共感するオケの気持ちが十分に感じられて、なかなか良い第一楽章でした。ホルン主題時のシンバル人数は、冒頭も再現部も一人だけで、これは人手の点でやむを得なかったのでしょう。それからホルン主題再現前の小太鼓は、舞台裏でなく、舞台上でそのまま盛大に叩いていました。人手や楽器の事情などからやむを得ない現実的な選択だったのだと思いますが、これはやはり残念でした。
あと細かな点ですが、気になったことがひとつありました。演奏中に、ごく微かですが、鐘、あるいは鉄琴のような楽音が、たまに聞こえてきたことです。音源は良く分からないのですが、おそらく、2階の客席に置いたチューブラーベルが、何かの具合でオケの音に共鳴するような現象を起こし、ときどき音が鳴ってしまったのではないかと想像します。本当に微かな音ではありましたが、曲の最初から最後まで時々聴こえてきてしまい、少し気になりました。長く出番のないときの打楽器(ベル?)の消音対策が、ちょっと甘かったのだろうと思います。
第一楽章が終わったとき、あらかじめプログラムに書かれていたとおり、15分の休憩が挟まれました。ここで休憩をとるのは異例のことですが、演奏者、聴衆の集中力を保つためには、アマオケとしては悪くない方法と思いました。蛇足ですが、第一楽章が終わって休憩にはいるときに指揮者が客席に向かってお辞儀をされたため、拍手が起こりました。第一楽章終了時の拍手には初演時の歴史的な意味もあり、今回はその意味とは異なるものでしたが、それなりに貴重な体験でした(^^)。詳しくはこちらの記事のコメントの7番目、もぐぞうさんからいただいたコメントと、それ以降のコメントをごらんください。
http://plaza.rakuten.co.jp/jyak3/diary/201005040000/comment/write/#comment
休憩の終わりごろに、合唱団が2階の客席に入場してきました。静まった会場に入場してくるのでなく、まだ休憩中の会場に、気楽に入ってきて、リラックスした感じでした。そしで2階の左前のブロックに陣取りました。ステージに近い方から順に鐘、児童合唱、女声合唱です。合唱団が着席し、オケが入場し、続きが始まりました。
第二楽章以降も、ゆっくりとしたテンポで、あたたかい音楽が進んで行きました。そして第三楽のポストホルン(舞台下手のドアをあけて舞台裏で吹いていました)が、実に魅力的でした!ごくごく微かな傷がないわけではなかったですけれど、何よりもその温かな音色と、歌いまわし、歌心にうっとりとさせられ、大感動しました。
第三楽章が終わって、独唱者が入場して指揮者のすぐ左隣の椅子に一度着席しました。幸いにも独唱者の入場に際して拍手が起こりませんでした。
そして独唱者が改めて起立し、第四楽章が始まりました。第四楽章が終わると、指揮者は指揮棒をあげたまま、客席の合唱団の方を向き、合唱団を立たせて、すかさず第五楽章が始まりました。これならアタッカと言えます。
第五楽章、合唱の出番です。この合唱団は、女声合唱と児童合唱とが同じひとつの合唱団で、その名前が、コール・クーヘン。オケがバウムですから、合わせてバウムクーヘン!というお茶目なネーミングですから、オケと一緒に日ごろから仲良く活動されているのだろうと想像します。そしておそらく、この合唱団にはお母さんとお子さんのペアも少なからずいらっしゃるのでしょう。ほのぼのとした感じがありました。おそらくそれほど場数を踏んでいないであろう小さな子供たちを、緊張させないでのびのびと歌えるように、大人たちがいろいろと配慮していたのだろうと思います。しかしそれでも、合唱団がかなりの少人数(児童合唱14名、女声合唱14名)のため、さすがに声量的にちょっと厳しいものがありました。
そしてこの第五楽章は、大きな事故が起こってしまいました。途中何箇所かで、オケ伴奏が止まってしまい、合唱がアカペラで歌うはめになってしまったのです。合唱もあやうく止まりそうになりましたが、踏ん張って歌い続け、オケもふたたび鳴り始めて、なんとか楽章の最後まで、到達しました。良かった良かった。なお独唱者の座るタイミングは確認しそびれましたが、第五楽章の途中で坐られていました。
第五楽章が終わり、指揮者はそのまま合唱団を座らせることなく、完全なアタッカで最終楽章が始まりました。(合唱団はそのあと少しして、合唱団への照明が落とされるとともに静かに着席しました。いい感じの着席でした。)
そして最終楽章が、一貫してゆっくりした歩みで、名演でした。この指揮者の方、決して急がず、ゆったりとした音楽で、フレーズの最後を良くためて、マーラーの歌を温かくうたってくれます。この指揮者の歌わせ方、好きです。マーラーの音楽が、あたたかく、響き渡ります。
やがて、最後近くの金管コラール(練習番号26)のところに来ました。第三楽章でポストホルンを吹いたと思われる女性奏者が、第四楽章は舞台上の雛壇に戻って、トランペット席の一番上手側に座っていましたが、ここまでずっと吹かないで来ていました。そしていよいよ、このコラールで、満を持して吹き始めました、当然一番パートを吹かれたのだと思います。この方、この難所も美しく温かく、見事に吹いていただきました。指揮者は、この部分を、少しも急がずゆったりとしたテンポで進め、素晴らしかったです。
そのあと、最後の主題の高らかな歌(練習番号29)は、テンポ少し速めましたが、違和感はありませんでした。そのあとも音楽の響きが輝かしく、最後まで充実した音楽に浸ることができました。ブラボー!
☆ 演奏会後に思ったこと
僕は、常日頃音楽を聴いていて、ちょっとやそっとのミスがあっても、それでがっかりしたり、感動が損なわれたり、ということはほとんどありません。特にこの曲のように難所が沢山あれば、どこかで音がひっくり返ったり、音が出なかったりすることは、ある程度致し方ないことだし、その手のミスは感動体験とはあまり関係がない、と思っています。もちろん技術は大事ですし、できれば高い技術の演奏を聴きたいです。でも音楽の感動の本質は、そことは異なるところにあると思っています。だからこそアマオケの演奏からもこの上ない感動を受けることがあるのだと思います。
今回の3番は、オケや合唱団にとって、技術的には正直ぎりぎりのところだったと思います。小さなミスが多発しましたし、第五楽章にはちょっと前例のないほどの大事故がありました。しかしそれでも、僕はとても感動し、幸せな気持ちになりました。そこに、何かひとつの大きな温かなものを感じたからです。やはり指揮者の力が大きかったと思います。
指揮者の岡田真さんという方は、プログラム等に紹介記事が載っていないので、プロではないのだろうと思います。セミプロなのか、アマチュアなのか存じ上げませんが、どちらにしても、ここまで温かな3番演奏を実現するというのは、なかなかできないことだと思います。この岡田さんを中心にオケが一つにまとまり、手作りの、心温まる、ほのぼのとした、アマチュアの良さが十分に発揮された3番でした。聴後に、幸せな気持ちになりました。岡田さんと皆様、ありがとうございました。
それからポストホルンを吹かれた方について、是非とも書いておきたいことがあります。今回第三楽章のポストホルンを聴いていて、その明るく美しい音色と豊かな歌心に、僕はすっかり心を打たれました。聴いているとき、何故か、あるアマオケの3番演奏を思い出していました。それは 2013年10月
に府中の森で行われた、TAMA21交響楽団というアマオケの演奏会です。このオケ、驚異的にうまかったのですが、中でもポストホルンが特筆すべきすばらしい演奏だったのです。ちなみにそのTAMA21響の3番演奏会については、独立した記事には書きませんでしたが、こちらに少し書きました。
http://plaza.rakuten.co.jp/jyak3/diary/?ctgy=14
このときポストホルンを吹かれたのが、守岡未央さんという方でした。
そして今回、ポストホルンを聴いているときに、何故かふと、このTAMA21交響楽団の3番のポストホルンを思い出したのです。「そういえばあのときのポストホルンも素晴らしかったなぁ」と思いながら、音楽に浸っていました。
そうしたら! 後日ブログ記事を書くために、プログラムに載っているオケのメンバー表を見たら、なんとポストホルン守岡未央さんと書いてありました!TAMA21響のときと同じ奏者だったのです。道理で素晴らしかったわけだし、聴いていてTAMA21響の演奏を思い出したことにも合点がいきました。
僕は、TAMA21響の3番を聴いて以来、この守岡さんという方の名前を意識していました。守岡さんは2014年に行われた第12回東京音楽コンクールの金管部門に出場されたので、結果を見守っていたところ、優勝こそ逃したものの、見事に第3位及び聴衆賞を獲得されました。
(☆5月7日追記:つい先ほど知ったのですが、守岡未央さんは、2015年日本音楽コンクールのトランペット部門で堂々優勝されてました!!あわせてE.ナカミチ賞、岩谷賞というのも受賞されてました。今やときの人なんですね。知らないで間抜けなワタクシでした。
http://oncon.mainichi-classic.jp/common/result2015.shtml
いまさらながら、今回の3番、すごい人のポストホルンで聴けちゃったわけです(^^)。幸せ度がさらにアップしました!)
守岡さんは、今年の 7月14日
に東京文化会館小ホールでのリサイタルもあります。こちらです。
http://www.t-bunka.jp/sponsership/spo_160714.html
昼間で聴きにいけないのが残念です。
今回の演奏をきいて、ますます守岡さんの音楽の素晴らしさを認識しました。いずれまたマーラーなどを聴かせていただければ、と思います。今後、新進トランペット奏者としてますますご活躍されることを、大いに期待しています。
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