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2008.08.17
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食事は、新谷先生との話が弾んで、あっという間に時間が過ぎた。なんだか話し足りなくて、バーの方に席を移してもう少し飲んだ。普段はあまり飲まないショートドリンクで、さすがの私も、少しウットリくる。ウットリきかけた頭で考える。新谷先生って、素敵な人。細い目に薄い唇。いかにもキレる感じがする。でも、声や話し方やしぐさはとてもソフトで。恋人がいないってなんでなんだろうな?なんて、おせっかいにも思う。
「今日、落ち込んでるって言ってたけど、何かあったんですか?」
酔いにぼんやりしていると、突然、そう聞かれて、予定通りすっかり忘れていたケースケのキスシーンのことを思い出す。そしてついため息。少し胸まで痛む。辛い。きっと楽しそうだったはずの私の表情が一変したことで、新谷先生は、慌てたように言う。
「すいません。余計なこと思い出させちゃいましたね。」
私は、首を振る。どうせ家に帰るなら、そろそろ考えずにはいられないことなんだ。だからって先生に相談することでもないし。私は曖昧にごまかす。
「いえ、どうせ思い出すことです。先生と食事して少しでも忘れられてよかったです。・・だけど、できたら、そのことは家に帰るまでは忘れていたいな。だから、先生の話聞かせてください。」
「そんなことで気がまぎれるなら、何でも聞いてください」
新谷先生は優しい目で私を見てうなずいてくれる。子供を見つめるような優しい目で。私は、その目に引かれてつい聞いてしまう。
「先生」

「恋人がいないって、、本当ですか?」
先生は少し苦笑して、
「はい。本当です」
「どうしてですか?」
「どうして、、といわれても。ご縁がなくて」
「だけど、そんなに素敵なのに・・。きっと、理想が高いんですね」
私がそういうと、新谷先生は微笑んで、こちらを見て、
「・・・美莉さんには、恋人がいるってお伺いしましたけど」
「はい。いるには、、いるんですけど」
こんな答え方、ケースケに聞かれたら、本気で怒られそうだけど。なんだか今日は、とても曖昧だ。
「その彼とケンカ、、でもしたんですか?」

「ま、、、そんなとこです」
「なるほど。落ち込んでる理由、ですね」
私は静かにうなずく。
「仲直り、できそうですか?」
「・・・そう願ってるんですけど」

「その気持ちがあれば大丈夫ですよ。きっと」
そう言ってから、腕時計を見て、驚いた声を出す。
「おっと、いけない、もうこんな時間だ。送ります」
帰るのが少し憂鬱だった私は、
「まだ、平気ですよ」
と言ってみたけど、
「いえ、僕はいつまででもいたいですけど、これ以上遅くなったら、高崎先生に怒られてしまいますよ。ミリさんの彼も帰ってるでしょう。早く話して、仲直りするべきです。こじらせると長くなりますから、ね」
私は、うなずいて立ち上がった。

新谷先生の送ってくれるという言葉に甘えて、一緒に、並んで歩く。あまり会話は交わさずに。

1人、月を見上げながら、ケースケのことを想う。
お酒を飲んで楽しい時間を過ごした分、少し気分は上向いていた。

大好きなケースケ。
ケースケが、今の仕事をがんばってるの、私、よく分かってる。
だから・・・、
だから、ちゃんと受け入れなくちゃならない。

ケースケを失うことなんて、私には、できないから。
夕べは、ごめんね。
夕べは、心よりも体が、先に、拒絶反応を起こした。

今まで、辛いことがあれば、いつも、抱きしめられて、その腕の中で癒されてきたのに。
背中を向けて眠ってしまったなんて。

今日は、、大丈夫かな。
ちゃんと抱きしめられて、心の底から、体の底から、癒されたい。

ケースケの心が、変わらず私にあるのなら。
私には、ケースケを失う理由なんてないんだから。

辛いのは伝える。平気じゃないのも伝える。
だけど、、、だけど、ずっとそばにいたいってことも、伝えなくちゃ。

私を傷つけることができるのも、
私の傷を癒すことができるのも、
ケースケだけなんだから。

私は、自分が少しずつ表情を緩め、穏やかな気持ちになっていくことに気づく。

そしてもう一度、新谷先生と何気ない会話を交わしながら歩く。
「ミリさん」
新谷先生が静かな声で私を呼ぶ。
「はい?」
「足元気をつけてくださいよ?随分千鳥足の様子だから」
「は~い」
って返事をしてすぐに、私はよろけた。慣れないヒールのせいだ。もちろん、、酔いのせいもあるかも。
「おっと」
すぐに、力強い腕に抱きとめられる。それは、ただ、抱きとめるというには、力のこもった腕で。新谷先生の胸に顔をつけたまま、足元をしっかりと確かめなおして、体勢を直しても、その腕が解かれることはなかった。

そして、先生の方に視線をあげた時に・・・。


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最終更新日  2008.08.17 01:05:23
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