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ふよふよひらひら ふよふよひらひら『おい。』ふよふよひらひら ふよふよひらひら『はい。お父様。』初夏の風がそそと、恥ずかしげにスカートの裾を揺らす。あと、一時間もすれば、うんざりするほどの熱気に変わるだろうが、まだこの時間は、肌に薄く浮いた汗を、温まり始めた風が穏やかにぬぐいさってくれる。『見えてんぞ。』特注サイズの濃紺のブレザーに、胸元で揺れる赤いリボン。チェックのミニスカートからは、すんなりとした脚が伸びる。ほっそりとした足首を包む白いソックスと、汚れようもない黒のローファー。ミーアは嬉しげに、ふよふよと俺の頭の上で回って見せた。『制服がそんなに嬉しいかなぁ?』『本当は春から着たかったのに。』ぷうと膨れて、ミーアは、背後から俺の首に噛り付いた。『しょうがないだろ。特注サイズなんだから。』それより・・・といいかけた俺の行く手を、今日もでっかい花束に埋もれたピザ顔が塞いだ。『ミ、ミ、ミ。』『ミンミンゼミ?』思わずボケたミーアに、花束を突き出しながら、石田は顔をますます真っ赤にさせた。今にも顔中のニキビから噴煙が上がりそうだ。『ミーアさん!おとうさん!おは、おあは、おあはよお。』何がおあはよおだ。誰がおとうさんだ。『石田さん。またお花持ってきたんだ。綺麗~。』ミーアは、両手に花を受け取ると、きらきらと効果音がしそうな笑顔を石田に向けた。こらこら。そんな顔を石田に見せるな。もったいない。石田は鼻の穴をでかくさせながら、一歩前に出た。どうせ、君の方が綺麗だとか抜かすつもりだろう。このロリコン男め。ついこの間まで、藤本あかりがお前の天使じゃなかったのかよ。俺を屋上から突き落としそうになったことなど、石田の頭からはすっぽりと抜け落ちているようだった。もともとあまり入りそうもない頭だが、お父様だとぉ?ふざけるな!お前なんかに仮にも俺の娘をやれるか。俺はすかさず、その足をふんずけた。お決まりのごとく、石田が足元に転がる。『石田さん。まだ眠いの?』ミーアが、たいして不思議そうでもなく聞く。毎朝の出来事に、もうすっかり慣れっこなのだ。『早く行こう。その花。教室と職員室に飾るんだろう?』『うん!』嬉しそうに飛び回るミーア。突然、ぶしゅっっと液体が飛び散る音がした。『て、天国に・・・天使の白いパン・・・。』俺は振り返ると、ぐりっと、石田の頭が、地面にめり込むまで踏みつけた。学校に着いたらミーアには、スカートの下に短パンを穿かせなければ。双子は、エイリアンの怪しげな装置によって、誰にも疑問を抱かれず、地球の日常生活にうまく溶け込んでしまった。彼らが空を飛ぼうが、変な力で爆発騒ぎを起こそうが、まるで当たり前のごとく、周りは受け止めている。ましてや、小学生の外見で高校に通って、学食のメニューを全食制覇するなど、近所の猫が校舎裏の鳥小屋に忍び込み、そこで番を張ってる雄鶏とタイマン張って負けたほどの話題性も無い。これは考えれば、かなり危険な話ではないだろうか?もし、エイリアンたちが大挙して訪れて、地球をぼこぼこに攻撃しようが、地球人はのほほんと彼らの「オイタ」を見逃してしまうってことだ。『ぽんぽこたぬき?』妙な通訳で俺の思考を読んだミーアは、花にうずめていた顔をにょっきりと出した。『ちゃんと前を見てないと、電柱にぶつかるぞ。』『平気、平気。』『ユキ、ミーアちゃん。おっは。』トンと軽く、俺の方を突いたのは、相沢だった。ミーアは、急に俺の後に隠れるようにする。なぜがミーアは、俺の回りにいる女子生徒が気にいらないらしい。俺の制服の裾をぎゅっと握りながら、まるで小動物みたいにじっと藤本を伺っている。『相変わらずねぇ。』気にした風もなく、相沢はミーアの頭を撫でた。『あれ?ケロちゃんは?』俺の背中と頭の上をキョロキョロと相沢は見回した。『ケロヨンは置いてきた。』『え?まさか病気?』『違うっ!』ミーアが、噛み付くように、俺の後ろから飛び出しそうになったので、すかさず俺はその首根っこを・・・正確に言うと制服の襟を引き戻した。『キャウン!』『ミーア。駄目駄目。お待ちだよ。』恨めしそうに見上げる、青い瞳を、俺はきっとにらみつけた。『ユキってば。犬のしつけじゃないんだから。』猛犬どころか、猛エイリアンだ。『いくら力が10分の1になっているといっても、油断できないからな。』双子がそろっていれば、10倍。一人一人なら、その十分の一にしかならない力だと聞いて、俺は、とりあえず、ミーアとケロヨンを引き離すことにした。『ええっ?可哀想じゃない。』俺の説明を受けて、相沢は見る見るうちに、涙をためはじめたミーアを、無理やり抱きしめた。『あのな・・・。』何も今生の別れじゃない。学校に行っている間だけだ。どうせケロヨンは、今頃まだ、ぐかぐか寝ているか、どんぶり飯を食らっているかどちらかだろう。『とにかく今日からは、学校に行くのは交代って決めたんだ。今日がミーアで、明日がケロヨン。また次の日はミーア。』『ミーア一人でも、お父様は私が守るよ。』『ううっ・・・健気だわぁ。そうね。頑張ってね。』頑張らなくても、守らなくてもいから。頼むから大人しくしていてくれ。
September 19, 2006
がやがやと逃げ出していたクラスメイトたちが戻ってきた。『お前ら何やってるんだよ?。集団エスケープか?』『校長や先生たちも・・・それに警察まで・・・何かあったのか?』『それがその・・・多分、避難訓練。』狐につままれたような顔で、お互いに顔を見合す。そこに、ピンポンと軽快な音の後、校長のだみ声が教室に響いた。『あ~そのォ。今日の避難訓練は無事終了しました。各クラスの生徒たちは教室で静かに・・・ア?警察署長が質問したいことがあるって?そんなこと…私にわかるわけがないでしょ・・・ちみィ。教頭にあいてさせなさい・・・えぇ?砂場で失神してたって?何でそんなところで・・・だいたいなんで、呼んでもいない警察が来るの?校内暴力?そんなこと私の学校で起こりませんよ!起こってたまるものですか!』俺はこそっとミーアに耳打ちした。『おい・・・どういうことだよ。』『私たちの存在が、ごく普通の事だって思わせたの。』つまり皆、何故『普通』の事で大騒ぎしたのか、解らなくなってしまったのだ。『みんな~ちゃんと自習してるぅ?騒いでるとおしおきしちゃうわよ。』担任の桃井がひょっこり顔を出した。見事にへこんだ黒板を見て、あららと口に手をやる。『『ごめんなさいっ!』』ミーアとケロヨンが、そろってぺこんと頭を下げた。『天使ちゃんたちの仕業ね~。オイタは駄目よ。』オイタ・・・なんていうかわいいレベルじゃないと思うが。しょんぼりしたケロヨンを、桃井は推定65のGカップの胸に抱きしめた。『ううん可愛い~~~。大丈夫よ。校長に頼んで、新しい黒板に変えてもらうから。うふふ。』だいたいこの地味な黒板、前から気にいらなかったのよね~。特注でピンクの黒板にできないかしら。と続ける。ショッキングピンクの黒板に、眩しく映える白いチョークの跡。一瞬浮かんだ幻に、俺は目がちかちかとした。『私たち、ちゃんと直せます!』ミーアが、桃井からケロヨンをはがし取ると、両手を合わす。『やめろっ!!』俺の叫びもむなしく、再びバーーーンという激しい衝撃音の後、俺たちの教室は見事に崩壊した。
September 9, 2006
空気がぐにゃりと歪む。キーンと耳鳴りがする。暗くなる。俺は立ち上がりかけた中腰の姿勢のまま、そばの机に手を付いた。さわさわと潮騒のように遠くで声がする。『・・・ユキ・・・ゆき?』やめろ!やめてくれ!そんなふうに俺を呼ぶな。ささやくように俺の名を呼ぶアイツの声。『由紀?何やってるんだよ。遅れるぞ。』ポンと軽く頭を小突かれて、俺は、はっと振り向いた。白い顔に、銀縁の眼鏡をした、いかにも秀才面の新一が、呆れたように笑ってる。『あれ?俺・・・。』ぱちぱちと瞬きを繰り返した。放課後の教室。斜めからはいる日差しを受けて、ちらちらとほこりが光っている。教室に残っているのは、もう俺たちだけだった。『わ。いけねえ。』くすくすと笑いながら、新一は、俺のかばんの中に、机の中の教科書を黙々と詰め込み始めた。『新ってば。どうせ勉強なんかしないんだから、そんなのいいよ!』俺はナイキのスポーツバッグに、でかタオルを突っ込むと、わたわたと教室を飛び出した。俺のかばんを抱えた新一が、後から決まり文句を言う。『図書館でまっているから。』俺は、後手をひらひらと振った。中学もこの時期になると、部活にでてくる3年は殆どいなくなる。俺が所属する野球部も、未だに顔を出すのは、俺みたいな野球馬鹿のほんの数人だ。幼馴染の新一も、弓道部の部長の座を後輩に引き継ぐと、未練げも無くさっさと引退して、着々と受験勉強にいそしんでいる。俺は、そっとため息を付いた。『新一くらい頭が良かったら、入れない高校なんて、なさそうなものだけどな。』だからといって、スポーツ特待を受けるほど、俺のピッチングの腕の冴えは無い。『いや。俺だって、まだこれからだ。』あと少し身長が伸びて、リーチも長くなって・・・。トレーニングあるのみだ。目指せ甲子園!・・・その前に、受験があるけどな。『お疲れさま。』気持ちよく後輩をしごいたあと、汗も流さず図書館にやってきた俺を見て、新一は読んでいた分厚い洋書を閉じ立ち上がった。俺のスポーツバッグを断りも無く開けると、使われないままだったタオルを取り出し、俺の頭からかぶせて汗を拭く。背の高い新一に、がしがしと頭を拭かれると、子ども扱いされているようで、俺はむっとしてタオルを掴む。『ちゃんと汗を拭かないと風邪を引くよ。』『急いできたから、また汗をかいたんだよ。』新一は、俺の嘘を見抜いたように、腕を組み眼鏡の奥の薄茶の瞳を細めた。うっ・・・俺はこの眼に弱いんだ。新一と俺は、幼稚園からの付き合いだ。俺の通っていた幼稚園に、あとから入ってきたのが新一だ。それまでの俺のボスの座は、わずか半日で、新一のものになった。それも、喧嘩に負けてとかいうんじゃない。新一は、女の子みたいな綺麗な顔に、ニコニコと笑顔を絶やさない大人しい子供だった。落ち着いた声で、敬語をしゃべる新一は、とても同じ年に思えなかった。お父さんとお母さんが、アメリカで暮らしていて、叔父さんと暮らしているというのも、なんだか本の中のお話みたいで不思議だった。何となく近寄りがたく思ったのは、俺だけじゃないだろう。けれども、新一は屈託も無く、明るく俺たちに溶け込んだ。話し上手で、いろんな遊びも知っている新一は、あっという間に人気者になった。『由紀ちゃん。僕。由紀ちゃんみたいな弟が欲しかったんです。』そんな新一に、特別扱いされたようで、ちょっぴり得意だった。俺と新一が同い年であることは、帰宅して瑞希に言われるまで、俺はうっかり気が付かなかった。そして、新一が弟という前に、シスターと言いかけて直したことも、俺は気に留めなかった。もちろん意味なんてわからなかったからだ。『・・・とぉさぁ・・・おとぉさぁま・・・。』ぼんやりとにじむ視界に頭を振る。双そろいのビー玉みたいな青い瞳。『お父様。大丈夫?』俺。何か夢見てた?思い出せない夢の残滓が、頭の隅をちくちくと刺す。『あててて・・・。』俺はストンと腰を下ろした。ケロヨンの耳のピアスが光って・・・それからどうなったんだろう?悪魔どもめ。今度は何をしでかしたんだ?俺が口を開くより早く、あれえ。と素っ頓狂な声がした。『先生何をしてるんですかぁ?』吉住が、きょときょとと身を起こしていた。『いてて・・・貧血でも起こしたかな?頭が痛い・・・。』剃りあがった頭に恐る恐る手をやって、つるんとした手触りにわっと目を剥く。『ワ、ワ、ワ・・・私の髪がぁ~っ!?』教室にどっと笑いが渦巻いた。『し、静かにしなさい!じ、自習っ!自習してなさいね!』吉住は、頭から背広を被ると、保健室に行かなくてはと、つぶやきながら教室を出て行った。『吉住の奴何してんだ?』『自習だ~やりィ。』ワイワイがたがたと席を離れる音。『ちょっと!男子!静かにしなさいよ。』『うっせいな。それより、なんか足りないんだけど。』『あ~っ!残ってるの私たちだけじゃん。何で皆いないのよ。』『おい見てみろよ!あいつら、校庭にいるぞ。なんだ?あれ警察じゃねえ?』窓際にいた奴が声を上げる。どっと皆で窓に集まった。『・・・何をしたんだ?』俺はこそこそと、双子の悪魔に問いかけた。『えっと。』ケロヨンが、ちょこんと首を傾げて見せた。やめろ・・・可愛いから。『記憶操作。』ミーアが、そっと耳打ちする。『ついでに、ちょこっと、現状認識力を歪めたけど。』なんだかとてつもなく危険なことを聞いている気がする。久しぶりに小説の更新です。相変わらず、この小説には苦しんでいます。ストーリーは頭の中にあるのですが、とにかく年齢的にライトノベルは難しい~(>_
September 5, 2006
夏休みも終わり、ブログ再開です(^_^)・・・と、言っても、相変わらずマイペースで、のんびり続けていくつもりです。桃も、ようやく宿題を終え、無事に新学期へ。今年は、主人が単身赴任を終え、帰宅できたので、あちこち旅行に行ったり、バーベキューを楽しんだり。たくさん遊びまくりました。こにゃんは、お留守番が多かったせいか、マザコン度がアップ。一日中、私の後をストーカー。お風呂も一緒、トイレも、布団の中も・・・(汗)夏の暑さが、ひときわ身にしみました。さてさて、新学期を迎え桃は学校、私も頑張らなきゃね。
September 1, 2006
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