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マイクON「さあ皆さん、家に帰る時刻になりました。教室や、廊下の戸締まりをして、帰る支度をしましょう」マイクOFFさっき、放送を始める前に下校時用の音楽のカセットテープを入れておいたデッキのボタンを押す。流れてくるのは、ハイケンスのセレナーデ。電子オルガンの軽快な演奏が、校舎や校庭に響きわたるのがこの部屋にいても聞こえてきて、「大丈夫、ちゃんと流れている」と、ひと安心。ここは、小学校の放課後の放送室。どこかの民間の放送局から払い下げになったという、大きくてごつい放送機材をひとりで操るのは、当時小学4年生の放送委員の私。一週間のサイクルの放送当番は、朝の清掃時、昼の給食時から清掃終了まで、そして放課後の下校時と、1日3回、放送室に出向く。一緒に当番を組んでいる5年生のふたりの男の子は、早く家に帰って遊びたいので、この下校の放送はたいがい私ひとりだった。曲は、いつも決まったところでフェイドアウトする。マイクON「教室や、グラウンドにいる人は、早く帰るようにしましょう。それでは皆さんさようなら、O,S,H(O小学校放送室)」マイクOFF放送終了。機材の各スイッチを切り、最後に電源を切ったことを確認して放送室を出る。昇降口への通りがかりの職員室の前の廊下には、だいたいこの時、腕に水色と黄色の腕章を付けた週番が整然と並んで見回りの報告をしている。ランドセルを背負った私は、その後ろを早足で通り過ぎる。木造校舎の縦長の格子窓から入る、夕刻の斜めの光は淡いセピア色。さあ、家に帰ろう。あのセレナーデは、誰の何というレコードの演奏だったのだろう。当時、放送委員会の顧問だったM先生は、今にして思えばかなりのクラシック通だったのではないかとお見受けする。学校で流れる音楽は、すべてM先生に管理が任されていて、録音も彼の手に寄るものだった。朝と昼の清掃時の音楽は、グリーグの「ペールギュント」からの「朝」。昼の給食時のBGMとして用意されていたテープはNo.1からNo.8くらいまであり、当番は毎日取っ替え引っ替えそのテープを流した。曲名はどこにも書かれていなかったが、驚くべきことに、すべてクラシックの曲だった。バッハ、ヘンデルなどのバロックものから、ルロイ・アンダーソンやワルトトイフェルなどのセミ・クラシックと呼ばれるものまで、実に幅広く変化に富んでいて、中には、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」、グリンカの「ルスランとリュドミーラ序曲」などの名曲を短くアレンジしたものばかりが延々と続くテープまであった。つまり、今でいえばクラシックの「美味しいところをオムニバスで」のノリになるのだろう。その後の歳月を経て、それらの曲の「本物」を聴いた時の衝撃は大きかった。あの当時(「昭和のよき時代」・・としておきましょう・笑)、そのような「革新」的なレコードが既にあったことも、驚きに値する。近年、あの複数のテープの音源を知りたいという気持ちがむくむくと頭をもたげてきたが、受け持ちの学年が違ったM先生の消息を知る術もなく、たいへん残念に思う。私のクラシック音楽への道標となってくれたあの赤いテープたち。今はどうしているだろうか。録音時間が足りなくて、途中で曲が切れていた、ヘンデルの「調子のよい鍛冶屋」、シューベルトの「アヴェ・マリア」・・。もうすぐ小学校を卒業する1麻呂は、今年度、放送委員長を経験させてもらった。彼らの小学校で、朝の読書の前に流れるボッケリーニのメヌエット、清掃の前に流れるチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番・・。それらの曲を、彼も私のように、懐かしく思い出す日が来るのかもしれない・・。それが、私のように、やさしい思い出でありますように・・。ハイケンスのセレナーデ。皆さまも一度はお聴きになったことがあるかもしれません。「ああ、この曲!」と。昭和50年代まで、旧国鉄の車内の音楽としても使われていたそうです。今日は、長い昔話にお付き合いいただき、ありがとうございました。
February 27, 2008
長野オリンピック開催から、早や10年が経ちましたね。あれから10年。あの頃、あなたは何をしていましたか?私は、開会式の日、実家で、高熱でふうふう言いながら入場行進の中継を見ておりました。前日、1麻呂の風邪の診察のために訪れた病院で、私だけ見事にインフルエンザに感染したのです。今では笑い話ですね、懐かしい。今週は、勝手に10周年を記念して、10年ぶりにラックから出してきたこのCDをずっと聴いていました。「WORLD ANTHEMS」。つまり、世界の国歌。小澤征爾氏が、新日フィルと共に、「長野オリンピック参加国の国歌をオーケストラできちんと録音してCDにまとめよう」と立ち上がった一大プロジェクトで、公式ライセンス商品としても認定されています。1997年4月1日現在、長野オリンピックへの参加が予想された71の、国や地域の国歌、地域で親しまれている歌が収録されています。今回は、その71曲の中から、私が気に入ったもの、感銘を受けたものをご紹介いたします。歴史上の理由からか、同じ曲を国歌としている国がいくつかあるのが興味深いところ。キプロスとギリシャ、イギリスとリヒテンシュタイン、そしてフィンランドとエストニアが、それぞれ同じ曲を使っています。あと、全体的に2拍子が多いのも大きな特徴ですね。勇壮な印象を残す効果大だからでしょうか。モナコ公国なんて、もうそのまま行進曲に使えそうです。ブラジルは、オペラの前奏曲のような華やかな曲。ロシアは、グリンカの歌劇の中の合唱曲を編曲したものですって。欧州の、王制をとる国々は、実に格調高く、芸術性に溢れています。特に北欧のものはいいですね。インドは、なぜか4度で終わります。「え?まだ途中じゃない?」と思ってしまいます。あと、グルジアは、ずっと長調で来たのに、最後は短3度で終わります。これもなぜ??3度、4度で終わるなら、他にも意表をつくものもあるかも・・・と、注意深く聴いていましたが、案外、フリギア終止やピカルディの3度で終わるものは、この71曲の中にはありませんでした。南アフリカは、殊に美しく、心に沁みる曲で、全曲中、もっとも演奏時間が長いもの。イスラエルは、哀愁に満ち満ちた、それは切ない曲です。2000年も世界中を彷徨った、亡国の民の苦難の歴史そのまま・・という印象を受けます。これをオリンピックの表彰式で聴いたら、会場にいる人は皆泣いてしまうでしょうねえ・・。アゼルバイジャンの勇壮な曲は、私に、パルチザンの野戦兵を思わせます。粗末な武器で武装した農民の姿が浮かんでくるようです。それぞれの国の特徴や民族性が、1分にも満たない長さの時間に凝縮されている「国歌」とは、単に「国」を称えるためだけのものではなく、私たちに、瞬時にその国を紹介するアンバサダーの役割を果たしているともいえますね。皆さまのお好きな国歌は、どちらの国のものですか?私は、「君が代」の、長調でもなく短調でもない、日本古来の独特の不思議な旋律が、とても好きです。そういえば、君が代は2度で終わりますね。これも面白い発見でした。CDを作成した当時、資料の少ない国もあったとのこと。そんな状況下で、オーケストラ版へと編曲した11人の精鋭作曲家に拍手!後世へと残せる高い完成度の国歌曲集を、オープン前のすみだトリフォニーホールでの弾き初めという形も兼ねて果たした小澤氏と新日フィルにも拍手!久しぶりに聴いたけれど、10年も眠らせておいたことを惜しく思った私でした。
February 22, 2008
気持ちよく晴れた週末は 実に3週間ぶり先週も その前も 大雪だったようやくのグラハム・トーマスの剪定凍って乾いた葉は 「きゃらきゃら」ときらめくような音を立てる生きていた証の音を 私の耳に心地よく残して・・何度も何度も 強健な棘で指を刺しながら 枝を切ってゆく新たな芽生えへの 大切な手助け時折 低い音で上空を横切る 航空機を見上げながら・・剪定のあと 土の入れ替えと肥料やりをするため土にスコップを入れると カチンという硬い衝撃で手が痺れる幾度も降った雪は 日に当たって解けるそのたびに地中へと浸み込み酷寒の空気の下で バラの根元は凍土と化していた誤算だった 雪を甘く見ていたのだ仕方ない土の入れ替えと肥料やりはもう少し先まで見送り今年は どのくらい花を咲かせてくれるだろう私の大好きな 黄色の花を
February 16, 2008
車の運転免許を取得してかれこれ、○○年。(そう、二桁です。)そんな私が本日、初めての大失敗を経験しました。それは、ガス欠。つまり、走行中にガソリンがなくなり、情けなくも車が止まってしまう現象・・。確かに、ガソリンが残りわずかになると点滅するランプは、2日前から点いていました。でも、今までの経験から、「まだまだ大丈夫」と思っていたのです。それは、先週お休みした、1麻呂のピアノの補填レッスンで先生のお宅へ出かけた先でのこと。先生のお宅まであと少し・・というところで、徐々にスピードが落ち始め、「おや?」とアクセルを踏むも、「スコン」と抜けるだけでエンジンからの反応はなく・・・。「こ、これは、ガス欠だああ~~っ!」ああ、この時のアクセルの嫌な感触!忘れられません。1麻呂と2麻呂は、驚くどころか、私の慌てふためく様子が可笑しいらしく、へらへらと笑って「お母さん、車を端に寄せなよ」と、余裕で“助言”してくれます。ありがとっ。すぐに先生にお電話をし、1麻呂だけを迎えに来てくださることに。そのあと、昼までの休日出勤を終えて、もうすぐここを通るであろう麻呂父に電話。「助けて~、ガス欠になっちゃったの!!」あら、ひどい!麻呂父も笑っています。そんなに可笑しいの?私は自分が許せないのに~~~。ほどなく先生が、お嬢さんのキュートな赤い車を運転して現れ、1麻呂を乗せていってくださいました。そして、麻呂父が帰路の途中でガソリンを買ってきてくれ、ドボドボ・・と給油、愛車は復活!ああ、やれやれ。麻呂父は、そのまま2麻呂を乗せて帰宅、私は先生のお宅に1麻呂を迎えに行きました。「でも、よかったわね。日中で、晴れていて、携帯電話もあって、旦那さんもすぐに来てくれるいい条件が重なって。これが、夜中で、雪でも降っていて、携帯も繋がらないところだったら・・・」先生との会話です。う、考えるだけで怖ろしい・・。もう懲り懲りです。「日中で」、「晴れていて」、通り過ぎる車のすべてが、好奇の目で我々を見てゆくのですもの・・・。「こんな真っ直ぐな、のどかな農道で、どうしたの?外で電話なんかしちゃって・・」と。一昨日降って解けた雪を、こちらに景気よくハネ上げてくれながら・・・。その間も、へらへらと笑い続ける、我が頼もしき息子達・・・。嗚呼。レッスンの帰り道、最寄のガソリンスタンドに立ち寄り、しっかり満タン・・・とまではいきませんが安心できる量のガソリンを充填し、家に帰りました。私が忘れられないこと、その2。ガス欠になる瞬間、車内に流れていたのは、このヴェンゲーロフの弾くドヴォルザークのコンチェルト。それまでFMラジオを聴いていたのをやめ、このCDに替えたばかりでしたイ短調の勇ましい前奏のあとに入るソロ・ヴァイオリン。哀愁漂う旋律を重音で奏でます。3分ほど曲が進んで、少し明るい兆しが感じられる頃・・・、車ははたと止まったのです。嗚呼、情熱のドヴォコンよ。私にとってこの曲は、今日を境に「トホホ」の、「トラウマ」の曲になってしまったのでありました。ごめんよ、ヴェンゲーロフ。しばしこのCDは封印じゃ。このあとには更に絶望的で悲劇的でどこにも救いのない、エルガーのヴァイオリン・ソナタが待ち構えているし。
February 11, 2008
昨日、久しぶりに訪ねた、従姉妹の家。伯父と伯母が仲よくテレビを見ている居間に通されて、「久しぶりじゃん、さあ、寒いからあたって」と勧められた炬燵に座ると、目の前に、このCDが無造作に置かれていました。手にとってよくよく見ると、舘野泉さんが芸術監督を務められた、1998年のオウルンサロ音楽祭のライヴ盤でした。私「これ、誰が聴くの?」従姉妹「ああ、それ?会社主催のフリマのために品物を募ったら、その中にこのCDがあって、これは売れないなと思って、ハネておいたの。よかったらあげるよ。うちでは誰も聴かないから。」まあっ!!なんとありがたい!~オウルンサロ音楽祭 舘野泉と仲間達~ 1998年8月1~9日ピアノ:舘野泉、水月恵美子他メゾ・ソプラノ:駒ヶ嶺ゆかりヴァイオリン:加藤知子、ヤンネ・舘野他チェロ:エルッキ・ラウティオ、ブリンディス・ハーラ・ギルファドッター他弦楽合奏:ラ・テンペスタ指揮:本名徹次1~3.間宮芳生(まみや・みちお):チェロとヴァイオリンのためのソナタ(世界初演)4~6.間宮芳生:日本民謡集から~南部牛追い唄、こきりこ節、さんさい踊り~7~9.ニールセン:弦楽のための小組曲op.110.ピアソラ:ミロンガ・エン・レ11.ピアソラ:ヴェラノ・ポルテーノ12.スヴェインソン:ダル・レグノ・デル・サイレンツィオ(独奏チェロのための)どれも初めて耳にする曲ばかりでしたが、間宮氏のチェロ・ソナタの、各楽章ごとでよく練られた、チェロの長所を存分に生かした緻密な表現、そして民謡集を見事に歌い上げた日本のメゾソプラノ、駒ヶ嶺ゆかりさんの包容力のあるお声がとても心地良いライヴCDです。舘野さんのピアノも落ち着いた音色で、素晴らしいサポートをしています。中でも、秀逸はニールセンの弦楽曲です。指揮は本名徹次氏。北欧の作曲家らしい、透明感あふれる弦の響き、胸の底に残る美しい旋律・・。私は鳥肌が立ち、それはまさに、よい音楽に出会えた瞬間でした。フィンランドの小さな港町で開催されるこの音楽祭、舘野さんは、昨年の音楽祭を最後に芸術監督を退かれた模様。このライヴCDは、彼の功績の貴重な記録になりますね。フリマで掘り出しものを見つけるのはよくあることかもしれませんが、フリマにデビューし損なった品が、偶然にも、「この私にとっては」、掘り出しものになるとは・・。「世の中捨てたものじゃない」って、このことをいうのかも・・。10年前、39歳で未亡人となった従姉妹は、いつ会っても美しい。私と一緒に歩いてもきっと同級生に間違われるほどでしょう。姉のように慕っている彼女に、再び幸せな日々が訪れますように・・。しんしんと雪が降り積む森の光景を目にしながら、北欧の夏へと、そして冬へと、思いをめぐらせる、ひとりの日曜の午後です。
February 3, 2008
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