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大学時代の友人に会った。 そいつは、同じ部に入って、でもすぐにやめてしまった奴で、その頃からどこか変わったところのある奴だった。 そいつは松本という。おれと松本は、そんなに頻繁に会うわけでもないが、会っては一昔前の若者みたいに、日本がどうだとか、世界がどうだとか、そんな青臭い議論をする仲だった。 松本が部を辞めたのは、大学を辞めるからという理由だった。大学を辞めて何をするのかというと、青年海外協力隊としてアフリカだかアフガンだかに行くという話だった。 変わった奴、と言ったのは正確ではないかもしれない。「おれは自分にはやることがあると思うんだ」「おれは誰かの役に立ちたい」「おれは人のためになってる、っていう実感が欲しい」 松本はいつもそう言っていた。 それはあまりに正しくて、おれたちにはちょっとまぶしすぎただけのことだ。 久しぶりに会おうと連絡を受けて、それは久しぶりという言葉では言い足りないくらいの久しぶりで、数えてみれば十年ぶりくらいの久しぶりなのだ。「東京に来てるんだ。こっちにいる仲間で、誰かいるかなって考えたら、お前がいたから」 そう言われておれは嬉しくて、とまどってしまった。 久しぶりは嬉しいけれど、会ってどんな話をしよう。 学生時代、そいつの正しすぎる言葉と行動に対して周りの奴は理解できないって態度をとるか、または納得できないって態度だった。「松本くんの言ってることはわかるけど、なんかよくわからない」「もっと大事なことあるんじゃないのか、自分の周りのことでも」 なんというか、彼の言うことは立派すぎて、本や映画の中ではよくあることでも、それが自分の周りにあると、とたんに遠ざかってしまう。どうにも現実感がなくて、そんな話をしっかりとした目で語る存在におれらは慣れていない。「あいつにはがんばってほしいけど、正直よくわからん」 そんなことをいう声が、あった。 おれは、そんな松本をわかってやりたかった。おれにとって世界は自分の中にある小さな宇宙でしかなく、松本にとって世界は自分の外にある未知なる広がりだ。おれは松本の思う世界を感じることはできないと分かってはいたが、分かりたいと思った。話を聞いて、言葉を返した。どこまでも交わらない議論をしながら、こいつは世界の不幸とか貧しさをダイレクトに感じる心を持っていて、他人の痛みをきっちりと実感できる強い心を持っているのだと思った。それはおれにはない性質で、おれはそのことにただ感心して、うなづくことを繰り返した。 同意して、誰よりも松本を認めてやりたかった。自分にできることはそれくらいだと思ったからだ。 出発の日は関空に仲間と見送りにいって、いそがしいままたいして話もできないまま別れた。 ただ、最後に松本が言った言葉はずっと忘れられなかった。 最後に、松本はおれの前に立って、おれの目を見て、いかにもあいつらしく全身でおれの方を向いて、言った。「おれは、お前に感謝してるよ。 お前といろいろ話せてよかった。 お前に言われた言葉を、ずっと考えてた。 お前に言われた言葉に、支えられてる」 そう松本は言って、おれは「おう」と答えた。 そのときおれは、「おう」としか言えなかった。 自分が言ったどんな言葉が彼の支えとなったのか、そんな力のある言葉をおれが言ったのか、何かの勘違いじゃないのか。 他の奴が言った言葉とか、何かの本で読んだ言葉を勘違いしてるんじゃないのか。 そんなたいした言葉を吐いた記憶もない。 おれにはわからなかった。 その言葉を確認しようと思う間もなく松本は旅立っていって、結局のところはわからないままだ。 それから、十年も経つ。 それから、一回だけ松本から連絡があったことがあった。 おれの三十歳の誕生日にメールが来て、「Don't trust over 30!」 それだけ書いてあった。 ともかくも、十年だ。 新宿の町で、おれはすぐに松本を発見することができた。 昔と変わらない人懐っこい笑顔で、松本はおれを見つけた。 おれは、昔とどれくらい変わったんだろう、どれくらい変わらないんだろう。 そんなことが気になった。 とりあえず飯を食おう、酒も飲もう、と店に入って、松本は前置きなしに話を始める。 松本の話には世間話が存在せずに、いきなり本題なのだ。 自分の仕事の話。学生の頃から今に至る話。付き合っている女性の話。そんな近況報告から、最近の政治や世界情勢の話まで。 意外なことに松本はコンピュータのプログラミングの仕事をしていた。学生時代に行ったアフリカでは灌漑施設とか農場作りとかをしていたらしい。今はふたつ年上の女性と付き合っていて、結婚も考えているらしい。 そんな話を一通りしてから、松本はおれに訊いた。「で、お前はどうなんだ。どうしてる?」 きかれて、改めておれは詰まってしまった。 かつての根無し草から、今はしっかり根を張って生活しているらしい松本に対して、おれには語るべき生活があるのか。 吹けば飛ぶような塾講師で、学生の頃から今に至るまで完結しない小説をいくつも書いて、付き合っていた女性とは縁も切れて何も残らない。 語るほどのものが自分にはあるのか、と自問自答して、その答えは「なんもないなぁ」でしかない。 それでもおれは、自分のことを語るしかない。 大学時代から千枚くらいのボツ原稿を書いて、その間バイトに明け暮れて、六年前から塾講師をしているがこの先どうなるかはわからない。好きな女とは別れたが、いまだに壁から写真をはがせずにいる。その写真の隣にはマチュピチュの写真があって、いつか行きたいと思っている。その隣にはヒクソン・グレイシーの写真が貼ってあって、いつか倒したいと思っている。 話しながら、自分に成長のないことが恥ずかしいような目になってしまう。 おれはこいつにどう写っているんだろう。あきれてはいないか。情けなくはないか。 自分が他人と同じフィールドに立っていないような引け目がある。 自分が何かひどいミスキャストをしてしまったような感情。 松本は言った。「おれは、もうそこにはいられない。お前はすげえな。 あの頃と同じように悩んで、同じように引っかかって、立ち止まってる。 おれは立ち止まってるのが怖くて、不安で、荷物下ろして先に進んじゃったけど、お前はまだあそこにいるんだな。 おれはそこにはいられないけど、お前はまだそんなところにいたのか。 なんていうか、忘れ物をずっと忘れ続けて、まだ宿題やってんのか。 まぁ益田。 無責任だけど、そこにおってくれよ。おれはもうおれんけど、お前はおっといてくれ。 お前がまだそこにおっといてくれて、嬉しかった。みんなもう悩むのやめて、ええことやってる。 でもお前がそこにいると思ったら、がんばれるわ」 すごいも何も、おれはこうしているより他にやりようがなくて、抜け出せるものなら抜け出したいと思ってやってきただけだ。 もちろんすごくなんかなくて、おれには充分な助走がなくて、充分な貯えがなくて、飛び立つことができなかっただけだ。 ペンギンみたいに、空を飛べずに水の中をもがいていただけだ。 そう言う松本を前に、おれはまた「おう」と答えるしかなかった。 お前のほうが、よっぽどすごい。「お前に言われた言葉が支えになってた」という言葉を、きいてみた。 それは、おれの小説の中の言葉だった。 おれが大学二年の頃に書いた小説の中のセリフだった。 こんな小説を書いているんだ、と話していた中の言葉を、彼はずっと覚えていてくれた。「主人公は、十年前に戻りたい、二十年前に戻りたいって、ずっと思い続けてるんだよ。 今の自分に後悔があって、十年前に戻りたいって思ってるんだ。 今の生活はあるんだけど、やり直したいという気持ちは消せない。『あの頃に帰ったら……』そう思ってる。 でも、あるとき気付くんだ。 どうせそんなだったら、そう思うくらいだったら、 いまの自分を、十年後から来たんだと思って、 今をやり直せばいい。 三十歳の自分が、二十歳に戻りたいと思うんじゃなくて、 三十歳の自分を、四十歳の自分が満足できるように。 どうせそんなだったら、そう思うくらいだったら、 いまの自分を、十年後から来たんだと思って、 今をやり直せばいい。」 こう書いたのは、二十歳のおれだ。 三十二歳のおれは、今をしっかり生きているだろうか、 そんなことを考えた夜だった。
2006/09/26
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【 予シリ6年下 第1回 ・ 説明文・論説文の読み方(2) 】記述式の問題を中心に、解答の作り方を考えてみます。[基本問題]問2 「これら」とは何のことですか。【指示語の問題】1. 基本的には前を見る ↓ これ この → 近く ↓ あれ あの → 遠く ↓ それ その → まず近くを見て、なかったら遠くへ もし前になかったら、後ろをさがす2. 指示語の部分が主語のとき、まず述語をみてその内容を踏まえたうえで指示語よりも前を探す。 ↓ 指示語が含まれる一文はじっくり読むこと。――部分以外のところにヒントがあることが多い。 傍線部分は、「これら」だけだが、問題を考えるときはその一文全体をちゃんと読むこと。「初めて渡る鳥たちは、これらを利用するだけで最初から十分に飛んでいけるのでしょうか?」 指示語の問題は、指示語の部分を空欄にして、そこに当てはまる言葉が正解。つまり、「初めて渡る鳥たちは、 を利用するだけで最初から十分に飛んでいけるのでしょうか?」 としたときに、自分で書いた答えがちゃんと当てはまるか、確認することを忘れない。 に当てはまる「これら」は、「名詞」なので、答えも名詞となる。 指示語の内容は、それより前にあることが多い(「これ」の場合は直前の文)ので、直前の文から名詞を探す。 また、「これらを」とある、「~を」という形もかなりヒントになる。 直前の文から「~を」となっているものを探すと、「体内時計を」「コンパスを」とあるので、この二つが正解。問3 中学入試の国語では、ふたつのことを対比して考えている文章が多い。 この部分では、「一度でも渡りを経験したことのある鳥」と「未経験な若鳥」を比べている。1. 問題文 「一度でも渡りを経験したことのある鳥たちは、 何を 頼りに 軌道修正するのですか」 ↓ ↓ ↓ ↓ 鳥は を つかって 修正する( 問題文の言葉を、簡単な言葉に直して、それと対応するものを本文から探す ) 問題文の中から、「軌道修正」という言葉を得て、それを本文から探すと、L15「軌道修正」L30「修正」とある。 しかし、L15の部分は、参考にならない。国語の答えで、『抜き出して』などとあった場合は、傍線部分から抜き出すことはないというルールがある。 それゆえにL30「修正」にしぼって探すと、彼らが、A体内に遺伝的に備わったプログラムだけでなく、Bあとで学習したさまざまな地上の目印も 利用して ↓ ↓ ↓鳥が を つかって というように対応している。よって、1.一度でも渡りを経験したことのある鳥たち 2.未経験な若鶏たち の答えは、ここからもってくればいい。問4 1「何のために渡りなどするのでしょう?」 傍線部の問題は、「傍線部の前にヒントがある」という問題が多いのですが、この問題は[6]段落の最初が「では」とい話題を転換する接続詞で始まっているので、ここから前は別の話になっていて、ここから前にヒントがあることはない。[7]段落を見て、渡りをする利益とコストという二つのことを対比しながら、本文を読む。渡りの利益 もっと食べ物の豊富な場所があるのであれば、~~、そこで過ごしたほうが生存率があがる渡りのコスト 死んでしまう エネルギーを消耗し、次の繁殖での繁殖率が下がる こういったところを○や□で囲みながら、本文を読む。 これで問5も同時に解けます。 また、「一方」という表現は、「Aだが、一方Bでもある」とふたつのことを並べていう表現であるが、この場合Bに大事なことがきている場合が多い。問7 文章を二つや三つに分ける問題では、いくつかヒントがある。【段落分け問題】 1. 「さて」「ところで」「では」の話題転換語に注意 2. 文中の繰り返し語句や内容が、急に変わる。 (1.は邪道、2.は王道。しかし1.2ともにほぼ100%の確率で分かれる場所) 3. 時間、場面が変わる 4. 1から3がすべて駄目でピンチなとき → 逆接で始まる段落 (ただし信頼度はかなり落ちる) 5 結論の段落は、それだけ独立している。 たとえば、 12 - 345 - 67 - 8 (8が結論だとして、78とくっつくのはあまりない) この問題の場合、「では」「それでは」とあるので何も考えなくても正解が出る。 [発展問題]問4 を埋める問題は、 のうしろの言葉を見て、それに対応する部分を本文から探すと良い場合が多い。1 □をする 鋭い、よい言葉づかい をしたい2 □こと 文脈ごと言葉を覚える のがよい3 □文章を熟読して 自分を引きつける ものを熟読して4 □ようにし、 いっそう鋭く深く受け取る ようにする5 □ことが必要だ 自分の目で判断する こと 問題文と本文との対応を探す、これは国語の問題を解く上でよくあるパターンです。問5 文章を書くときに、同じことを表現をかえて何度も繰り返すことがあります。 自分の言いたいことを相手に伝えるために、主張を形を変えて繰り返すのです。「社会で存在を認められる単語」とあるので、「社会」「存在」「認める」といった言葉をキーワードにして本文を探します。ふたつ前の文に「人間社会にある一つの事実を的確にとらえ言語化したから、社会に存在を認められたのです」とあるので、その部分をつかいます。 問題は「どのような言葉」なので、答えの型は「~~言葉」となります。問6 「彼は二十万語の日本語を消化しようとした」とあります。彼は 二十万語の 日本語を 消化しようとした ↓ ↓ ↓ ↓大江さんは たくさんの 日本語を つかう(問題文の 指示語は言い換えて、ややこしい言葉やあいまいな言葉は簡単な言葉に言い換えて、考える)理由・原因の問題のヒントの探し方で、文の前後が「ヒント=答え」、「答え=ヒント」となっているパターンがある。 ヒント 答え 文 A ならば 文 B である 答え ヒント それと同時によくあるのが、 ヒント 答え 文 A でなければ 文 B ではない 答え ヒント と、逆のことを言っているパターン。 自分が区別して 使える 言葉の 数が多くなくては、ぴったりした表現ができない。 ↓ ↓ ↓ ↓ (こっちがヒント) つかう 言葉 たくさん (こっちが答え)問6 傍線部と、ひとつ前の文を比べてみます(6)それは その人 その人なのです。 ↓ ↓ 言葉をどう使うかは、 その人が保守的な態度をとるのか、 新しい態度をとるのかによって違う。 指示語の部分が主語であったら、その意味内容も別の文で主語の働きをするものである場合が多い。問12 「筆者は言葉を的確に使うにはどうすることが大切だと述べていますか?」 本文から、「言葉」「的確」「つかう」のキーワードを探すと、最終段落に「言葉を的確に運用できない」とある。 「筆者は 言葉を 的確に 使う にはどうすることが大切だと述べていますか?」 ↓ ↓ ↓(~がなくては) 言葉を 的確に 運用できないのですね「Aでなければ、Bではない」 → 「Aであれば、Bである」「単に言葉に敏感になるだけでなく、事実そのものをよく見る眼と心とを持つこと」 (36字)「はっきり見て、それをきちっと表現する心がまえ」 (22字) 以上のことから解答を作って、文末の「~すること」をつければ、解答はできあがります。解答例1 [言葉に敏感になるだけでなく、事実そのものをよく見る眼と心を持ち、それをきちっと表現する心がまえを持つこと](52字)ただし、これは正解になるには不充分で、満点の解答になるためには、これ以外に前半部分に書いてある、「自分が区別して使える言葉の数を多くする」 (19字) というのも入れてやらなくては満点にならない。解答例2 [自分が区別して使える言葉の数を多くして、事実そのものをよく見る眼と心とを持ち、それを表現する心がまえを持つこと] (55字) 重複する部分は削り、文字数を揃えました。また「きちっと」といった擬音は国語の解答に書いてはならない言葉なので、けして書かないように注意します。(この場合は文中の言葉なのであっても許されると思うが)
2006/09/11
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