仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2012.12.08
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カテゴリ: 仙台
■逸見英夫『明治・大正・昭和 仙台じけん帳』(河北新報社、2002年)から

明治9年6月、天皇巡幸に随従した岸田吟香(劉生の父)は、大橋わきで開催された宮城博覧会を見物し、展示されていた支倉六右衛門の肖像画を「もっとも奇とすべき」と東京日日新聞に執筆している。

支倉常長がローマから持ち帰った物品や支倉の肖像画は、現在は仙台市博物館所蔵。以前は藩の評定所内の切支丹改所(現在の片平市民センターの地)に保管されていた。藩主の所蔵品のう貴重品はその場所の「御物置」に保管され、その他は「御勝手方」という倉庫におかれ、いずれも年に一度の虫干し以外は人の目に触れることはなかった。明治4年の廃藩の際に、御物置に保管されていた物品は、窪田敬輔の父親によって運び出され県庁に収められたという。

明治5年9月18日付の耶蘇教探索太政官「諜者報告書」第57号では、窪田敬輔が9月13日東京の教会で次のように語った。
(おだずまジャーナル要約)政宗は支倉をローマに派遣し、後に支倉は教師2人を伴い帰国したが、政宗死後は家光の邪教禁止により2人は囚われる。由来記や十字架の画像などは倉に秘めて代々相伝えてきた。また、支倉、大和田などの同志6家従前から切支丹を伝えるが、廃藩の際に由来記を桐箱に納めて県庁に渡す。窪田敬輔の父これに従事したと敬輔自ら語った。

慶応4年3月太政官定書「切支丹・邪宗門之儀堅ク御制禁」の高札を撤去し、キリスト教布教活動が黙認されるのは、明治6年2月。その半年前に窪田が語ったことが諜者により報告されていたものである。

窪田は切支丹を相伝する家柄の出で、明治6年に洗礼。後に原敬の代父を務める。弁護士となり、仙台市議会副議長にもなった。

常長の肖像画が再び公開されたのは明治12年6月で、大蔵卿大隈重信とヘンネッシ香港太守(総督)がら来仙したとき。機業試験場(現在の宮城県医師会館あたり)の養蚕室に支倉の肖像油絵とローマより帰朝の歳の古器物を陳列したと、音楽家四釜納治が記している。

ところが、常長の肖像画とともに「南蛮王」や「血ダルマ」といわれたローマ法王パウロ5世の油絵もあったはずだ、と旧仙台藩士たちが騒ぎ出した。評定所の倉庫を調べたが見つからない。県庁の倉庫にもない。捜索が市中の評判となり、民間人も血眼で探し始めた。



他方で、古道具屋は帰宅途中に国分町山崎平五郎(現在の阿部写真館あたり)に立ち寄り、伏見屋で法王肖像画を発見したと告げる。山崎は金上侍で明治15年には東北自由党連合会会場を自宅に設けた顔役。さっそく伏見屋に行き交渉。値段はせり上がり、ついに600円で購入したという。

山崎は親類の大町一丁目藤崎治右衛門から資金を借り、横浜でイタリア人に売りつけた。イタリア人は3千円の値を付けたが、もっと値を上げようと頑張り、仙台と横浜を再三往復するうちに、家屋敷に二重三重の抵当がかかるまで散財してしまう。

この動きを察知した自由民権派の東北新聞(社長兼主筆高瀬眞卿)が明治14年3月31日の紙上で宮城の宝物たらしめよと訴えた。そのせいか、8月13日の2度目の天皇仙台巡幸のとき、このローマ法王の像を展覧に供したが、その時はまだ山崎の所蔵であった。

その後、政宗時代に明から渡来した王翼将軍の子孫で5代目七十七銀行頭取となった旧藩士でカトリック教徒の大野清敬が、山崎から購入してようやく伊達家に献上された。

なぜ絵は荒物の伏見屋にあったのか。大槻文彦は、何代目かの藩主が法王の肖像画を見て、精彩生きるがごとしと嫌な顔をしたので絵は御勝手方に移されのだ、と言っている。安永3年(1774)の高野統兼(蔵王平沢館主)日記には、御物置の風入(虫干し)の記述があり、常長帰朝の持参品について触れているが、その中には法王肖像画は記載されていない。大槻玄沢が文化9年(1812)に記した「帰朝常長道具考略」でも触れられていない。

明治になると、御勝手方の品物諸道具は民間に払い下げられ、河原町の紙屑屋の手に渡った。その払い下げ品の中に、妙な絵があるので、国分町の金持ちに買ってもらったのだろう、と清水東四郎(東北学院大学教授)が語っている。評定所では法王像を「血達磨」と呼んでいたという。

伊達家所蔵のこのパウロ5世画像、支倉常長画像など慶長遣欧使節関連資料は、昭和39年仙台市博物館に収められる。平成13年には国宝に指定されている。





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最終更新日  2012.12.08 09:13:47
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