ピカルディの三度。~T.H.の音楽日誌/映画日誌(米国発)

Oct 17, 2006
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「断念。残念。」

 今日のカルテットの練習では、ついにベートーベンの作品127に挑戦することにした。自分としては、彼の後期のカルテットを弾くのは今日が初めてで、思いっきり緊張しながら練習に臨んだ。(面子: マックスが第1バイオリン、マリリーが第2、僕がビオラ、マーディがチェロ。)

 この曲、独りでパート譜を見ながら自宅で練習しようと思っても、どうも感じがつかめない。それはスコアを見てても同じ。実際に四人で音に出してみないと、この曲の 神がかり的な 音楽性には絶対に近づけない。今日この曲を練習することは先月から決まっていたけど、僕だけでなく、みんな同様の感想を持って今日を迎えたようだ。(すなわち、個人練習中に途方に暮れてしまい、結局は練習してきていないという意味。)
 何度も集まって四人全員で練習していくしかない。

 ベートーベンの後期のカルテットについては、いろんな研究がなされ、多くの本が出版されている。今日実際に曲を合わせてみて、そういう本を無性に読んでみたくなった。片っ端から。
 僕は元来怠け者なので、一般には曲の背景をそんなに深く調べようとは思わず、音楽そのものを純粋に楽しめれば「ま、いっか」と考えるほうだけど、この曲の場合、作曲家の人生を、そして彼のこの曲に対する思いを、どうしても知りたく思わせる何かがある。

 作品番号が127ということは、第九交響曲(作品125)より後に書かれたということか。あんな壮大な合唱つきの交響曲を創り上げた後で、 たった四人でチマチマ弾く (?)弦楽四重奏用の曲を書き続けた彼の心理は、やっぱり興味ぶかい。

1楽章
 さて、 普通の 拍子(三拍子)に変わってからは、結構マトモで、ベートーベン晩年の作品といってもビビることないんだー、と一瞬思ったりもする。けれど、結局は狂ったように転調を重ねたあげく、元の調に落ち着いて尻切れトンボで終わるあたり、この楽章はあくまで次楽章以降への序曲に過ぎないのかもしれない。

 全員とも、1楽章の練習だけでドッと疲れたが、今夜は思い切って2楽章にも挑むことになった。そして、これが結果的に大惨事を招くことになろうとは、この時点での四人は知る由もなかった。

2楽章 : ちょっとわかりにくいけど、変奏曲と考えてもいいのかもしれない。常にゆっくりした大きい四拍子と捉えれば、 テンポの変化が拍子の変化と相殺されて ツジツマが合うのだとか。8分の12拍子で始まり、やがて4分の4拍子になり、ついには2分の2拍子になる。
 調性についてもしかり、フラット四つとシャープ四つを何度となく往き来する。
 弾いてるほうは、もうそれだけで血圧が上がってしまうのに、こういった変化は小節のド真ん中で発生するので一層ヤヤコシイ。パート譜だけ見ても何がなんだかわからないので、みんなでスコアを見ながら弾くべきか。指揮者に登場願ったほうが手っ取りばやいのか。

 難曲を弾き遂げてみたいという野望を持ちながらも、拍子の数え方や面倒な調性に苛立ちながら練習を進めていたが、そのうち、ついにメンバー間で言い争いが勃発!

 「テンポが合わないのは君が悪い」「いえ、私は単にあなたが一拍めの強拍を弾くのを待ってただけ」みたいな会話から、結局、「こんな曲を演ろうなんて言い出したヤツは誰だ」的な誹謗・中傷にまで発展し、今日の練習はその場で打ち切り。早い話が挫折してしまった。我々は今までもいろんな難曲に挑戦してきたけど、喧嘩別れは今回が初めて。

 確かにこの曲は難しすぎたか。でも、断念なんて残念。悔しすぎるので、四人で協議の末、二週間後にもう一度集まって再挑戦しようということになった。

 我々四人は、過去四年間、それなりに仲良くは練習してはきたものの、実を言うと、過去にも同様の一触即発の危機的な場面が何度かあった。血は飛ばなかったけど、 涙の一、二滴

 次回の練習日まで気合いを入れて個人練習を積もうと思う。二週間後が楽しみでもあり、ちょっと恐ろしくもある。





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最終更新日  Oct 23, 2006 09:35:28 AM
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