ピカルディの三度。~T.H.の音楽日誌/映画日誌(米国発)

Mar 4, 2010
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「下方は寝て待て」

 今日はカルテットの練習日。先月に引き続き、ジョアナと僕(Vn)、エレン(Va)、マーディ(Vc)という面子。

 練習前半は僕がファースト。
 個人的にハイドンのファーストを弾いた経験が少なかったし、思い切って「皇帝」をご提案申し上げたのがひと月前。でも、直前になるまで練習をサボってて、こないだ慌てて譜面を取り出してさらってみたら仰天。こんなに難しい曲だったとわ。

 この曲は2楽章の変奏曲が有名。アメリカ人さんたちのあいだでは、ドイツ国歌というより、むしろ賛美歌のひとつとして知られてるらしい。よって、オルガンのように透明で深い響きを作ろうだの、ビブラートの乱用は控えようだの、いろんな意見が出されて練習も盛り上がった。基本的にピアニッシモまたはピアノだけから成る曲だし、あくまで禁欲的に。
 この楽章の最もスゴいところはやっぱり第1変奏。なんとバイオリン二重奏が延々と続く。

haydn_kaiser.jpg

 ハイドンという人は、弦楽四重奏を「発明」したお方のはず。そんな偉業を誇るくせして、このように高音の二声だけでちまちまと弾かせるなんて、茶目っ気のおつもりか。
 こんな大胆な書法は、のちの19世紀の弦楽四重奏曲にも皆無かもしれない。フーガの一部とかならともかく。


 今回初めて知ったこと。この曲の1楽章は、ソッ、ミーファッレッドー(GEFDC)という音で始まるのだけど、これは、Gott erhalte Franz den Kaiser(神よ、皇帝フランツを守り給え)の頭文字なんだそーで。だから「皇帝」。

 終楽章にいたっては、なんと短調っ! 三連符で懸命に駆け回るさまが超かっこよく、まるで「死と乙女」(1楽章)的な緊迫感。
 1楽章の音型の一部が再現されてることも発見した。
 長調に転んだ終盤の最後の数小節の和声も萌え。最後の最後で和音を一瞬だけ曇らせるのって、たぶんハイドンの得意ワザ。「以上、ハイドンの提供でお送りしましたっ」という署名/捺印みたいなもんかと思う。バッハでいうところのピカルディーの三度終止みたいな。






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最終更新日  Mar 6, 2010 11:47:17 AM
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