2007年01月27日
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カテゴリ: 映画日記
2005年度韓国作品。

出演はイ・ビョンホン、スエ、オ・ダルス。

本日公開なので午後3:05の回を観に行った。
最近周囲に大型シネコンが2つできた為か、興行成績ランキング1位の作品でも満席になる事があんまりなくなったけど、念の為午前中にウェッブ・リザーブを入れておいた。
20分前に行ったら、他は空席有りなのに、この「夏物語」だけが満席ランプが付いていたので、リザーブしておいて良かったとホッとした。
ちなみに明日の午前中は既に予約だけで満席になっている。
全国的にはどうなっているかわからないけど、これは韓流メロとは一線を画す作品なので、是非ご覧になって頂きたいと思う。

なぜならこの作品の時代背景には政治が影を落としていて、その時代の大きなうねりの中で翻弄され、別れなければならなかった1組のカップルの話だからである。

この作品には時代の大きなうねりに翻弄された、一組のカップルの心の痛みが突き刺さって来る。

日本でも戦前や戦時中にはイデオロギーの弾圧があったし、アメリカでもマッカーシー旋風が吹き荒れた頃には厳しい赤狩りがあった。
当時はきっとこの「夏物語」に描かれているようなカップルはいたんじゃないかと思う。
そんな事を胸に留めて観ると、一際身近な事として心に痛みを感じる。



放送作家をしている教え子が、恩師の元大学教授のユン・ソギョンに、テレビの人探しコーナーへの出演依頼をしに来る所から始まる。
それでユン・ソギョンが1人の女性を探して欲しいと依頼する。
その女性はソギョンが農村ボランティアで行った農村で出会ったソ・ジョンインだった。

そこからソギョンの大学生時代の夏休みが紐解かれていく。

イ・ビョンホンは最初に登場する時は60代の初老で、ロマンスグレーの長髪姿だ。
表情もあまり動かさずに、せりふも動きも少ない。
持ち前のバリトンボイスでゆったりと話し、ゆったりと動く。

心の奥にしまいこんだ悲しみや辛さが、ちょっとした表情や横顔や背中に滲み出ている。
放送作家と共に観ていて、思わずこの初老の元教授の過去に何があるのだろう?と思ってしまう。

それから一転して映画は69年に遡る。

ソギョンは大学生だった。
団体行動が苦手で学生運動にもお義理の参加で、勝手気ままに行動する扱い難い存在だ。


思えばその時からソギョンの人生は、それまでとは全く違う方向へ急転していたのだろうと思う。

農村ボランティアで行ったスネリ村で出会ったのがジョンインと言う女性だった。

大学生時代のソギョンは気まぐれでボランティアにも参加したから、自分勝手に行動していた。

だけどビョンホンssi扮するソギョンは、ムラのある性格で扱い難い存在でありながらも、表情や行動がとても人間っぽいと言うか人間臭いと言うか、そう言う部分がソギョンと言う人物の奥行きを増しさせ、魅力的で実在感たっぷりにさせている。
横柄で感じが悪かったり、生意気だったり、へタレだったり、おっちょこちょいだったり、愛嬌者だったり、思いやりがあってやさしかったり、男っぽくて頼り甲斐があったり、少年っぽかったり、それはソギョンと言う1人若者だ。

それは最早、ユン・ソギョンと言う人がそこにいるような気がした。
それくらい演技していると言うのではなく、ソギョンが息をして話して動いている、そんな気がしていた。
アドリブを要求すると言うチョ・グンシク監督の演出スタイルの為に、いつも以上にソギョンに成り切り、ソギョンとして生きたからだと思う。
演技を上手いと感じると言うより以上に、もうソギョンその人なのだ。

実年齢が36歳だから、考えるまでもなく20代の大学生を演じるには不自然さがあるんじゃないかと思うけれど、観ていて何も感じなかった。
36歳とか20代とか感じる前に、既にソギョンその人なのだ。
年齢の事など、どこかにすっ飛んでしまった。

観ていて「甘い人生」のソヌを演じていた同じ人なの???と思ってしまう。

まさしく千の顔を持つ俳優だと称された程の人だ。

ジョンイン役のスエさんも素晴らしい。
もうそこに存在しているだけで、ソギョンが一生忘れる事ができずに、独身を貫いた人だと納得させられる。
ビョンホンssiがシナリオを読んでスエさんの事を思い浮かび、他の女優さんが演じるのは考えられないと言っただけの事はある。
スエさんがジョンインを演じたからこそ、ソギョンの心が納得できる。

2人があの年の夏、スネリ村で出会う運命にあったのなら、ソギョンがもう少し世の中の動きや政治に知識を持っていれば、ソウルへは連れて行かずに、ジョンインと2人でどこか違う村へ行ったんじゃないかと思った。
ソギョンがもう少しきちんと世の中の状況判断をできていれば、あの後の2人の運命は変わっていたんじゃないかと思う。

あの取調べ室で発したソギョンの一言。
そしてそれを聞いたジョンインの表情の変化。
賢いジョンインだから、それで全てを察したのだと思う。

駅のシーンではもうジョンインは決心していただろう。

「今度会った時には、この手を離さないでね」

号泣だった。

ソギョンは取調べ室のあの自分の一言に、悔いても悔やみきれない自責の念を感じていたのだろう。
自分は嘘をついた。
そしてどうしてずっと傍にいて、たった1人の愛する女性を守れなかったのだろうと言う自責の念。
その人はいつまでも大切な人だった。
その思いを引き摺り続けていた。

ジョンインはいつも愛するソギョンが心の中に住んでいた。
例え一緒にいられなくても、心の中の愛するソギョンがいれば、ソギョンへの愛があれば、幸せに生きて行けた。
例え一緒にいられなくても笑顔でいられる。

なんと健気。
愛って女を強くさせるのだろうか。

愛する女を守る為に一緒にいる事を選ぼうとした男。
そしてそんな愛する男を守る為別離を選んだ女。

もう2度と非人間的な時代になってはならないね。


【政治的時代背景の説明】

時は69年でアメリカのアポロ11号が月面着陸して、アームストロング船長が月面を歩いた年で、日本では団塊の世代と言われる人達がちょうど大学生の頃で、日本でもベトナム戦争反対や学費値上げ反対などの大学紛争が起こって、学生運動が日本全国至る所で展開していた頃。

韓国でも運動の主旨や目的は韓国特有のものであったが、学生運動が起こっていた。

時の大統領がパク・チョンヒ大統領だ。
この大統領は61年に軍事クーデターを起こして政権を掌握して、63年に軍を退役して韓国の第5代大統領になった人だ。
当時憲法で大統領職の3選を禁じていたが、それまでの成果を理由に、3選できるように改憲しようとしていた。
パク・チョンヒ大統領は厳しい圧制だったので、自由を求めた大学生などが猛烈な反対運動を起こしていた。
主役のソギョンの大学でも3選反対の学生運動をしていた(冒頭に出て来る学内の集会や後半学内の大騒動がそれ)。
主役のソギョンが夏休みに参加する農村ボランティアは、農村で農業を手伝いながら農民を啓蒙して行き、農村から変えて行こうと言う主旨で80年代まで行われていた。

パク・チョンヒ大統領の功績
・「漢江の奇跡」と呼ばれる飛躍的な経済成長
・農村の近代化

その一方で政治批判の禁止、国民の政治参加や言論の自由を抑圧した。
「隠せば罰を受け、申告すれば賞金」と言うスローガンの「国家保安法」があった。
共産主義者と見なされると、逮捕取り締まりの対象になって、厳しく処罰されていた。
ジョンインが村民から白い目で見られ阻害されていたのは、この「国家保安法」の為で、父親が北朝鮮に渡ってしまったので、「共産主義者の娘」と見なされていたからだ。












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最終更新日  2007年01月28日 00時48分19秒
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