ワルディーの京都案内

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2021/07/29
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テーマ: 京都。(6368)
カテゴリ: 若冲と応挙
【2021年7月29日(木)】

 明日の会に必要なものは昨日作成し終わって送り済みなので、今日は少し気持ちに余裕をもって、PCに向かって会のことを進めることができました。今日も朝の涼しいうちに散歩しました。


 「若冲と応挙」#27です。応挙の円満院時代の次は黄金期と呼ばれる時期ですが、黄金期のお話しに入る前に、応挙の絵画理論を続けます。


◆第3章 円山応挙(続き)

3-4 黄金期へ

 ここしばらく 円満院祐常 をパトロンとした34歳から41歳までの、所謂 「円満院時代」 の応挙について述べてきました。この時代は、写生法を極め、絵画理論を追求した画風確立期であったともいえるでしょう。円満院祐常の 「萬誌」 中の 「秘聞録」 に書かれた写生に関する応挙理論も紹介しました。

三井家 の庇護を受けるようになり、祐常亡き後は、三井家をパトロンとして活躍し、多くの傑作を残しました。この安永2年から安永5年(応挙41歳~44歳)に至る時代は 「黄金期」 と呼んでもいいでしょう。。

 ここで祐常の「秘聞録」に書かれた絵画理論の続きを述べておきます。応挙は立体のとらえ方について、石の描き方を例に次のように説いています。 「石見二三面一事、上一面、左右二面、合三面」 。=「石は三面を見せること。上面と左右、全部で三面である。」円満院時代の作品ではありますが、その理論を実践したのが、 図1 「雪中山水図屏風」 です。中央の岩は、上面、左面、右面の三面を見せています。


図1「雪中山水図屏風」二曲一双 相国寺蔵(右は中央部分拡大)



「三遠の法」 も説きました。 「三遠之法、平遠深遠高遠此三、人物花鳥山水万物三遠ヲ可レ意、々不レ掛ハ図不二出来一云々、クルシンデ学ブベシ・・・」 =「三遠の法とは、 平遠・深遠・高遠 の三つである。人物も花鳥も山水など何においても、それを意識しなかれば出来の良い絵は描けない。」 高遠とは仰視、平遠とは水平視、深遠とは俯瞰視のことです。その理論は先ほどの図1「雪中山水図屏風」に見ることもできますが、もっと端的に表れているのが、これも円満院時代の作ですが、 図2 「湖山烟靄(あい)図」


図2 「湖山烟靄(あい)図」一幅 個人蔵



 応挙の絵の卓越したところは、掛け軸にしても、襖にしても、屏風にしても、それがどのように置かれ、観察者がどの位置で見るかを熟考して描かれているところです。襖絵なら、その襖が部屋のどの場所に入れられるのか、主人や客人がどこに座るのかを熟考して、その状態で観賞してベストな絵を描こうとしているし、屏風であれば、平面の状態でなく、折れ曲がった状態で置かれたとき、どう見えるかに思いを馳せて描いているのです。


                                 相国寺蔵

図3 「大瀑布図」 は、円満院祐常が、同院の庭園に滝がないのを惜しんで描かせたものだと伝わります。滝の上部は仰視、中央は水平視で描かれています。俯瞰視はどうでしょう。この絵は縦3.6メートルもあり、円満院の書院に掛けると畳面でL字型に折れ曲がり、下部は水平に置かれることになります。滝壺や川の流れの俯瞰視は、それを念頭に置いて描かれているのです。バーチャル3次元絵画ではなく、リアル3次元絵画と呼びたいところです。

 もう二つ「秘聞録」からの絵画理論を挙げておきます。一つは 「遠見の絵」「近見の絵」 「春台話円山談云画可有其意得或懸物屏風間之絵等其間ヲ置テ見テ宜様二可画近クヨリテハ筆ハナレアリ草木惣而何モツヽカザル所モアレトモ遠見如真ミユル様可心得近ク見之画者細密一毫之所モ真ニセマル様細筆彩色モ可有其意得是其大意也云々甚深妙之理也云々」 =「春台という人物が、円山応挙が次のように語ったと言った。掛軸・屏風・襖絵などは、距離を置いて観たときに、よく見えるように描かなければならない。近くで見たときに、筆が連続していなくて、草木が続いてないところがあってもかまわない。遠見で真の如く見えるように描くこと。逆に近見の絵は、細かな部分も真に迫るように、筆遣いや色彩を意識しなければならない。」遠くから見る絵と、近くで見る絵で、意識すべき点が異なるというわけです。「遠見の絵」の例は、後の回で紹介するとして、ここでは「近見の絵」として、 図4 「華洛四季遊戯図巻」 を紹介します。二巻の巻物に京都の四季景物を描いたもので、老若男女あらゆる階層の人々の営みを描いたものです。巻物は近くで見るものなので、細密に描いています。しかも遠近法はあえて使っていません。近くで見る場合は、遠近法に無理矢理こだわる必要もないし、遠近法を使うと、遠景の人物は小さくなり、描き切れなくなってしまうためです。臨機応変な応挙です。


図4「華洛四季遊戯図巻」二巻の内上巻部分 徳川美術館



 もう一つの理論は、写生のところで紹介すべきだったかもしれませんが、次の文言です。 「・・・難不レ見生ハ可レ依二画本一、不レ見物モ生物数品写内自然ト図モ可二出来一・・・」 =「実物を見るのが難しい場合は、画本を写しなさい。存在しないものは、他の生物をいくつか写すと、自然と描けるようになる。」 空想上の動物は見ることができないが、画本を参考にしたり、色んな生物を写したりするうちに自然と描けるようになるという訳です。その理論が結実したのが、 図5 「雲龍図屏風」 ではないでしょうか。龍は空想上の生き物です。中国のある古い書物には、龍の姿は「頭は駱駝、角は鹿、目は鬼、耳は牛、項(うなじ)は蛇、腹は蜃(みずち)、鱗は鯛、爪は鷹、掌は虎に似る」と書かれています。この絵の龍は、様々な生物、様々な中国画を写生した応挙ならでは龍といえるでしょう。また、 図5 は平面に拡げた図ですが、屏風は折り曲げられた状態で観賞するものです。応挙は屏風が折り曲げられたときの凹凸に配慮しながら、前後の方向性まで加えており、三次元空間で躍動する龍の圧倒的な立体感が表現されています。さらに、 「たらし込み」 「滲み(にじみ)」 「暈し(ぼかし)」 など、多彩な画技を駆使して、渦巻く雲や、しぶきをあげる波を表現しています。このような迫真性に富む大気表現はそれまでにはなかったものです。龍の絵は古今を問わず、多くの絵師、画家が描いてきましたが、その中の最高傑作の一つであるのは疑いの余地がありません。


図5「雲龍図屏風」(重文)六曲一双の左隻 個人蔵





(続きます)


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最終更新日  2021/08/01 12:48:25 PM
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