話飲徒然草(S's Wine)

話飲徒然草(S's Wine)

2016年02月01日
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#今回は2回分まとめて掲載します。

とっておきの機会に持参したワインが2本とも状態に難ありという悲惨な経験をして以来、メーターの針が反対側に振り切れたように、私は執拗にコンディションにこだわるようになりました。
購入先にこだわることは当然として、たとえば20度を少し超えるぐらいの場所に短時間置かれただけで劣化してしまったのではと騒いだりとか、ワイン会や試飲会の場で出てくるボトルの状態に難癖をつけたりとか、自宅のワインセラーが運悪く故障したときには、春先だったにも関わらず、修理に来た担当者にヒステリックにあたったりとか‥。

 そんな折、「リアルワインガイド」という雑誌の連載で、「セラーがない環境下でどの程度ワインを良好な状態で維持できるか」という趣旨の検証をすることになりました。2001年のことです。
検証といっても科学的な実験ではなく、あくまで読み物のネタレベルでの実験でした。それでも、約2年半、10回に亘る連載を通じて、ボルドー、ブルゴーニュそれぞれ1ケース分のボトルの変化を定点観測できたことは、温度と劣化との関係を皮膚感覚的に理解する上で大いに役立ちました。
また、自分の中で振れ過ぎていたメーターの針を常識的なレベルに引き戻すきっかけにもなりました。
詳細については、機会があればバックナンバーを読んでいただくとして、ざっくりと結果を要約すると、

~夏場の室温が35度を越えるような、エアコンの効いていない部屋に置き去りにしていたボトルはひと夏経過時点で顕著に劣化が感じられました。
~エアコンの効いたリビングに保存していたボトルについては、上記のボトルよりマシだったと
はいえ、セラーに保存したボトルとの違いは明らかでした。ひと夏経過時点では、こなれた味わいという好意的な意見もありましたが、ふた夏経過すると、さすがに厳しいなあということになり、3夏経過後はもはや論外という状態になっていました。

~ボルドーとブルゴーニュとでは巷で通説となっているとおり、ブルゴーニュの方がデリケートでしたが、その差は想像していたほどではありませんでした。(ボルドーでも変化は見られた。)

 ということで、お世辞にもセラー保存と同等とは言えないにせよ、1年(頑張って2年)程度なら、「夏場冷蔵庫に避難させておき、それ以外の季節は温度管理されたリビングなどに保存しておく」ことによって、変質や劣化を許容範囲内にキープできそうだというのが、この検証によって得られたおおよその結論でした。(ちなみに検証は私だけでなく、テイスター数名によるブラインド形式によって行われました。)
その一方で、夏場に冷蔵庫を併用しても、年数を経過するにつれて変化が大きくなったことを思うと、長期に亘る保存では、単に高温だけでなく、「温度変化」の要因もケアしないといけないのだなと改めて思わせる結果でした。

 とはいえ、この検証を契機に、先鋭化していた私のコンディションへのこだわりはかなり「軟化」しました。特に、購入後1年以内に自宅で飲むようなボトルについては、購入ルート等をあまり窮屈に考えなくなりましたし、家のストックがセラーからあふれても、夏場以外はさほど気にしなくなりました。
もちろん、ワイン会に持参するためのボトルや、記念日用に5~10年以上のスパンで寝かせる予定のボトルについては、多少高くついても信頼のおけるショップで購入して、レンタルセラーに預けるか、セラーの中で極力動かさないように保存していることに変わりはありませんが。

**********************

ワインの保存に関しては、極端な高温だけでなく、温度差の激しい環境も避けるようにすべきだというのは周知の事実です。
前回のコラムで触れた「夏場は冷蔵庫、それ以外はリビング」に保存したボトルが時間の経過とともにセラー保存のボトルとの差が大きくなったのも、冬場の昼夜の温度差がじわじわと影響したのだと思われます。

また、急激な温度変化には「ワインが噴きこぼれる」リスクもあります。キャップシールの下から雫のようにワインが垂れた形跡があるボトルを時折目にしますが、これらのボトルの多くは、中の液体が温度変化によって膨張して、瓶とコルクの隙間から漏れてしまったものです。
同様にキャップシールの部分を手で回しても回らないようなボトルも、(すべてがそうだとは限りませんが)噴きこぼれた際、漏れた液体によってキャップシールが癒着している可能性があります。
液モレしたボトルは、総じて温度環境の悪いところに置かれていた状況証拠とみなされ、愛好家からは忌み嫌われます。


たとえば、ブルゴーニュの生産者の中にはコルクの下部ギリギリまで詰める生産者も少なくありません。こうしたボトルを夏場にクール便で配送する場合、到着した荷物が室温に馴染む前に不用意に開けると、あっさり噴いてしまうことがあります。
特にボトルを横にしている場合は危険です。私もうっかりして手持ちのワインを噴かせてしまったことは何度かあります。
なかでも散々だったのは、ニューヨークに出張したときに購入した90ムートンロトシルトでした。市内のショップで購入したものをホテルに持ち帰ったら、キャップシールがボコボコになるほど噴いていたのです。
購入時にボトルをチェックしていたので、ショップからホテルへの移動で噴いたとしか思えません。季節は春先でしたし、なぜそれほど激しく噴いたのか、今でも不思議です。
もっともこのムートン、数年前に飲んだところ、味わいのほうは非のうちどころのない素晴らしいものでした。


このように、ワインの液モレに関しては、「どのようなシチュエーションで噴いたか」を自ら把握できていて、それに応じて基本的に早めに飲むのであれば対処できるケースも少なくないように思います。
早めに、と書いたのは、「軽症」のケースであっても、漏れた液体の代わりにヘッドスペースに空気が侵入することから、中長期に亘る熟成への悪影響の可能性は排除できないからです。もし自宅に同じ銘柄が6本あって、そのうち2本が液モレしてしまっていたとしたら、そちらから先に飲んでいくといった感覚でしょう。

逆に言うと、噴いた状況を確認できない場合、すなわち店頭で液モレしたワインを見かけた場合などは、やはり避けた方が無難でしょう。若いビンテージのワインが、大幅に安くなっているのであれば、チャレンジするという選択肢もないわけではありませんが、その場合、同じアウトレット品といってもラベル破れなどとは性質が異なるということは理解しておいたほうがよいと思います。

我が家のセラーには、USのオークションで激安価格で落札した「液モレ品」のDRCがあります。ワイン会の余興にでもと思ってギャンブル感覚で落札したのですが、一応「スタッフが同ロットを試飲したら問題なかった。」という注釈はついていました。飲む機会のないまま10年以上経過してしまい、目に見えて液面が低くなってしまいましたが、開ける機会があれば、コラムで結果を報告したいと思います。


液体より気体のほうがはるかに膨張率が大きいですから、横に寝かせたワインが温度変化に晒されれば、気体の膨張の圧力で液体がさらに染み出す→入れ替わり空気が入ってくることによってさらにボトル内の気体容積が大きくなる→温度変化でさらに液量が減る という悪循環を繰り返すことになります。でもって、ボトル内の空気が増えればその分酸素も増えるので、酸化がどんどん進む、ということですね。





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Last updated  2016年02月01日 09時38分54秒
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shuz@ Re[1]:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) うまいーちさんへ お久しぶりです。コメ…
うまいーち @ Re:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) コロナですか。お大事に。 私もなりました…
shuz1127 @ Re[1]:【竹橋ランチ】マンマ・ミーヤ再び(娼婦風)(02/09) maki5417さんへ コメントありがとうござ…
maki5417 @ Re:【竹橋ランチ】マンマ・ミーヤ再び(娼婦風)(02/09) スパゲッティーは、材料費が安くお店にと…
shuz1127 @ Re[1]:【悲報】東京アスリート食堂ランチ値上げ(02/08) Henryさんへ なんと、そうだったんですか…
Henry@ Re:【悲報】東京アスリート食堂ランチ値上げ(02/08) アスリート食堂は、昨年8月に親会社(バル…
shuz@ Re[1]:2024年あけましておめでとうございます(01/01) Sugar7さんへ 本年もよろしくお願いしま…
成山裕治@ Re[1]:柴又帝釈天~その2(12/30) ダイアパレスさんへ

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