話飲徒然草(S's Wine)

話飲徒然草(S's Wine)

2016年02月02日
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それはボトルを「不必要に動かさない」「移動させたり運搬したときにはその分休ませる」ということです。あまり動かしてはいけない理由は、「ブラブラと揺すって運搬すると澱が舞うから」とか「移動や運搬に伴って、熱や光を浴びるリスクが高まるから」という次元の話だけでなく、もっとミクロなレベルで、液体の組成への影響があるのだろうと想像しています。
よくワインが「暴れた状態」「荒れた状態」という言い方をしますが、まさにこのことでしょう。そしてその状態から回復するためにはある程度時間が必要で、場合によっては、完全に回復しえないリスクにもなるのだろうと。証明するようなデータが手元にあるわけではないので、どこまでも経験論でしかありません。しかし、このことについては多くの先達の方や愛好家の方にも同意していただけるはずです。

 たとえば自社セラーに入れたときから出庫するまでの間、ワインを全く動かさないといわれるオランダの酒商「マーラベッセ」。ここが提供する古酒のすばらしさは筆舌につくしがたいものがあります。身の回りでも、たまたま忘れ去られたように暗所に数年放置されていたボトルをダメかと思って開けたら、目を見張るような香味を見せてくれたという経験があるのは私だけではないでしょう。
また、熟成したボトルを何本か購入した場合、購入後すぐに開けたものと数ヶ月後に開けたものとでは、明らかに香味が変わってきます。レストランなどにワインを持ち込む際、当日持参するより数日前(できれば1週間前)に持ち込んで休ませておいたほうがよいというのも、ワインを少しでも「暴れた状態」から回復させるためです。

 その一方で、ネットショップ隆盛の昨今、数百キロ離れたワインショップから通販で購入することは日常茶飯事です。我が家の場合、レンタルセラーとの往復も避けられないイベントだったりします。旅をさせたワインはどのぐらい休ませればいいのでしょうか?
ワインを飲み始めたころ、ある先達の方に「移動に要した日数×週の分休ませるとよい」と教えられました。たとえば、欧州のショップで買って飛行機で持ち帰ると、3~4日は動かしていることになりますから、約3~4週間。国内通販で購入したものなら、出荷日と到着日とで2週間程度。ここまではフムフムと皮膚感覚で理解できますが、では船便で到着したてのボトルは約30~40日×週、すなわち半年から1年近く休ませなければならないのかというと、ちょっと現実的でない気もします。
この「移動日数×週」説、ネットで検索してもそれらしき記述が見当たらないところをみると、単に誰かが思いつきで言ったことがひとり歩きした都市伝説の類かもしれません。
とはいえ、この俗説を愚直に守ったおかげで、我が家では比較的ワインをきちんと休ませる習慣がつきました。要は「旅をさせたら、その負荷の度合いに応じて十分休ませてやるべきだ」ということでしょう。

1.素性のきちんとした健全なボトルを入手すること。
2.光が直接当たらない暗所に安置して、なるべく動かさないこと。
3.急激な温度変化のない、年平均20度以下ぐらいの温度をキープすること

以上の3つに集約されます。それ以外にも無視できない要素はありますが(たとえば湿度など)、数年程度のスパンであれば、それほど神経質にならなくてよいと考えています。
 もっともこれが10年~20年の熟成を経た古酒の領域となると、ごく微細な欠陥が大きなキズとなって顕在化することもありますし、冷蔵庫型のセラーの耐久性とか、コルクの寿命とかといった別の問題も浮上してきます。ワインの飲み頃や古酒などのテーマについては、また場を改めて書きたいと思います。


***********************

YOLでは、5回にわたってワインのコンディションに関するテーマを書いてきました。

ワインの状態管理については、非科学的なものや都市伝説的なものなども含めて有象無象の説がありますが、私は最近、この問題については、極力シンプルにとらえるようにしています。

すなわち、熱や温度変化などの「酸化促進」要因があって、それに対する「予防」(セラーでの定温管理など)と、ワインそのものが持つ「抗酸化作用」(SO2やワインに含まれるフェノール成分)。
これらが効いているうちは、ワインは痛まないけれども、効かなくなるとダメージとなって現れると。

特にSO2については、ワインの劣化を語る上で、とても大きなファクターだと考えています。



一方で、瓶内のSO2は徐々に液体内、ヘッドスペース内、それにコルクに含まれた酸素と結合して減っていき、最後には無くなってしまう(厳密には別の形に姿を変える)。そうなると、ノーガードで酸素と向き合うことになり、悪コンディションの元では酸化が急激に進むことになる。

#ちなみに、ワインに含まれるフェノール成分にはSO2に劣らず酸素と結合しやすいものもあるとのことで、SO2さえ添加していれば、影響を皆無に抑えられるという話でははありません。

愛好家にとっては、なにをいまさらということですが、これによって納得できる事象がいろいろあります。
~50年代60年代のボトルが非常に長く保つといわれるのは、作りそのものよりもSO2が今よりも大量に投入されていたからではないか。

~リリース直後に購入して手元で大事に熟成させたボトルが綺麗に熟成する(場合が多い)のは、SO2のバリアがまだ効いている時期に流通を経たため、ダメージが相対的に少ないからではないか。



~SO2無添加のナチュラルワインがコンディションに対して繊細なのも同様の理由。

~白ワインのPreMatureOxidationも(すべてでないにせよ)SO2の添加量を減らしたことが大きな要因では。

などなど。

SO2はあくまで人体にとっては毒物であること、添加無添加で香味にも違いが出る(総じてSO2を添加することで味わいが「固く」なる)ことなどを思えば、昨今のSO2無添加ワインや添加量を減らす潮流を否定するものではありませんが、夏場の気温が軽く30度を超え、赤道を半周して輸入されるわが国においては、SO2によるリスク低減への期待は、欧米のそれよりも高いように思っています。





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Last updated  2016年02月07日 20時59分23秒 コメント(2) | コメントを書く
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shuz@ Re[1]:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) うまいーちさんへ お久しぶりです。コメ…
うまいーち @ Re:今になって新型コロナ感染(8日目)1週間ぶり出社(04/25) コロナですか。お大事に。 私もなりました…
shuz1127 @ Re[1]:【竹橋ランチ】マンマ・ミーヤ再び(娼婦風)(02/09) maki5417さんへ コメントありがとうござ…
maki5417 @ Re:【竹橋ランチ】マンマ・ミーヤ再び(娼婦風)(02/09) スパゲッティーは、材料費が安くお店にと…
shuz1127 @ Re[1]:【悲報】東京アスリート食堂ランチ値上げ(02/08) Henryさんへ なんと、そうだったんですか…
Henry@ Re:【悲報】東京アスリート食堂ランチ値上げ(02/08) アスリート食堂は、昨年8月に親会社(バル…
shuz@ Re[1]:2024年あけましておめでとうございます(01/01) Sugar7さんへ 本年もよろしくお願いしま…
成山裕治@ Re[1]:柴又帝釈天~その2(12/30) ダイアパレスさんへ

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