2016年11月21日
XML
カテゴリ: 老犬ホスピス
2015年7月17日…

瀕死の状態の老犬が、4番の檻に収容されていた。



誰もこの子の檻の前で、足を止めようとしない。

みんな横目でちらっと見て素通りしていく。

まるで、この子が存在していないかのように…


「ねぇ、この子が見えてないと?
この子は空気じゃないよ!

生きてるよ!

存在してるんだよ?

ホラ、見て!見て!」

職員さんの許可を得て、この子の檻の中に入り、

この仔を抱え上げた。



でも、みんな目を背ける。



誰も見てくれない・・・



生きてるのに…生きてるのに…




人馴れしている若い純血種の子は、

嬉しそうに通路を走り回り足元にじゃれている。

この若い純血種を希望しているのは、何組も来てた。

いいえ、正確に言うと、

瀕死の老犬を見ても無言で通り過ぎた見学者は、

この人で何組目だろう・・・

同じ「いぬ」なのに、同じ「いぬ」として生まれて来たのに、

・・・なぜ?



悔しくて悔しくて涙が流れた。

それは、この老犬の感情の涙でもありました。

「あんたまだ生きれるよね?生きようや!

だって、悔しいやん!


俺は生きてるぞーって、一緒に声を上げて行こうや!」


20150721i.jpg

抱え上げて立たせようとしたけど、

前脚に全く力が入らない。

もう立ち上がる力も残っていないのでしょう…

痩せてくぼんだ両目は、目ヤニのかたまりで蓋をされていた。

一体いつからこの仔は目が見えないまま放浪していたのでしょうか…

目ヤニを取ると、キョロキョロと周囲を見渡していました。

20150721d.jpg

皮膚はボロボロに毛が抜け落ち、僅かに残ってた毛には、

ノミとマダニが大量にはりついていた。

搔く力もないこの仔には、地獄のような日々だったと思います。

このままだと保護期間中に死んでしまうと、

直ぐにレスキューした。

このまま看取るつもりだった・・・



ですが、その翌日には、

自分の足で立ち上がり、歩けるまでに回復したのです。



「オレは生きてるぞ!」

フラフラと、ヨタヨタと、懸命に歩く姿は、

とてもカッコ良すぎて、体が震えた。



この仔は、「生きる希望」をみつけました。

だから、立ち上がり、歩けたんです。



2015年8月、

保護家「老犬ホスピス棟」入居犬・チャージ




栄養不足と、悪環境で抜けていた毛は、

少しずつ生えそろい、

ごはんも沢山食べれるようになり、ぷくぷくと太っていった。



典型的な日本犬で、嫌な事は嫌だと、

怒って自己主張するチャージ。



抱えようとすると、いつも「や・め・ろって!」

咬もうとしてきた。

ごめんごめんと、こっち側も必死に避けながらのお世話だった。



新しい入居犬には、いつも優しかった。

特に女の子には(笑)



私とチャージは、管理所での悔しさをずっと忘れられなかった。

いいえ、あの悔しさを経験したからこそ、

保護犬と保護主の関係を超えて、

「有志」として、お互いを見ていたような気がする。

ですが・・・

やはり・・・

チャージはおじいちゃん。



2016年10月・・・

チャージの老化は急激に進んでいった。




自分の足で立つ事が出来ない…

「出来ない事」が、ひとつひとつ増えていった。



ご飯もどんどん食べれなくなり、

どんどんやせ細っていった。



「チャージ、あんたは何を求めていると?」

そんな中、私は、勉強のための出張で

三日間も、保護家を留守にしなければいけない時期がきた。



チャージを置いてまでも行く学びってあるのだろうか…

そう思い、ギリギリになって出張のキャンセルを入れようとしたときに、

「私がチャージを自宅に連れて帰ります。

由美さんは、由美さんにしか出来ない事をして下さい!

チャージも、自分のためにキャンセルするなんて知ったら

逆に悲しむと思います」


そう言ってくれたのが、スタッフ達でした。



チャージは、私には決してわがままを言わない仔なのに、

スタッフのトリゴエさん にだけは、

穏やかな視線を向け、わがままも言いたい放題でした。

人間も時に、弱っているときには子供みたいに甘えたい事があります。

犬もそれと同じなんだと感じました。

私は、チャージにとって甘えられない存在だったのです。

看護師でいうと、私は婦長であり、

原因と結果をすぐにみつけて対処できる人。

スタッフのトリゴエさんは、優しくて若くて可愛い看護師さんなんです。

時に、「どうしたの?どうしたの?大丈夫?」と、

一緒になって困って欲しかったのです。

困らせてみたいのです。

子犬のように甘えてみたいのです。



私では役不足だったようで・・・

少し淋しいけど、そんなわがままの言える人と出逢えて、

チャージは幸せなんだと感じました。





2016年11月9日、

この日は、私の有志 「ペットショップるんるん」岡オーナー が、

ボランティアで手伝いに来てくれました。

「なんこれ~!神や!神が2人や!すげー!神が神と寄り添ってるよ~」

一緒に寝ている猫は、「わたげ」。

上半身麻痺で、片目がありません。

そんなわたげを、岡さんは「神の域に達してる仔」だと、

いつも言っていました。

正直、チャージは、ガリガリにやせ細り、

元気だったころの面影はありません。

あまりの姿に、可哀想だと涙する人や、

触るのを怖がる人もいる中、

岡ちゃんは、「神」と…チャージが素晴らしい子だと、

懸命に生きようとしている立派な姿だと、

そう言ってくれた。

何度も何度も繰り返し繰り返し・・・






そして・・・



15時30分、

チャージは、「神」という名称を持って、

本当の「神」になりました。




私が買い物に出たわずかな時間の中、

チャージは、お別れも告げずに逝ってしまいました。

そして、チャージが唯一甘えてたトリゴエさんが、

ニッシーの介護をしている隙に…

たった一人で…



私は、亡骸となったチャージを叱った。

「なんで、一人で逝ったとねー!

なんで、私が居ない隙に逝くとね!

なんで、トリゴエーって呼ばんかったの!

こんバカが!バカやわ!」


私が大声で泣けたのは、この時だけでした。

直ぐに我に返った。

チャージが大好きだったトリゴエさんとの絆を残したいと…

それが、私の役目だと…

自分の感情に蓋をした。



「良かったね、チャージ!あんたの好きなトリゴエさんだよ」



岡ちゃんに、何度も何度もお礼を言った気がする。

「チャージを神と呼んでくれてありがとう。

チャージを神として逝かせてくれてありがとう」




管理所では、職員さん以外、

誰も目にとめてくれなかったチャージだったから…

立派な最期を…と、願っていたから。

この日初めて「神」と呼ばれ、誇り高い最期でした。



岡ちゃんは、こうも言ってくれました。

「チャージは、一人で逝ったんじゃないよ。

神のわたげが看取ってくれてたじゃん。

苦しまずに眠るように逝った表情、姿じゃん。

これがチャージらしい自分で選んだ最期だよね」




チャージは、私の有志でした。

最初から最期まで・・・



今度は、大切にしてくれる飼主さんと出会い、

苦労なんて一度もないような、

産まれ方、生き方をしなさいね。

今度は、母ちゃんと携わるような犬生にならんようにね。

もうね、

これで本当の本当のお別れだからね。



母ちゃんの感情の蓋は・・・

今も閉じたままだ。

蓋を開ける鍵を、チャージが持って行ったのかな…

と、不思議でたまらない。


にほんブログ村 犬ブログ 犬 ボランティアへ





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2016年11月21日 16時10分14秒
[老犬ホスピス] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: