偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2013.01.08
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カテゴリ: 銀輪万葉

承前

  大津京シンボル緑地にある歌碑は次の通りである。

大津京シンボル緑地歌碑 (7)・天智天皇歌碑 (天智天皇歌碑)

秋の田の かりほのいほの 苫を荒み わが衣手は 露に濡れつゝ
                (天智天皇 古今六帖2 小倉百人一首1)

  この歌は、万葉集の作者不詳歌「 秋田刈る 刈廬 ( かりほ ) を作りわがをれば衣手寒く露ぞ置きにける

  次は額田王の歌碑。

大津京シンボル緑地歌碑 (5)・額田王歌碑 (額田王歌碑)

君待つと わが恋ひ居れば わが宿の
           すだれ動かし 秋の風吹く
                    (額田王 万葉集巻4-488)

  この歌は、額田王が天智天皇を「思ひて作れる」歌と万葉集の題詞にありますから、天智天皇の上の歌碑の隣にあるのも亦「よし」でありますかな。大津京駅前で天武天皇と恋の歌をやり取りした額田王、1km離れた近江神宮前では、天智天皇に心を寄せて居りますか(笑)。
  (注)題詞の「近江天皇を思ひて」の近江は後年に紛れ込んだもので、元は「天皇を
     思ひて」であり、この天皇は、天智ではなく天武だという説もあります。

自転車で 5分走らば 気の変る
          女心は いかにとやせん (変田王)
世の中に 変らぬものの 何やある
          つねはかたかり をのこもしかり (変家持)

  次は藤原鎌足の歌碑。

大津京シンボル緑地歌碑 (2)・鎌足歌碑 (藤原鎌足歌碑)

者毛也 安見児得有 皆人乃 得難尓為云 安見児衣多利
吾はもや 安見児得たり 皆人の 得かてにすとふ 安見児得たり
                        (藤原鎌足 万葉集巻2-95)

  まあ、何という無邪気な喜びようでしょう。
  天皇に仕える采女という身分の女性にチョッカイを出すことは禁じられている。その采女の一人であるヤスミコちゃんを天智天皇から賜った、というので手放しで喜んでいる歌であります。
  しかし、いいオッサンで且つシタタカな内大臣鎌足のこと、これも額面通りに受け取るべきではないでしょう。このように喜んで見せて、天皇のご機嫌を取り、同時に他者に対して天皇との強い絆を見せつけ牽制するという計算も働いての歌かも。これも亦宴会での戯れ歌であると考えるのがしっくり来るようですな。

  次は、柿本人麻呂の歌碑。これも有名な歌。

大津京シンボル緑地歌碑 (4)・人麻呂歌碑 (人麻呂歌碑)

近江の海 夕浪千鳥 汝が鳴けば 心もしのに 古思ほゆ
                  (柿本人麻呂 万葉集巻3-266)

  「心もしのに」は「心乱れて」という解釈もあるようですが、ここは「心しおれて」と解釈する方が歌の雰囲気とマッチするでしょう。「琵琶湖の夕波のうえに鳴き騒ぐ千鳥よ。お前が鳴くと、私は心もしおれて昔のことが思われるよ」と人麻呂さんは詠っていますが、時刻は未だ朝、此処からは琵琶湖も見えない、ということで、歌碑の立地条件も立ち寄った時間環境も残念ながらミスマッチでありました(笑)。

  次は、ぐんと時代が下がって、平安末期の平忠度の歌碑。

大津京シンボル緑地歌碑・平忠度歌碑 (平忠度歌碑)

さざ浪や 志賀のみやこは あれにしを
         むかしながらの 山ざくらかな (平忠度 千載集)

 平忠度 (     たひらのただのり ) は伊勢平氏平忠盛の六男。清盛から見れば一番下の弟ということになる。熊野育ちで体格もよく身のこなしも俊敏、和歌も得意という文武に秀でた人物であったようだ。
  咋年の大河ドラマでは、ヒゲもじゃで剽軽な人物で登場して居りましたが、反平家の藤原基房・兼実らとの歌の掛け合いでは次々と見事な歌を返して、清盛ほか平氏一門の体面を守るというか、面目を施すという場面がありましたが、その忠度の歌碑であります。
  この後行くことになっている長等公園にも以前から平忠度のこの歌の碑があるのだが、ひと足早く此処で対面してしまいました。
  唱歌「青葉の笛」の1番の歌詞は平敦盛のことを歌ったものだが、2番の歌詞「更くる夜半に
( かど ) ( たた ) き わが師に託せし言の葉あわれ いまわの ( きは ) まで持ちし ( えびら ) に 残れるは『花や今宵』のうた」は、この忠度のことを歌ったものである。
  藤原俊成を歌の師としていたのでもありますれば、偐定家をも名乗ることある偐家持、彼には親近感を抱かざるを得ない(笑)。歌詞にもある通り、平家都落ちの際に師の俊成を訪ね、自作の和歌集を託し、俊成が編纂中であった千載集に1首だけでも自分の歌を採用して欲しいとお願いするのでありますな。で、俊成が千載集に採用した1首が、この歌であったという次第。
  この歌の本歌は高市黒人の「 さざ浪の国つみ神のうらさびて荒れたる京見れば悲しも 」(万葉集巻1-33)とされるが、人麻呂の近江荒都歌をも踏まえたものであろう。滅んで行こうとする平家と壬申の乱で敗れ去った近江朝廷側とを重ねてみると、哀れさもひとしお。俊成もそんな思いでこの歌を撰んだのであるか。

近江神宮・鳥居 (近江神宮)

  近江神宮境内には、天智天皇の「秋の田」の歌碑のほか、上述の高市黒人の歌碑や「夕浪千鳥」の人麻呂の歌碑もあるのだが、過去に紹介済みなので、今回は立ち寄らず、鳥居前を通過、神宮道を下り、柳が崎湖畔公園へと向かう。
  <参考> 百穴古墳群から近江神宮・弘文天皇陵へ 2012.1.27.

  広い神宮道をひたすら湖畔に向かって下ると、国道161号線に出る。柳が崎交差点である。傍らにこのような道標がありました。

神宮道・道標
(神宮道の道標)

  国道161号線を渡り直進。直ぐに湖畔緑地公園入口である。
  しかし、そろそろ字数制限です。続きは次回です。( つづく






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最終更新日  2015.03.02 23:23:42
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