偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2018.11.23
XML
カテゴリ: 言葉遊び
​​​​ ​  ざなみ。
 漢字では、漣、細波、小波などと書く。
 ささら波、さざれ波というのが古い形で、これが「さざ波」に変化したのだろうか。いや、そうではなくて、そもそも「ささ」は、「ささいな」という言葉があるように、「とても小さなこと」、「ほんのわずかなこと」、「とるに足りないこと」などを意味するから、「ささ」と「波」がくっついて「さざ波」というだけのことなんでしょう。
 「ささら」や「さざれ」は、「ささ」に、親愛の気持ちを込めてものを呼ぶ場合に付ける接尾語「ら」や「ろ」などがくっついたもの、「ささ」の派生語と見るべきなんでしょう。
 意味は、
  1.水面に一面にできるこまかい波
  2.小さな心のゆれや争いごと
  3.琵琶湖南西部沿岸の古地名 とあるが、ここでは勿論、1.の意味の「さざ波」のことである。​

(さざなみ)
 波というのは、或る場所で起こった変動が、次々に他の場所に伝わる現象のことである。波を伝えるものを媒質というから、上のそれは水を媒質とした波ということになるが、もう少し正確に述べると以下のようになるか。
 水を媒質として、毎秒1m以上5m以下の弱い風(1m以下だと波は生じない)によって起こされた表面の変動(乱れ)を、元の状態にもどろうとする力・表面張力によって引き起こされる水の表面の動き・運動のこと。このように表面張力が主たる復元力となって生じるものを表面張力波と言うのに対して、重力が主たる復元力となって生じるものを重力波と言うらしいが、この辺まで来ると段々理解が怪しくなって来る。こういうのを、寄る「年波」と言う。
 要は、さざ波は風のエネルギーが水の運動エネルギーに変換される過程で生じる現象である。「要は」とか「つまるところは」とか言い出すと、それは曖昧な理解を曖昧なままに他の表現に置き換えて「理解した」気になるという「年波現象」であるから、要注意なのである(笑)。​

(同上)
 波を見て、それはどのようなメカニズムで起きているのかなどと考えていては、歌や詩は生まれない。それはそれとして在るがままに受け止め、それに対して自分は何を感じるのか、何を思うのか、何を連想するのか、などという、言わば「あらぬ方向」に向かうことが、詩歌の方向、文学的方向ということになるが、偐万葉は所詮言葉遊び、年波や人波や流行の波や秋波などの派生語や片男波とかさざなみの大津などという万葉関連の言葉へと思いが向かうのである。
 更に、波のつく国名には、ペルシア(波斯)、ポーランド(波蘭)がある。ペルシアの「波斯」はひっくり返すと「斯波」。室町時代の守護大名・斯波義将の「斯波」であるなどとあらぬ方向へ脱線するのも偐万葉の得意技である。しかし、あらぬ方向もここまで来ると、支離滅裂である。
 偐万葉であるから、無難なところで、上記3.の意味である「さざなみの大津」に向かうことといたしましょう。
 万葉歌人、高市黒人が「近江の旧き都を感傷して作れる歌」として、次のような歌がある。

( いにしへ ) の人に我あれや 楽浪 ( ささなみ ) ( ふる ) ( みやこ ) を見れば悲しき (高市黒人 巻 1-32

(私はいにしえの人なんだろうか。さざなみの古い都の跡を見ると悲しい。)

楽浪 ( ささなみ ) の国つ 御神 ( みかみ ) のうらさびて荒れたる ( みやこ ) ​見れば​悲しも(同 巻 1-33

(さざなみの土地の神様の威勢が衰えて、すっかり荒れてしまった都を見ると悲しい。)

​​​
(高市黒人歌碑 2017.1.27.記事掲載写真の再掲)
<参考>​ 百穴古墳群から近江神宮・弘文天皇陵へ  2012.1.27. ​​

 また、「 玉だすき 畝火の山の 橿原の・・ 」で始まる、巻1-29の柿本人麻呂の「近江荒都歌」にも「 ・・石走る 淡海の国の さざなみの 大津の宮に・・ 」というのがあるが、上述の通り、「さざなみ」というのは、琵琶湖南西部沿岸の地の古名である。
 現在も、瀬田の唐橋東詰から近江八幡にかけての、琵琶湖東岸の道、滋賀県道559号線近江八幡大津線の愛称として「さざなみ街道」が使われてい
る。自転車専用道も並走していて、銀輪散歩には最適な道の一つでもある。

(近江荒都歌・歌碑 2013.1.7.記事掲載写真の再掲)
<参考>​ 大津歌碑散歩(その1) ​ 2013.1.7.

 上記の人麻呂の長歌は、上の歌碑かその写真掲載の参考記事でお読みいただくとして、その反歌2首を下に記して置きます。

( ささなみ ) の志賀の 唐崎 ( からさき ) ​幸​ ( さき ) くあれど大宮人の船待ちかねつ(柿本人麻呂 巻 1-30

(ささなみの志賀の唐崎は、今も無事で変りはないが、昔の大宮人の船をひたすら待ちかねている。)

楽浪 ( ささなみ ) の志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも (同 巻 1-31

(さざなみの志賀の入江は今はこのように淀んでしまっているが、昔の人にまた逢えるのだろうか。)
 「さざなみの大津」については、上述の通り「さざなみ」は地名だとして、さざなみの地の大津だとする解釈がある一方、「さざなみの」は大津にかかる枕詞だとする解釈もある。
 枕詞としての「さざなみの」は、大津、志賀、比良、近江などにかかるほか、波には文
(あや) ​があるから「あやし」に、また、波は寄るから「寄る」「夜」にもかかる、とまあ、これも言葉遊びの類ではある。
 言葉というものを情報伝達の手段とのみみなすならば、結論を先ず述べてその理由や背景事情は結論の後に述べた方が相手には明確に意味・意思が伝わるから、枕詞などというものはそもそも不必要である。
 落語でも「枕」があるように、いきなり本題に入るのは「不粋」というのが日本の文化。手紙でも、時候の挨拶などというのがあるのと同様である。用件を伝達するということであるならば、前置きの文章などは、もって回った言い方になるので、実用的とは言えない。まあ、そもそも肯定文なのか否定文なのかは、最後まで聞いて「である。」か「ではない。」かでやっと分かるのが日本語。本来的に持って回った言い方になるのが日本語の特徴で、そのような言い回しが好まれるのは、我々の文化は、互いに相手の気持ちを察し合うことをよしとし、あからさまな言い方は野暮とする文化、ちょっと前までよく耳にした悪名高き「忖度」という言葉を敢えて使うなら「忖度文化」ということになるのでしょう。枕詞はそのような文化の産物でもあるか。
 枕詞も本来は、その地の神様を褒め、敬意を示すための呪術的な言葉であったのでしょうが、そのような宗教的な意義が希薄となり、文学的装飾となったものと言える。このような枕詞というものがある文化というのは、言葉は「飾り」、意は「言外に在り」ということで、言葉の「曖昧性」「多義性」を「そこはかとなき」雰囲気として楽しむという文化と言えるのかもしれない。
 法律用語や学術用語は、曖昧性・多義性があっては困る場合が多いので、一定の定義がなされた上で使用されることになる。Aさんの定義とBさんの定義が異なっていれば、同じ言葉を使ってもAさんとBさんとでそれが有する意味合いは違ったものとなり、異なった理解が生じることとなるからである。言葉は共通の定義の下で使われなくてはならない。
 我々の日常に於いては、言葉の定義のすり合わせなどはせず、会話なり議論をすることになるが、時としてこのような相互の言葉の持つ意味の幅や使い方に対する感覚のずれから誤解や反感が生まれたりもする。ネットなどよくは知らない者の間でのやりとりは、冗談が冗談でなくなったりもして「さざなみ」が立ったり、「さざなみ」では済まない「波風」が立ったりもするので、要注意ではあります。
 或は、意図してこのような言葉の持つ曖昧性・情緒性を奇貨として不特定多数に対し政治的な利用目的をもってする言動を煽動と言う。その最も卑しむべき形態がヘイトスピーチという奴。そして、その煽動に乗ることを盲動・盲従とも言います。
 言葉遊びであった筈の話が、何やら「不粋」な方に向かっているようなので、ここまでとします。こういうのを「風向きを読む」とも言います。
 さざ波の写真で無理矢理なしたるこじつけブログ記事でありました。
ささなみの写真二枚はよかれども ブログの記事にわれなしかねつ(偐家持)
ささなみのあやしき記事に淀みつつ 昔の記事の歌碑など出しつ(偐家持)

でありました。​​​​
​​
 言葉遊びついでに、先日作った戯れ歌も掲載して置きましょう。
 或る女流歌人の歌に「しらかみに」という言葉が使われていて、これを形容動詞か何かと理解した妻が、どういう意味かと尋ねて来た。
 しらかみに、なんぞという形容動詞は知らぬから、「?」であったが、その歌を見ると何のことはない、「白紙に」を「しらかみに」と言っているとしか思えなかったので「白紙に」だろうと回答した次第。白紙回答であったという訳であります(笑)。
 そこで、即興に作った歌がこれ。

しらかみはいかな意味かと 白紙 ( しらかみ ) に もの書くごと問ふ 白髪 ( しらかみ ) の妻 (白神家持)

 実際は染めていますので、白髪ではありませんが、この際、しらかみになって貰ったという次第(笑)。
 「黒髪の妻」とか「茶髪なる妻」とした方が、戯れ歌としてはより面白かったのかもしれませんが、この辺は感覚の問題ですな。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2018.11.23 20:10:55
コメント(6) | コメントを書く
[言葉遊び] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

けん家持

けん家持

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

コメント新着

けん家持 @ ビッグジョンさんへ  ご覧いただき感謝です。   >いつもの…
ビッグジョン@ Re:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) タイミングの難しい自然の変化の一瞬を目…
岬麻呂@ Re:柳沼2の写真について(11/20) けん家持さんへ フォト蔵で取り上げていた…
けん家持 @ 柳沼2の写真について 岬麻呂氏からの2024年11月22日付メールの…
岬麻呂@ Re[1]:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) MoMo太郎009さんへ 何時もコメント有…
岬麻呂@ Re[1]:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) ひろみちゃん8021さんへ 今年の紅葉巡りは…
MoMo太郎009 @ Re:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) 日本の秋、きれいですね。 インバウンドの…
ひろみちゃん8021 @ Re:岬麻呂旅便り334・南東北の紅葉(11/20) こんばんは(^^) 宮城県、福島県、山形県…
岬麻呂@ Re:岬麻呂さんへ(11/20) けん家持さんへ 掲載して下さるのに大変な…
けん家持@ 岬麻呂さんへ   >早速ご紹介くださいまして    有…

お気に入りブログ

安立スハル New! くまんパパさん

自転車もバイクも … New! 龍の森さん

北関東の旅 東海村(… New! MoMo太郎009さん

イタリア人医師が発… New! ☆もも☆どんぶらこ☆さん

楽歩会「哲学の道(… New! ビッグジョン7777さん

作楽神社 New! 龍水(TATSUMI)さん

ゾーン30プラス New! lavien10さん

ヒマを見つけて植木… New! ふろう閑人さん

隣地から侵入するエ… ひろみちゃん8021さん

「古寺巡礼」(和辻… 七詩さん


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: