偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2019.01.05
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カテゴリ: 万葉
​​​​​ 例年 通り、ヤカモチの正月は寝正月でありました。
 二日に、家族と枚岡神社、石切神社、瓢箪山稲荷神社と地元の三社を散歩がてらに歩いて回ったのを別にすれば、概ね「寝正月」という次第。​

(枚岡公園から大阪平野を望む)


(同上)
 若草読書会の新年会が来月・2月3日(日)にある。新年会は、いつの頃よりか、ヤカモチが万葉関連の話をすることになっている。
 いつもは、早めにテーマを決めて、歌に関連した土地を訪ねて「取材」まがいのこともするのであるが、今回はなかなかテーマが思いつかず、年末ぎりぎりになって「万葉集から聞こえて来る音100選」と決めました。万葉集から「音」を感じる歌を100首選び出して資料を作成し、当日は、その中から適当に任意の歌何首かを鑑賞しようという趣向。
 このテーマだと「現地取材」も必要なかろうという次第(笑)。
 そんなこともあって、家でゴロゴロしつつ、万葉集から100首を選び終えましたが、その中にこんな1首もありました。

( こも ) りのみ居ればいぶせみ慰むと出で立ち聞けば来鳴くひぐらし
                          (大伴家持 巻8-1479

(屋内に引きこもってばかりいると鬱陶しいので、気を晴らそうと外に出て立って聞いていると、来て鳴くヒグラシの声よ。)


 この歌に追和して歌を作れば、こうなるか。
こもりのみ居ればブログのネタもなし銀輪駆けて出で立つべしや(蜆家持)
こもりのみ居ればいぶせみ出で立ちて呼子鳥鳴く声をし聞かむ(鳥家持)

 ネタが無いのもネタのうち、ということで、呼子鳥に「かこつけて」記事をし書かむ、という次第。
 万葉集に登場する呼子鳥の歌と言えば、この歌が先ず思い起こされる。

大和には鳴きてか ( ) らむ 呼子鳥 ( よぶこどり ) ( きさ ) の中山呼びぞ越ゆなる
                    (高市黒人 万葉集巻 1-70

(大和で鳴いてから来たのだろうか。呼子鳥が象の中山を鳴きながら飛び越えて行くのが聞こえる。)

 呼子鳥については一般的にはカッコウのことと解されているが、ツツドリ説、ホトトギス説、ウグイス説などもあって未詳の鳥である。
 万葉の頃は、ホトトギスとカッコウの区別はなかったという説もあるから、余り真剣に議論しても始まらない気もする。まあ、今でもヤカモチなんぞはツツドリとカッコウの区別などはできないのであるから、人を呼ぶように鳴く鳥は全て呼子鳥でいいという立場であります(笑)。
 カッコウという鳥の名は「カクコフ(かく恋ふ)」と鳴く、その鳴き声に因んでの名らしい。
 ワンワンとかニャーとかチュンチュンとか動物の鳴き声の擬声語、サヤサヤとかザーザーとか風や雨など物の音の擬音語、ペコリ(頭を下げる)、ポッカリ(月が出る)、(肌が)スベスベなど物事の様子・状態を表す擬態語などを総称してオノマトペと言うが、カッコウはそのオノマトペであるという次第。牛をモー、犬をワンワン、猫をニャンニャンと言ったら、幼児ならいざ知らず、いい大人なら馬鹿にされるのであるが、カッコウについてはそういう心配はない。ミンミン蝉、ツクツクボウシなども同じである。
 これらオノマトペに意味を与えるのが「聞きなし」である。
 ホトトギスは「テッペンカケタカ」と鳴く、ウグイスは「法華経」と鳴くなどがそれであるが、カッコウの「かく恋ふ」はロマンチックでいい。
 万葉歌での「聞きなし」では烏のそれもある。

烏とふ大をそ鳥の 真実 ( まさで ) にも来まさぬ君をころくとそ鳴く (万葉集巻 14-3521

(烏という大馬鹿鳥が本当にはお出でにならない貴方であるのに「来る」と鳴く。)

 「ころく」は「児ろ来」、「自(ころ)来」または「此ろ来」である。
 古代の人は、鳥は自由に山を越えて飛んで行くことから、遠い空間を自由に行き来する存在ということで、恋しい妻や夫に思いを伝えてくれると考えていたようであり、また空間のみでなく時間をも飛び越え、過去や常世(死者の世界)へも自由に行き来するとも考えていたようです。ゾロアスター教などの鳥葬もそのような考え方があってのものであり、神武天皇を熊野から大和へと道案内したのも八咫烏という鳥でなければならなかったのでありました。

( いにしへ ) に恋ふらむ鳥は 霍公鳥 ( ほととぎす ) けだしや鳴きし ( ) ( ) へるごと
                     (額田王 万葉集巻 2-112

(昔のことを恋い慕っているであろう鳥はホトトギス。その鳥が鳴いたのでしょう、私が昔を恋いしく思っているように。)

 ホトトギスは原文では霍公鳥と書かれている。音読みすればカッコウドリである。万葉人はホトトギスもカッコウも区別しなかったという説に従えば、ここでのホトトギスは「かく恋ふ」(このように恋しく思っている)と鳴くカッコウのことであろう。テッペンカケタカ(てっぺん駆けたか)と鳴いたのでは、下記のように銀輪家持風になってしまって、締まらないことになる(笑)。

銀輪に恋ふらむ鳥はホトトギス けだしや鳴きし銀輪駆けたか (銀輪家持)

 そろそろ銀輪始動と参りますかな。
​​​​​​ (注)ホトトギスは、杜鵑、杜宇、蜀魂、不如帰、時鳥、子規、田鵑などとも ​表記す
   る。

​​​     ホトトギスの異称のうち「杜宇」「蜀魂」「不如帰」は、中国の故事や伝説​ ​に
   もと​
づく。長江流域に蜀という傾いた国(秦以前にあった古蜀
)があり、そこ
   に杜宇と
という男が現れ、農耕を指導して蜀を再興し帝王となり「望帝」と呼
   ばれた。

   後に、長江の氾濫を治めるのを得意とする男に帝位を譲り、望帝のほうは山中
   に隠
棲した。望帝杜宇は死ぬと、その霊魂はホトトギスに化身​
​​ し、農耕を始め
   る季節が
来るとそれを民に告げるため、杜宇の化身のホトトギスは鋭く鳴くよ
   うになったと
言う。また後に蜀が秦​​
​​によって滅ぼされてしまったことを知った
   杜宇の化身のホトト
ギスは嘆き悲しみ、「不如帰去」(帰り去くに如かず。=
   何よりも帰るのがいち
ばん)と鳴きながら血を吐いた、血を吐くまで鳴いた、
   などと言い、ホトトギスの
口の中が赤いのはそのためだ、と言われるようにな
   った。(​ ​​​​​​​​​​Wikipedia より)
​​
​​​
​​​​​​
​​
​​ ​​
<追記>
ホトトギスの「聞きなし」の例
下線部分
(近藤信義「万葉からの視線ー桓武天皇歌のホトトギスー」より、但し現代語訳はヤカモチによる。)

ほととぎす ( ) ( ) ( とよ ) ​​もす 卯の花のともにや ( ) と問はましものを(巻 8-1472
ホトトギスが来て鳴き声を響かせている。「ウノハナノトモニヤコシ(卯の花と一緒に来たのか)」と尋ねたいものだ。) ​​​​

( いとま ) なみ ( ) ​​ざりし君にほととぎす われかく ( ) と行きて告げこそ(巻 8-1498
(暇がないからとお出でにならない君に、ホトトギスさん、「ワレカクコフ(私はこんなに恋しく思っています)」と行って知らせておくれ。)

( ) ( くれ ) ​​の夕闇なるにほととぎす 何処 ( いづく ) を家 と鳴き渡るらむ(巻 10-1948
(木の下陰の夕闇なのに、ホトトギスは「イヅクヲイヘ(何処が<自分の>家か)」と鳴き続けている。) ​​

わが ( ころも ) 君に着せよ​ とほととぎすわれをうながす袖に ( ) ( ) つつ(巻 10-1961
(「ワガコロモキセヨ(私の衣を君に着せよ)」とホトトギスが私を催促して鳴きます。来て袖にとまりながら。)

春さればすがるなす野のほととぎす ほとほと 妹に逢はず来にけり(巻 10-1979
(春が来るとすがる蜂がブンブン翅音を立てる野のホトトギス、「ホトホト(ほとんど)」彼女に逢わずに帰って来るところだった。)

信濃なる須賀の荒野にほととぎす鳴く声聞けば 時すぎにけり (巻 14-3352
(信濃の須賀の荒野でホトトギスの鳴く声を聞くと、それは「トキスギニケリ(時が過ぎたなあ)」だった。)

橘は ( とこ ) ( はな ) にもがほととぎす 住む ( ) 鳴かば聞かぬ日なけむ(巻 17-3909
(橘がいつも咲いている花であればなあ。そうなら、ホトトギスが「スム(<此処に>住む)」と来て鳴くだろうから、毎日その声を聞かないという日はないのに。)






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最終更新日  2019.01.07 09:20:58
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