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県内の四十代の男性僧侶が九月、僧衣姿で車を運転したことを理由に、県警に交通違反切符を切られていたことが分かった。僧侶は日常的に僧衣で運転しており、「運転に支障をきたすような僧衣ではなかった」と反論している。
男性によると、九月十六日午前十時過ぎ、福井市内の県道を軽乗用車で走行中、警察官に止められ、「その着物はだめです」と告げられ、青切符を交付され、反則金六千円を納付するよう言われた。
男性は、福井市内の法事へ向かう途中で、布袍と呼ばれる簡素な僧衣を着ていた。普段から僧衣で車の運転をしており、これまで警察官に止められたこともなかった。男性は「黒衣のような長い袖ではなく、袖も裾も邪魔になるような服ではなかった」と訴えている。
県警交通指導課によると、適用されたのは、県道路交通法施行細則の「げた、スリッパその他運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物または衣服を着用して車両を運転しないこと」の部分。現場の警察官が、男性の着用していた僧衣は運転に支障があると判断したとみられる。
同課の担当者は「僧衣を着て運転することが違反ということではない。状況によって現場の警察官が危険だと判断した場合に限る」と説明。ここ数年、衣服などが原因の重大事故は起きていないものの、「事故を未然に防ぐためにも、たすき掛けやもんぺを着て、袖や裾を押さえるなどして、運転してほしい」と話した。
福井市内の住職(72)は「僧衣を着て運転することは僧侶であれば日常。今までも支障をきたしたことはない」と指摘し、「現場判断というあいまいなものではなく、しっかりとした基準が必要なのではないか」と首をかしげた。
男性は現在、反則金は払わず、督促にも応じていない。「支払ってしまうと、今後僧侶たちの活動が制限されかねない。運転には支障はないことを訴えたい」と話した。
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(引用ここまで)
最初にこのニュースを目にしたときに僕が思ったのは、「あ、草履がとがめられたんだな」ということです。安全運転義務違反の構成要件に「かかとが固定できない履き物での運転」というのを規定している都道府県は結構ありますし、僕が免許を取った際にも、確かそう教わった記憶があります。実際、とっさにペダルを踏み換える際に履き物がズレたり脱げたりしては危険ですから、この規定は妥当なものだと思います。もし福井県警に、サンダルや草履履きを取り締まった実績が過去にもあったとして、今回の案件が履き物で取り締まりを受けたのであれば「お坊さんの負け」です。
ただまぁ、いきなり青切符というのも考え物ですけどね。職業上の事情も考慮すれば、「草履はまずいので、次回から履き物だけは履き替えて下さい」で放免すべきだったと思います。その上で、当該宗教法人に対して「運転の際は履き物に気をつけて下さい」と指導するべきだったのではないでしょうか。
しかし、です。実際にとがめ立てられたのは、履き物では無く着衣であったということ。しかも担当課は「僧衣を着て運転することが違反ということではない。状況によって現場の警察官が危険だと判断した場合に限る」と説明しているそうで、そうなると、別の問題が生じます。
憲法第31条に抵触する可能性が出てくるんです。
憲法31条(適正手続きの保障)の条文自体は、
>何人も法律の定める手続きによらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。
という簡潔なものですが、実はこの裏には「罪刑法定主義」という重要な哲学があるんです。
詳しくお知りになりたいかたは「罪刑法定主義」で検索されればいろいろなサイトがヒットしますが、極めて大雑把に言えば「何をどうすれば法律に抵触するかということは、義務教育終了程度の知識で理解できるようにしておかなければならない」ということです。
でないと、警察の恣意的判断で、いかようにも取り締まりできることになってしまいます。
具体的に言えば、別件逮捕で身柄を拘束することが可能になる、ということです。
(まあ実際には、交通警察官のノルマ達成手段に使われる程度だとは思いますが)
実はこの件では、 過去に軽犯罪法(ナイフの所持)を巡って警察庁とやりあったことがある
ので、 そちらもご参照いただく
と理解が深まると思うのですが、それと同種の問題を、本件は含んでいるということです。
件の僧侶は反則金を払っていないし督促にも応じていないということですが、この後、建前上の手続きでは、警察からの出頭要請→違反を認めなければ書類送検→検察から出頭要請、ということになります。しかし、警察は草履履きではなく、明確な基準が示せない衣服を咎めているわけですから、送検されても「嫌疑不十分により不起訴」でうやむやにされる可能性は非常に高いです。
それでは切符を切られたお坊さんも納得いかないでしょう。青切符が切られていれば、不起訴でも行政処分(安全運転義務違反なら2点)は付いてしまいますから、ゴールド免許で任意保険の割引を受けていた人なら「実害あり」で、民事で争えます。
むしろいい機会ですから、ほかの仏教法人も結束して、行政に対して基準の明確化を求めたらいいんじゃないでしょうか。
袖の長さとか裾の幅とか……、って、ブラック校則かよ(^_^;)。