セミリアイア「晩年」日記

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2021.10.13
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カテゴリ: 仕事


採点も、作問も自分は非常に早い。珠算は、小学校の時に多分一ヶ月くらい習ったが、性に合わずやめた。だから得点計算は、筆算の暗算である。弓もそうだ。別に記録しなくても36射なら、覚えていられる。根っからの文系で、数学は苦手だと思い込んでいるが、ひょっとしたらそうでもないのかもしれない。大学入試では、4問中1問半答えれば合格というレベルの問題で3問半解いた。古文、漢文はほぼ0点だったから、英語と数学で受かったと思っている。

論述問題を一つ出題した。言語論の文章で、高校生には非常に難解なものだった。『猫は後悔するか』というタイトル。

結論は、「猫は後悔しない。人間だけが後悔する」である。なぜか。

我々は、世界を分節化して見ている。「パソコンが机の上にある」という現実の光景がある場合、「パソコン」「机」という対象と「~の上に~がある」という関係の3つに我々は世界を分けて見ている。ということは「机はパソコンの上にある」という仮想も可能なわけだ。分節化した要素を入れ替えればいい。さらに「彼のパソコンは机の下にあったはずだ」という具合に、眼前にない他の要素を付加し、入れ替えることも可能だ。こうした思考可能性の空間をウィトゲンシュタインは「論理空間」と呼んでいる。「論理空間は、言語による世界の分節化と厳密に同時に成立する」というのがその主要命題である。

まあ、以上が6ページほどの教科書文章の要約なのだが、これをきちんと理解して教えられる教師はあまりいないだろう。教科書の最終単元なので、おそらく割愛されるのだが、自分は面白いと思う文章は教えることにしている。この後は記号論、最後は漱石の『私の個人主義』だ。

さて、この文章を踏まえて次のような論述問題を出題した。

【和歌】

思ひつつ寝(ぬ)ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを

【問】上記の和歌において、「論理空間」はどのように成立してるか、問題文を踏まえて説明せよ。(14行)

14行だと、大体600字までは普通に書ける。字間を詰めれば1200字も可能だ。和歌は小野小町の有名な和歌で「あなたを思い続けて寝たので、昨夜の夢にあなたが現れたのでしょうか。もし、夢だと知っていたなら、覚めなかったのに」というほどの意味で、「反実仮想」の助動詞「まし」を教える時に、必ず例に引く歌だ。

面倒なので、解答例は省くが(気が向いたら別項で)、この問題に30点の配点を振っている。結果は平均点で20点程度。満点が2人だった。最低点で10点。つまり、全員が悪戦苦闘して何とか解答した。

もちろん、こんな国立難関大二次レベルの論述問題がいきなり出たら、ほとんどの生徒はお手上げである。事前に問題文、つまり教科書掲載文については十分理解させている。さらに、「今度、こういう問題出すからね。30点分あるから、事前に解答作ってみて。和歌の解釈は~~~だからね」という予告をしたからこそ、こういう結果になったのだ。

解答のポイントは「反実仮想」という語法は、英語の仮定法過去に相当し、どの言語にもある。事実に反する仮定、とは分節化した世界を入れ替えることで初めて成立する。実際は、小野小町は「すでに目が覚めてしまったから、夢の中のあなたは消え失せてしまった」というむなしい気持ちを抱いたのだろう。そこで、「もし夢の中で夢と知っていたら」という仮定を思わずにはいられなかった。「知っていたー知っていなかった」という反対概念を入れ替えることによって、反実仮想は成立する。人間がそう思いたくなるのは、取り返しのつかない「生」への根源的思い、つまり「後悔」の念を感じるからだ。

このポイントがどのくらい書けているかが、採点の基準であり、一読して20点、25点、30点と決めていく。15点は、かなりずれながらも辛うじて読み取れるというレベル。そこから、部分的な本文読解の誤りは-5点、日本語としての非文(文にならない)は-3点、誤字は-1点というように減点していく30名中2名が満点というのは、自分としては最高の評価に近い。よく頑張って理解したな、と褒めてやりたい。

この部分にほぼ45分の採点時間を要した。

まあ、ちゃんと仕事はしてるんです。





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最終更新日  2021.10.13 05:40:39
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