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2018.01.12
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カテゴリ: 探訪
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滝尾神社の拝所

この滝尾神社は 「月輪」 と称される地域に所在します。かつてはと言う方が良いのかもしれません。東福寺の西には月輪小学校があり、東北方向に月輪中学校もあり、学校の名称にもなっていました。しかし平成26年3月末に学校の統廃合でこの名称も消滅しました。 東福寺より泉涌寺におよぶ東山山麓一帯が「月輪」と呼ばれていたのです 。(もちろん現在も地元の人々は使用される言葉でしょうが、現在の地図上には殆ど見えません。)いまでは宮内庁が管理する 「月輪陵墓」 に「月輪」が残るくらいでしょうか。
平安時代には藤原忠平の法性寺殿をはじめ多くの貴紳が山荘を営む地域でした。九条兼実は関白を辞任(1196年)後にこの地に隠棲し、山荘を月輪殿と称したことで、世に月輪関白と称されたと言います。 (資料1)

前回に掲載した駒札に記されていますが、社伝によれば、瀧尾神社は東山の聾谷にあったとされます。その場所は定かでないのですが、一説に東大路五条の東方と考えられているようです。応仁の乱後に日吉坂に移されて、「多景社」と称していたそうです。日吉坂は三十三間堂の南より今熊野に通じる南北の坂道です。この坂道も今はJR東海道線で分断されています。天正14年(1586)豊臣秀吉が大仏殿建立を発願するにあたり、多景社もその影響を受け、現在地に移されたそうです。「聾の社」とも称されたとか。また、一説には三ノ橋の西北詰め(本町十七丁目)にあった武鵜社 (たけうのしゃ) を移したともいわれるそうです (資料1) 江戸時代、宝永年間(1704~1711)に現在の「瀧尾神社」に改称された と言います (駒札)

「江戸時代後期・天保10年(1839)から翌年にかけ、大丸の創業者である下村家により整備された」(駒札)といいます。「本殿は、貴船神社旧殿を移築したもの」 (駒札) 。下村家による当社崇敬は歴代にわたり社殿の造営・修理などへの寄進が行われたとか。 (資料1)

社殿の建物は、少し複雑な建物の構成になっています。
正面に唐破風の拝所 があります。本 殿の周囲は菱格子窓の透かし垣 が巡っています。唐破風の拝所に入母屋造の屋根の正面が連接しています。この 入母屋造の部分が幣殿 です。その幣殿と拝所の両屋根の上に重なる形で、 本殿の正面に向かって切妻造の屋根 がかけられています。本殿への正面通路部分の屋根になります。北野天満宮社殿や日光東照宮社殿の「石の間」(相の間)と称される区域と同様の機能を担っているのでしょうか。


                     西廊の透かし垣の菱格子越しに眺めた 本殿 です。

観音開きの扉も飾り金具が広く表面を覆い、扉を煌びやかにしています。扉の前には金幣が置かれ、扉の上部には円鏡が掲げてあります。

祭神は大国主命です。


                           同様に菱格子扉越しに撮った 本殿の正面
 本殿の階段に 奉幣猿 が控えています。




本殿前に木像の狛犬が配置されています。

本殿の西側面 東側面

                             こちらは拝 所前の獅子


切妻造屋根の破風と懸魚   拝殿がこちらの形式を踏襲しているのでしょう。



切妻と唐破風の屋根の獅子口には、拝所の前に置かれた提灯に赤色で描かれた神紋と同じ紋章が見られます。


それでは、唐破風の部分から眺めます。 (以下、資料3で名称等を参照)


中央の破風下の 兎毛通(懸魚)の部分には鳳凰 が彫刻されています。破風中央には飾り金具が貼付されています。打ち出された図柄の中央の紋章を何と称するのか不詳です。手許の資料にはこの紋章が見あたりません。課題が残りました。

その下の 東西の脇懸魚にはサンジャク(山鵲) が彫刻されています。この鳥は、ヒマラヤ、タイから中国に分布するそうです。

唐破風屋根の下、内側に目を転じます。

屋根の内側前面の彫刻からまず引きつけられます。

頭貫自体はシンプルな線彫りの意匠ですが、その上の蟇股は透かし彫りだけになっています。麒麟のようです。構造上でも装飾機能だけで問題ないのでしょう。
正面に向いた木鼻は金網で覆われていてよく見えません。


唐破風の虹梁の上の欄間には 松の木と鶴の透かし彫り が見えます。細やかな彫刻です。

内側からの眺め。表と裏の両面が上部は一体の全体像となり、蟇股部分は別の図柄の彫刻です。



拝所の奥側、本殿への扉の上部の欄間の彫刻がまたすごい。これが全体の景色です。


全体像はこんな感じで、欄間にはびっしりと透かし彫り彫刻が凝縮されています。



         上部の欄間には 龍が向き合う形で 彫られています。

下向きの象が中央の束の位置に丸彫りされています。



下部の欄間には、水鳥、蟹、草花が彫られています。

阿吽の獏の頭部 が取り付けてあります。想像上の動物です。

東西の木鼻には獅子 が彫られています。これは北向きですが、南向きの正面の木鼻が金網覆付です。

拝所の柱の斗の上にひょこっと乗っています。匠の遊び心でしょうか。これも邪鬼除け?

東の蟇股には海馬と波の透かし彫りです。海馬とは「セイウチの異名」(『日本語大辞典』講談社)だとか。
外側
内側
西の蟇股にはサイと波が彫られています。

拝所の装飾彫刻から、東西の透かし垣の菱格子窓の上部の欄間に目を移します。そこには十二支を始め松竹梅、桃、椿、小鳥、波、雲などが組み合わされていて、拝所の彫刻とともに、見応えがあります


東廊東面の欄間は牛、鼠、椿の透かし彫りです。

                                  東廊の角部分

東廊南面、つまり拝所の左側の欄間の一つには、波、兎、虎、笹が彫刻され、

東廊で、拝所に近い方の欄間には、龍、蛇、雲などが彫られています。


西廊の南面に回りますと、まず最初の欄間は羊、馬、松の透かし彫りです。


その続きの欄間には鶏、猿、桃の木、小鳥が彫られています。

西廊の西面には、犬、猪、梅の木の透かし彫りを見ることができます。

本殿や幣殿などにも様々な装飾彫刻が施されているようですが、残念ながら見えません。
社殿の外周部分だけでも実に見応えがある建物です。

これらの彫刻は、京都の彫刻師九山新太郎の作といいます (駒札)
江戸時代に京都在住で名を馳せた彫刻師の一人に、九山新之丞という人がいて、この人の子が新太郎です。 九山新之丞の出生、作品について現在では不明な点が多く幻の彫刻師だそうです。資料からの孫引きですが、九山新之丞については「江戸中期に書かれた建築技術書『禺私見記』の中の誓願寺厨子の彫物でその名を見る」とのことです。新之丞の作品について、京都では西本願寺の阿弥陀堂が宝暦年間(1751~1764)に再建された時に、彫物担当者の一人となっていて、向拝の木鼻の象は新之丞の作と確認されているそうです。子の 新太郎については、東本願寺の大師堂が明治13~22年に建立された折に、その彫刻の担当者の一人に加わり、向拝獏鼻・向拝蟇股・唐戸側蟇股・両妻獏の随所で活躍した 記録が残っているそうです。 (資料4)
しかし、私がネット検索で調べた範囲では、九山新太郎の事については不詳です。


地垂木や尾垂、上掲の画像に見る様に、各所木部の先端は飾り金具で覆われています。社殿を荘厳に飾るとともに、風雪に対する保護という機能も兼ねているのでしょう。
飾り金具はいせ屋市兵衛の作だそうです (資料3)

この本殿、拝所、透かし垣の社殿部だけでも、見られなかった部分や外観での見落としが在るようです。九山新太郎という彫刻師の作品群を眺めるだけでも、是非瀧尾神社をお訪ねください。一見の価値ありだと思います。

それでは、境内の探訪に参りましょう。

参照資料
1) 『昭和京都名所圖會 洛東-上』 竹村俊則著 駸々堂 
2)​ サンジャク ​ :ウィキペディア 
  ​ 山鵲(サンジャク) ​ :「コトバンク」
3) ​ 瀧尾神社(京都市東山区) ​ :「京都風光」
4) ​ 京都彫物師 : 九山新之丞の彫刻作品について ​  水野耕嗣氏 論文 岐阜高専紀要 第38号2003

補遺
大丸の歴史 ​  :「大丸」
  創業時代の経緯が年表に記されています。
海馬 ​  :「コトバンク」
セイウチ ​  :「おもしろ静物図鑑」
トド ​  :ウィキペディア
​   :ウィキペディア

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探訪 京都・洛東 瀧尾神社細見 -1 拝殿(天井の龍)へ
​​​​​​​​​​​​ スポット探訪 京都・洛東 瀧尾神社細見 -3 境内を巡る へ

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Last updated  2018.01.15 00:22:52 コメント(2) | コメントを書く


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