月夜茶会

月夜茶会

2010.07.31
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●桜井美奈子の日記より
「剣道部の助っ人?」
 羽山君の言葉に、思わずラーメンを食べる手を止めた。
 場所は明光学園近くのラーメン屋“来々軒”。
 建物はオンボロだけど、おいしいし安くてボリュームがあるから、生徒達には大人気のお店。
 私達も学校帰りによく寄る店。
「そうだ」
 水瀬君の前に座った羽山君が頷いた。
「……何だか、迷惑そうって顔だねぇ」

 何故か、羽山君は苦虫を噛み潰したような顔だ。
「いろいろあってな」
 そう言うと、羽山君は餃子を食べた。
 一口で餃子2つ平気で食べる羽山君の食欲は半端じゃない。
「でも、剣道部って一般人の人達用じゃないの?」
 水瀬君が訊ねた。
 そう。
 まず、剣道部って所から話がおかしい。
 羽山君は騎士だ。
 戦闘人種たる騎士と、一般人が肉体で勝負して勝てるはずがない。
 いくら剣道といえど、それに変わるところはない。

「っていうか」
 羽山君は、自分の皿が空になったと気づいて、水瀬君の餃子に箸をのばす。
「騎士部門だってあるんだぜ?」
 ラーメンを食べていた水瀬君は、その動きに気づいて、慌てて餃子の皿をかっさらおうとするけど、それより羽山君の箸の方が早かった。
 水瀬君のお皿の上から餃子が全て消えた。

「本当にヒドイ話だろう?」
「ぼ、僕の餃子!」
「また鈴紀がらみだ。迷惑だってお前だって思うだろう?」
 餃子が一気に羽山君の口の中に消えていった。
「ううっ……」
 水瀬君が半泣きの恨めしそうな顔でその光景を見つめている。
 気づいているのかどうなのか、羽山君はそのまま続けた。
「騎士だって―――というか、むしろ剣については騎士の方が重視されるべきスキルだ。だから、剣道部だって騎士向けのが存在する」
「……ウチにもあるの?」
 私がこっそり訊ねたのは、未亜だ。
「昔は強かったんだよ?」と、未亜は言った。
「全国最強って言われて、剣道部に入るためだけに全国から騎士が入学してきたってくらい」
「ふぅん?」
 でも、おかしいな。
 私、剣道部に騎士がいるってこと自体知らなかった。
 自校の生徒にも影が薄いなんて。
「モグモグ……まぁ」
 餃子を口に放り込んだ未亜は言った。
「そんな時代も数十年前のことだし、段々弱くなってね。今じゃ、普通科の生徒達がやってる方が主流になってさ。騎士科の生徒達でもよっぽど剣に興味がないと参加しない位で……」
 未亜は思い出したように言った。
「本当なら、今年の4月で廃部になるはずだったんだよ」
「……へぇ?」
 そんなに実績無いんだ。
「ところが、今の三年で女子が二人、ものすごく強いの入ってね。この二人が全国制覇。それで廃部は免れたんだけど」
「つまり、女子剣道部でしょ?」
 私は目の前に座る羽山君と秋篠君をまじまじと見た。
「……」
「―――何を想像しているんだ」
 それまで黙っていた秋篠君はあきれ顔で言った。
「騎士部門は男女一緒だからな」
「……そうなの?」
「というか」
 未亜は言った。
「ウチ、規模が小さいから、男子と女子分けていたら部が成り立たないんだよ」
「……ああ」
 私は思わず頷いた。
「それで助っ人ってわけだ」
「そういうこと」
 羽山君は、水瀬君にコップを渡すと頷いた。
「水瀬、水な?」
「……」
 無言でグラスを受け取った水瀬君は席を離れた。
「それで」
 私は水瀬君の残していたチャーシューを食べながら聞いた。
「鈴紀先輩絡みって?」
「さっき話をしたうちの一人、副部長が鈴紀の友達でさ」
 羽山君は憮然とした顔で、水瀬君のどんぶりに残っていたラーメンを自分のどんぶりに移した。
「―――で、鈴紀が俺に言ってきたって訳だ」
「それで、羽山君が秋篠君を誘った」
「……いや」
 秋篠君は首を横に振った。
「実は、俺の従兄弟が部活やっていてな」
「……ああ。そういうこと」
「大会に頭数が足りないっていうから、とにかく出てくれればいいって約束で」
「……正直」
 あーっ!?
 空になったどんぶりを前に呆然としている水瀬君を後目に、私達は会話を続ける。
「俺達男子部門はオマケだよ」
「オマケ?」
「ああ。期待されているのは男子じゃない。下手すれば」
 水瀬君の手から水の入ったグラスをもぎとった羽山君は言った。
「他の女子だって、みんなどうでもいいのかもな」
「……どういうこと?」
「警察の騎士警備部が、二人の採用を狙っているんだ」
 水瀬、いつまで立ってるんだ?
 声も挙げず号泣する水瀬君にそう言い放つ羽山君。
 ……ちょっとヒドいかな。
 チャーシュー食べちゃったのは私だけど。
「騎士警備部だけじゃないよ」
 未亜が言った。
「陸軍の騎士科も」
「すごいじゃない、その二人って将来約束されたようなものね」
「二人はいいさ」
 なんか―――これ、変に甘いな。
 羽山君は顔をしかめたまま、チビリチビリとグラスの水を飲んでいる。
「気の毒なのは他の連中」
「他の?」
「だってそうだろう?周りは就職はともかく、剣が好きでやってるんだ。それが仲間の引き立て役というか―――噛ませ犬みたいな扱いじゃ、面白くないだろう?」
「剣道部って……裏を返せばそんな感じなの?」
「羽山君の考えすぎだと思うけど」
 水瀬君は言った。
「二人が頑張ってるのは、後輩達に部費残してあげたいからだよ?」
「何でそんなこと知ってるんだ?」
「騎士警備部の採用担当してる人、知ってるから」
「お前が?」
「お父さんの愛人だから。スゴい美人さんでエラいんだから」
「そういうこと、はっきり言うなよ」
「羽山はそういう理由だろうが」
 おごりだ。
 秋篠君は別に頼んでいたジャスミン茶を手渡してくれながら言った。
 感謝!
「俺は別だ」
「従兄弟のため?」
「ああ」
 秋篠君が頷くと、未亜がニタニタと変な笑みを浮かべた。
「にゃあ……女の子狙いだもんねぇ……冬矢(とうや)君だっけ」
「え!?何それ!」
「桜井、ホントはゴシップ好きなんだな」
「コホン……とにかく」
「―――まぁ」
 秋篠君はカップから立ち上る香りを楽しみながら言った。
「明日、部活に顔を出すことになってるんだ。顔を出せば……おい、羽山?」
 秋篠君の横にいた羽山君が突然、お腹を押さえてうつむいた。
 青くなった顔から脂汗が流れている。
「ど、どうしたの?」
「ち、ちょっとトイレ」
 席を立った羽山君は小走りにトイレに向かう。
「―――さてと」
 何故か水瀬君が平然と席を立った。
「支払いは羽山君で、と」
 そのまま帰り支度を始める。
「おい?」
 秋篠君が止めた。
「お前、友達に何か起きたら」
「友達のラーメン食べるからだよ」
 水瀬君はニコリと笑いながら、ポケットから出した小瓶を小さく振った。
 強力!よく効く下剤。
 瓶に張られたラベルには、そう書かれていた。
「―――帰るか」
「にゃあ。羽山君、ゴチ」
 こらっ!
「にゃあ?美奈子ちゃん、払ってくれる?」

 羽山君、ごちそうさまです。







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最終更新日  2010.07.31 12:19:21
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