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そんなハジメのつぶやきなど聞こえもしない西岡は、2mを越す身長、男性でも後ろに回れば隠れてしまう体格に不似合いなこの店のトレイを二つ、これ以上は乗せられない程乗せてハジメの席へ戻って来ようとしているが、また周囲の客に迷惑を掛けている。「まったくここは狭いから動きにくいっすよ…でも食べ放題なのにここは美味いんっすよ」山と積まれたトレイを見ながら閉口しつつハジメが訊いた「西岡くん、相変わらず凄い量を食べるねぇ…」感心しつつ本題に入ろうとした矢先に西岡が叫んだ!!「あぁ!デザート取り忘れたぁ!」隣の椅子を倒しながら立ちあがった西岡は、漫画ならドドドっと擬音が付きそうな勢いでデザートコーナーへ向かって行った。ハジメのテーブルに戻って来た西岡のトレイにはチョコレートや白砂糖がたっぶりと塗ってあるドーナツを20個は置いてある。「おいおい、又太るぞ!一体いま何キロあるんだよ」「190っす…でも先輩、ウチは体重制限ある仕事じゃないんで大丈夫っすよ」何を言っても無駄だと悟ったハジメは本題に入ろうとした。西岡は食べる事が至福の時のようにニンマリと笑顔を浮べた後トレイ毎食べるかのようにガブ付き始めている。「食べながらで良いよ、帝日の件では何も動いてないんだな?」クチャクチャと口の中には一体何が入っているのか判らないほど積め込んだ西岡は、水と共に流し込んで答えた。「ウチでは何も聞いてないそうっす。もちろんゴシップも…で、先輩帝日に何かあったんすか?」「いや…まぁな…とにかく例の物は持ってきてくれたのかい?」「えぇ、ウチも一応トップ連中の動向はつかんでますから…社員情報なんて何に使うんすか?」厚さ5cmはあろうかというファイルの入ったバインダーをハジメに渡しながら西岡は、すでに一つ目のトレイを完食していた。「まぁな、参考程度だよ。」「探偵してらっしゃるって事は浮気捜査っすか?」ハジメは目の前の食料が次々と消えて行くさまをみながら「ま、そんなトコだよ」「先輩、ウチのネタになるような事だったら連絡下さいよぉ」「わかったわかった」西岡の肩をポンと叩いて席を立ちながら「しかし総会屋の稼ぎになるような情報はしがない探偵には縁がねぇよ、」「先輩!ここの払いはぁ?」突如席を立つハジメに懇願するような目で西岡が聞いている。「あぁ!それも貸しといてくれよ」言いながらハジメは店を出て行った。残された西岡は、あきれたような表情を一瞬浮べたが、目の前のドーナツを一つづつ手に取るとまた至福の表情に変わり口へ積め込み始めた。
2003年09月21日
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まだ夏を思わせる太陽がアスファルトやその上を走る車のタイヤを焦がしている匂いが立ち込める昼時、ハジメは都庁近くのレストランに居た。ファーストフードを思わせる簡単なメニューが並ぶセルフサービスの店でカプチーノをすすりながら、入り口に入って来た人物が自分の相手かどうかをボンヤリと眺めていた。突如入り口から距離感を狂わせるような人物がノソッと現れた。その大柄な男は視界にハジメを認めると真っ直ぐ向かって入って来ようとしている。よぉっ!と手を上げかけたハジメは、その大柄な男が狭いテーブルとテーブルの間をアチコチの客に迷惑を掛けながら歩いて来るのをあきれたように見つづけるしかなかった。「ニノマエ先輩!お久しぶりであります」律儀に挨拶をする男の溢れんばかりの汗がハジメのカプチーノに滴り落ちそうである。「呼び出してすまんな、西岡くん」西岡と呼ばれた大男は白いハンカチをズボンの後ポケットから取り出すと汗をぬぐった。「ここは大好きなんですけど通路が狭いっすよねぇ…椅子も小さいし…とりあえず注文して来るんでちょっと待ってて下さい」文句を言いながら座ろうともせず、西岡はまたあちこちの客の椅子やテーブルにぶつかりつつ、他の客にもぶつかりながらカウンターの方へ向かって行った。「お前がデカ過ぎんだよ」ハジメはあきれたようにつぶやきながらその様子を見ていた。
2003年09月17日
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小山内の事を想いだしながらハジメは秋山が残した封筒の中にあった調査書を読んでいた。調査対象は橋田浩二、43歳、離婚歴2回、大手映画会社「大映」専属のプロデューサーで邦画の中ではヒットメーカーの異名を取るヤリ手であり、現在帝日物産がメインスポンサーとなっている「呪結-倫子-」の製作中となっている。打合せと称し何度も帝日を訪れているうちに、社長秘書と交際、現在秘書と共に失踪中となっていた。その文書の一番下に最終報告とあり、「可能性大」となっていた。「可能性?」ハジメは嫌な予感を感じながら報告書の最後のページをめくった。社長秘書の菊池麗子は翌日の会議の為に、帝日の最新開発商品であるラフランと言う名の繊維のサンプルとデータの入ったCDを社長から預けられていたが、翌朝橋田と共に失踪していた。つまり橋田が産業スパイである可能性が大きいというのだ。しかしライバル会社にはまだ情報が伝わった形跡がないらしい。「映画プロデューサーと繊維ねぇ…」ハジメは今は珍しくなった黒い電話のダイヤルを回した。
2003年09月16日
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座らされていた男はパンツ一枚で正座させられては居たがキッとした目線を小山内に返していた。「どうやらコイツはワシを裏切ろうとしていたので捕まえたんだが、穏便にすましてやろうと思ってね…今後一切ワシとは関係ない人生を送ると約束さえすればだが…」「申し訳ありませんが一体何があったのですか?」ハジメはその妙な光景に疑問を感じながら小山内に聞いた「詳しくは帰りの車の中で聞くと良い…ご苦労だった」ドアの外にいた屈強な男達が入ってくると正座させられている男の両脇をかかえ上げながらハジメに「下までお手伝い致します」と感情のない声で外に出るように言った。車の中に押し込められた男を後ろに見ながら運転席のハジメは事情を訊いた。男の名前は森浩美、22歳、親戚の紹介で小山内の事務所で働く為、栃木の片田舎から出てきたのだが、事務所ではなく小山内の愛人として囲われていたと言うのだ。「浩美と言う名前で女だと先入観を持っていたが…幹事長もアッチの方だったのが」警察官僚にはその手の性癖の人間を何人も見てきたハジメは思わずニヤリとした。浩美はその生活から逃げ出そうと小山内との痴態をビデオでこっそり録っておいて、いざという時の為に使おうと思っていたがそのカメラを気づかれて失敗したというのだ。月々もらっていた小遣いを使い込みとして訴えられム所に入るか、一切今後近づかない人生を送るかの選択を迫られ、警察を呼ばれたと言うのだ。「で、俺が呼ばれたというわけか…」心の中で舌打ちをしながらハジメは浩美に言った「政治家なんてのは色を好むのがウヨウヨいるんだ。君が週刊誌や新聞に駆け込んだ所で一切記事は表に出ないよ。コンチクショウの3人も出来てたくらいだから」「コンチクショウって金田前幹事長、竹原総理、小田官房長官ですか」「そうさ、清濁併せ呑むのが政治家だと信じ込んでいるのが多いからね…俺としては君を逮捕する気は全くないが上が圧力掛けられれば白を黒に出来るからねぇ警察は…どうする?」「頼まれたってアイツの近くには行かないですよ」「だろうな」ハジメは全くムダな使いを頼まれたもんだと想いながら車を出した。「で、どこまで送ろうか?」「え?警察署に行かないんですか?」「あぁ、単なる脅しの役だよ、俺は。それに所轄の人間じゃないしね。所轄に行くと面倒なんだよ。まぁ君が近づかないと約束したんだから放免さ」ガードマンから渡された服を浩美に渡しながらハジメは「田舎に帰るんだから上野かな?」と想いながらハンドルを切っていた。すばやく服を着た浩美が言った「あのーじゃぁこのヘンで降ろしてもらって良いですか?」「ん?田舎に帰るんじゃないのかね?」「田舎に帰ってもやる事ないし新宿に友達がいるんでここから歩いて行きたいのですが…」「わかった」ハジメはこんな事から早く手を引きたいと思っていたので内心喜んで車を路肩へ止めた。「それじゃぁ失礼します」浩美がトボトボと車から離れるのを確認したハジメは車を走らせた。
2003年09月15日
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数年前、ハジメが警視庁勤務時代、護衛警備をしていた相手がその頃の民自党幹事長、小山内隆三である。キャリア組から政界へ進出し、与党の幹事長まで上り詰めた小山内はハジメ達にとっては偉大なる先輩である。「ニノミヤ君!」結局最後まで名前を間違って覚えたままだったが、なぜか小山内はハジメを気に入っていたようだった。ある日、小山内はお忍びで外出と言いハジメら警備を巻いて姿を消した。その失態を叱責された直後に携帯がなった。「ニノミヤ君!至急こちらへ来てくれんか?」小山内からの連絡である。「幹事長!ご無事ですね!今どちら…」ハジメの質問を塞ぐように小山内は「良いか?他には連れて来るな!新大久保の部屋へ来い!」「え?しかし上へ報告しませんと…」「ブァッカモォーン!ワシが良いと言ったら良いんだ!塚田にはワシが今から電話を入れる!とにかくすぐだぞ!」塚田とはハジメの直属の上司である。言い終わるや否や電話は切れた。塚田の部屋へ向かったハジメは部屋へ入るなり塚田に手払いされた。うなずきながら「行って来い」という仕草である。新大久保の部屋はリストに上っていたので場所は知っていた。そのマンションの入口のはオートロックである。部屋番号を入力しインターフォンを押す「ニノマエであります」自動ドアーが返事の代わりとばかりに開いた。最上階の小山内の部屋は1フロアーである。小山内の私的ガードマンが立っていた。「ご苦労様です。幹事長がお待ちです。どうぞ」無愛想な男どもに通され中に入ったハジメをドッカと高級そうな黒ソファーに座った小山内が見た。その横に男が床に座らされている。「悪いがニノミヤくん。この男を頼みたいんだが…」落ち着き払った声で小山内が切り出した。
2003年09月03日
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「きゃ 客ぅ?」使い込んだ足掛け付カウチソファーから立ち上がったハジメは慌しく接客用と思われるテーブルへ銀縁メガネの男を案内した。「で、ご用件は?」「私はこういう者ですが…」ボサボサの髪、手入れのしてない髭のハジメを訝しく見下ろしながら、立ったまま男は差し出した【帝日物産 社長室長 秋山 長明】ハジメがその名刺を見ている間に、秋山は茶封筒をテーブルへ置き中から写真を取り出して見せながら入り口に立っている「涼子」に無言で合図した。「じゃぁイチイっちゃん!ワタシ店の買出しがあるからぁ!」昔のブリッ娘アイドルの歌と思われるハミングをしながら「涼子」が部屋を出て行くのを確認すると秋山はハジメへ口を開いた。「この人物を探して欲しいのですが」「この人が…なにか?」「詳しい事はこの調査報告書に書いてあります。」ハジメは茶封筒に目をやった。調査報告と書いてある表面の下部に【帝日リサーチ】と印刷されている。秋山はそれをハジメが見たのを確認すると「この報告書は我が社の調査部で作成しました。がどうしても外部の、しかも安全な方に依頼をさせよ というのが我が社のトップの意向です。」「という事はどなたかのご紹介かなにかでウチへ?」「民自党の前幹事長です。」「なるほど…」ハジメが頭の中でその政治家を想い出してると「それでは私は失礼致します」と秋山が席を立った。「ちょっと待って下さいよぉ、まだお受けするかどうかも返事してませんし…」「先ほども申し上げましたが、詳しくは調査報告書にあります。活動費用として中に小切手帳が入ってますので…必要経費分はそちらで現金化してください。」秋山はこんな部屋には居られないとばかりにそそくさと出ていった。残されたハジメは茶封筒をヒックリ返し中身を確認しながら、軽く溜息をつき、言った。「あの古狸か…」
2003年09月02日
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