2015/02/05
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レティシアは伯父ジークムント公の謀叛を誘発して拘束することに成功するが、王都への帰路で襲撃を受け、負傷してしまう。
レティシアと彼女を護衛するユベールを救ったのは、国外の駐留地から駆け付けたアルブレヒトであった。
しかしアルブレヒトはユベールを捕え、グストーの追放に助力するよう迫る。

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グストーは窓ガラスに当たってしたたり落ちる雨の水滴を凝視している。
既にジークムント公爵の一派はアルブレヒト指揮下の軍勢に北方へと封じ込められ、組織だった反撃もできない状態にある。
対外的には、フライハルトの内乱は鎮静化したように見えるだろう。
しかし、王都の守備を固める近衛兵の統帥権はアルブレヒトに移り、その他には非軍属のクロイツァー家などが招集した私兵がわずかに駐留するのみ。
皮肉なことに、グストーが進めてきた軍政改革――軍の中枢を貴族たちの私兵と傭兵から、徴兵による王家直属の部隊へ移行させたこと――によって、アルブレヒトはグストーを凌駕する力を手中に収めたのだった。
「あらかたの軍事物資は引き渡しましたが、ご指示通り可動式砲門は残せました。」
上着に付いた雫を手袋で払いながら入室したのは、財務を預かるノルベルト・クロイツァー長官である。
「この大雨が幸いしたな。」
いまだ未整備な箇所の多いフライハルトの街道、しかも雨にぬかるんだ道で、砲門を移動させるのは大変骨の折れる仕事だ。
とはいえ、女王の名代としてのアルブレヒトの命令で王都の軍備は着々と解体され、グストーは無防備な王宮になかば軟禁されているようなものであった。
「はぁ・・・兄貴の奴、どうしようってんだか・・・」
レオンアルトは嘆息して頭をかかえている。
「黒獅子がついに牙をむいたか。あれにしては大胆な手に出たものだ。」
乾いた笑みを浮かべたのはグストーである。
ジークムント公爵という長年の懸念事項があらかた解決し、軍の統帥権も得たいま、アルブレヒトはグストーを追い落とす好機を逃すつもりはないらしい。
「マスター、俺たち・・・」
「まぁ、座して待つこともあるまい。」


*             *             *

女王を擁するアルブレヒトの城は、外周は王都から参集した兵で賑わい、武器や糧秣がひっきりなしに運び込まれている。
城内では騎士たちが議場に集い、宰相に退任を迫る手はずを粛々と進めていた。
ジークムント公の反乱を招き女王を窮地に追いやったこと。
渦中の王室裁判で再浮上した、エグモント公の暗殺疑惑――名目なら幾つもある。
一方でレティシアは、まどろみとわずかな覚醒を繰り返す日々を過ごしている。
「陛下、お薬の時間ですよ。」
女主人の半身を起してやりながら、イルゼが言う。
状態は安定してきたものの、まだ僅かな動作も苦痛であった。
「・・・飲みたくない。」
聞き分けのない子をなだめるような顔をしたイルゼから、レティシアは視線をそらした。
その薬を飲むと痛みはよく消えるが、全身が重く意識も曖昧になってしまう。
アルブレヒトにイルゼ、フォルクマール・・・頼みに思える人々に囲まれているのに、この違和感はなんであろう。
いつ王都に戻り、政務につけるのだろう。
グストーや重臣たちは使者すら寄こして来ないのか、そして、ユベールは・・・?
日に一度は訪れるアルブレヒトに尋ねても、体の回復を第一にと、はぐらかされてしまう。
もつれる思考の中で、疑念が色濃くなっていく。

「陛下、アルブレヒト様から・・・まぁ、綺麗ですわ。」
部屋に一抱えはある花束が届けられ、イルゼが顔を寄せて芳香を楽しんでいる。
「春とはいえ、この混乱の中で陛下のお好みの花を揃えるなんて。」
女王が扉に目をやると、届け物を運んできた娘が物言いたげに見つめている。
「イルゼ・・・早速、花を活けて頂戴。それと、体も拭きたいわ。お湯の用意を。」
侍女が支度部屋に下がった隙に、レティシアは娘を枕元に呼び寄せた。
「あなた・・・ティアナね?」
こくりと頷いた瞳は、緊張に揺れている。
「陛下・・・お伝えしたいことが・・・・」
彼女の口から、レティシアは初めてユベールが拘束されていることを聞かされたのだった。
驚きのあまり言葉さえ出ない。
彼が顔を見せないのは、怪我の具合がよくないのかと気をもんでいたのだ。
「私のせいです。イタリアでヴァレリーたちに助けられたと、アルブレヒト様に伝えてしまったから、ローレンツ様も宰相殿と手を結んだのだと誤解を受けて。」
ティアナの双眸から、今にも涙がこぼれ落ちそうになる。
彼女は黒獅子の騎士への敬愛と、ユベールから受けた恩義の間で身動きできずにいるのだ。
「ティアナ・・・いいのよ。」
女王はうなだれるティアナの背を撫でた。
「あなたは自分の務めを果たしたに過ぎない。よく私に打ち明けてくれました。」
イルゼが戻ってくる気配に、彼女は一層声をひそめて言う。
「もう行って・・・でも覚えていて。この城でユベールの力になれるのは、あなただけ。」


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Last updated  2015/02/05 11:19:15 PM
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