2015/03/28
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間章 友として 

「婦人は布と裁縫道具を持って、教会に集まるように――」
ザンクトブルク城下に奇妙な触れが出され、ロイ・コルネールの屋敷でも女性たちが対応に追われていた。
「布をあるだけ用意してね。侍女や領民の分も・・・足らないならシーツもはがして。」
指示する奥方エリーゼの隣では、二カ月前に生まれたばかりの愛らしい女の子が乳母に抱かれて眠っている。
身支度を始めたエリーゼを、侍従が慌てて止めようとする。

「まさか、奥様みずから行かれずとも・・・」
「何を言うの、ベンノ。こんな時こそ、私たちが先頭に立って行動しなければ。ザンクトブルクのために、ユベールさんをお助けするのです。」
侍従のベンノは、やれやれと溜息をついた。
普段はおっとりしたご性質なのに、いざとなると奥方は旦那様よりよほど勇ましい。

教会に集合した女たちが縫い始めたのは、兵士たちの食料を小分けして携帯するための糧秣袋だった。
通常、部隊が進軍する際には、拠点と戦場を結ぶ補給路を確保しなければならない。
野戦で勝利しても、撤退した敵を深追いすれば補給が断たれて自滅してしまうし、補給用の拠点に戻る合間に敵も体勢を立て直してしまう。
しかし騎馬隊や竜騎兵隊が遠征用の食料をみずから輸送できれば、兵站(へいたん)の概念を無視して敵を強襲することも可能になる。

「昔ながらの、というやつですな。」
アドルフ・ギーゼン少尉が首をひねりながら言う。
「そうだ・・・かつてトルコやヨーロッパを征服した、草原の民の手法。」
ユベールは副官に後を任せ、城壁からせり出した物見塔の階段を登る。
北方から援軍を回される前に、アルブレヒトの拠点に迫らなければならない。
これまでの勝利は、前哨戦に過ぎないのだから。

塔の最上階に上がると、城下の遥か先まで一望することができた。
緑の稜線となって広がる森、青い水面(みなも)をきらめかせる湖沼たち、全身に吹き渡る風の香り・・・
研ぎ澄まされていく感覚に身を委ねようとしたユベールに、誰かが声をかけた。

「もう屋根によじ登ろうなんて、よしてくれよな!」
「・・・ロイ・・・・」
振り返ると、ロイ・コルネールがきまり悪そうに横を向いて立っていた。
「お前が塔に上がっていくのが見えたから、その、少し気にかかってさ・・・」
ユベールはしばらく言葉を探したが、何を言えばよいか分からなかった。
「・・・大丈夫だよ。昔みたいな無茶はしない。」
ユベールがザンクトブルクに戻って以来、彼はあまりに軍務に追い立てられており、ロイには面会を申し込む勇気もなかった。
イタリアでユベールの命令に背いたことも、まだ謝罪していないのだから。

「そうか、そうだよな。もう6年前とは違う・・・」
唇をかんだロイは、うつむくと上着から白い綿布を取り出した。
「エリーゼが縫ったものだ・・・お前に使ってほしいって。あいつ、ああ見えて器用だから上等にできてると思う。」
「ロイ・・・ありがとう。大切にするよ。」
ユベールは大事そうに受け取って、しばらくそれに視線を落としていたが、やがて再び塔からの景色に目をやった。
「僕が君と出会ったばかりの頃、ここからの眺めはよそよそしかった。故郷のはずなのに、僕には何のつながりも感じられなかった。でも、今は違う・・・僕はこの国で沢山のものを得て、愛して・・・ロイ、君も大切な“つながり”なんだ。」
ユベールの黄金色の瞳が、やわらかな光をたたえてロイをとらえる。
「君がザンクトブルクの城門で、僕を弁護してくれたこと・・・心から感謝してる。僕には素晴らしい友がいるんだと、とても誇らしかった。だから、そんな――」
ユベールの伸ばした手が、ロイの右肩に触れる。
「そんな申し訳なさそうな顔、君にしてほしくないんだ。」
「・・・っ」
ロイの顔が歪み、次の瞬間ユベールは彼に抱きしめられていた。
「ユベール、俺・・・っ」
伝えたいことが沢山あるのに、こみあげる嗚咽(おえつ)で言葉にならない。
ユベールは友人の背を優しく撫でる。

「・・・俺・・・お前のようには戦えないけど」
やっとの思いでロイは口を開いた。
「でも、この城で、お前が帰ってくる場所を守るから・・・戻れよ。陛下を救い出して、ちゃんとここに戻ってくれよ。」
「・・・約束するよ、ロイ。ここに君がいてくれれば、僕はザンクトブルクのためにも勝とうと、強い気持ちでいられるから。」
微笑んだユベールは、しっかりと親友の手を握りしめた。


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Last updated  2015/03/29 04:46:54 AM
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