音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2010年02月14日
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 ソープ・オペラ(石鹸歌劇)というのは、主に石鹸メーカーがスポンサーを務める昼間のテレビ・メロドラマを指す。日本の昼のメロドラマもそういえば石鹸や洗剤メーカーがスポンサーだったっけ…。そんな“昼ドラ”仕立てのコンセプト・アルバムで、リヴァプールのテレビ局の企画とタイアップで生まれたのが、ザ・キンクス(The Kinks)中期の隠れた名作『ソープ・オペラ(石鹸歌劇) ~連続メロドラマ“虹いろの夢”(A Soap Opera)』(1975年)である。

 ストーリーの主人公は、ラッシュアワーの中を通勤し、9時から5時まで働き、一日の仕事の後は一杯やってるサラリーマン(その名をノーマンという)。そんな彼が妄想を抱き、自分自身は平凡な一般人の日常を演じているスターだと思いこむというものだ。ロンドン郊外での妻との生活は、ロック・スターがアルバム制作の準備のための非現実だと信じ、妄想の世界が止まらなくなっていく。しかし、最後には妻から冷たい現実を突きつけられ、日常の“本当の”世界へ引き戻される。

 そういえば、世界的に見て、イギリス人は勤勉だと言われる。そしてまた、日本人も同じく勤勉な国民とされる。ラッシュアワーで人にもまれて出勤し、(定時退社はともかく)終わった後はちょっと一杯、その生活が毎日続いていく…という状況は“ニッポンのサラリーマン”には受け入れやすい状況設定だろう。話が少し横道にそれるが、現在のニッポンは病んでいる。社会がどうも年々ヒステリックでおかしな方向に向かっているような危惧を抱いているのは筆者だけじゃないはずだ。自己中心的で自信過剰な人間があふれ、どうも方向性を失っている社会…。そんな現在を起点に考えると、70年代半ばにザ・キンクスが描き出した本盤のストーリーは、21世紀を迎えた日本社会から見てもどこか共感できる物語のような気がする。

 本作『ソープ・オペラ』は、残念なことに、ずっと過小評価を受けてきた。全体を通しても楽しめれば、曲単位で優れたものも複数含まれていて、なかなかの名盤と思うのだが、再評価の気配もあまりなく、ずっと“裏名盤”とでも言うべき地位に甘んじている。けれども、上で述べたように、現代的リアリティを含む、ある種、親しみやすいストーリーである上、音楽的にもヴァラエティに富んでいてとっつきやすい。ストーリー(曲の間でセリフもはさみながら進行する)は歌詞カードとにらめっこでもするしかないかもしれないが、音自体は、全体的にわかりやすくてポップな要素が適度に散りばめられているのがよい。無理に通して聴かなくとも、曲単位で単独で楽しめるナンバーも多い。そのような観点から筆者の好みで何曲かピックアップすると、次の各曲が特におすすめである。

 まずは、オープニング・ナンバーの1.「きみもスタアだ(スターメイカー)」。とにかく出だしからギターのリフが見事にキマっていて、ポップで聴きやすい部分を残しながらもタイトに仕上げている佳曲である。4.「9時から5時まで」は、日々の労働生活は何と退屈なものか、というテーマそのままの、サラリーマンの哀愁を誘うナンバーで、曲調も実に哀愁に満ちたもの。

 哀愁と言えば、はずせないのが、本作いちばんの聴きどころ(と筆者が思う)7.「ネオンのまぶしさ」である。この曲の原題(Underneath the Neon Sign)は、直訳すれば「ネオン・サインの下で」の意。仕事を終えて飲みに行ったあとにふと自分が何者かを考える男の哀愁に満ちたナンバーで、個人的には、「セルロイドの英雄」(1972年の 『この世はすべてショービジネス』 に収録)と並ぶ、哀愁漂う名曲だと思う。同じ路線では、11.「群衆のなかの顔」もなかなかいい。パイ後期からRCA所属期にかけて、キンクスはコンセプト・アルバムをひたすら出し続けたわけだが、その時代のキンクスを好きになるか否かは、案外、この手のノスタルジックな曲の好き嫌いによるという気がしている。

 最後に、アルバムを締めくくる12.「ロックよ永遠なれ」。原題は「You Can’t Stop the Music(君は音楽を止められない)」というものだが、アコースティックな出だしから始まって、次第にポップに盛り上げていき、キメのギター・ソロがカッコいい。余談ながら、80年代の映画『E.T.』を先取りしたような ジャケット




[収録曲]

1. Everybody’s a Star (Starmaker)
2. Ordinary People
3. Rush Hour Blues
4. Nine to Five
5. When Work Is Over
6. Have Another Drink
7. Underneath the Neon Sign
8. Holiday Romance
9. You Make It All Worthwhile
10. Ducks on the Hill

12. You Can’t Stop the Music

~以下、現行CD(『~+4』)所収のボーナス・トラック~
13. Everybody’s a Star (Starmaker) [mono mix]
14. Ordinary People [live]
15. You Make It All Worthwhile [live]


1975年リリース。





ソープ・オペラ(石鹸歌劇)~連続メロドラマ“虹いろの夢" +4/ザ・キンクス[SHM-CD]【返品種別A】





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Last updated  2016年01月28日 21時30分42秒 コメント(1) | コメントを書く
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